第九十六話「主婦たちの手助け」
「この家は今は誰も住んでないから、いくらでもここを使っていいからな!」
村に泊まることが決まってから、ビーガルに住む場所を案内された。
小さめの石造りの建物だ。
中は一室だけになっており、簡素なベッドが一つと小さめのタンスが置かれていた。
後は使われていない暖炉と調理場が埃をかぶっているくらい。
「少し汚いが、掃除をすれば使えるし、なんなら好き勝手改造してくれてもいいぞ!」
「改造はしないけど、ありがたく使わせてもらうよ」
そしてビーガルはまだ仕事が残っているらしく、自分の家に帰っていく。
残されたのは俺とジン君とウチェット。
「掃除、手伝いたいけど、ちょっと僕には厳しいかも……」
部屋の中の様子を見ながらジン君は申し訳なさそうに言った。
俺は慌てて首を振ると言う。
「いや、気にすんなって! ここまで連れてきてくれただけで助かったから」
「そう? それなら良かった。じゃあ僕はウチェットを森に連れて行ってくるね」
そうしてジン君も部屋を出て行く。
さて、掃除を始めようと袖をまくって、ようやく掃除道具がないことに気がついた。
「……どうすっか」
少し部屋の中を探してみるが、それらしきものはやっぱりない。
俺は諦めてビーガルに掃除道具を借りに行こうとする。
そうして俺も部屋を出ようとして、いきなりバンッと扉が開き、魔族のおばさん4人組が入ってきた。
細眼鏡でガリガリのおばさん一人に、恰幅のいいおばさん3人が続く。
「ここですか、ビーガルが掃除をしてこいと言っていた家は」
細眼鏡のおばさんがくいっと眼鏡を押し上げ、そう言った。
それに恰幅のいいおばさん3人が続けて話す。
「そうね! 多分ここだと思うわ! 間違いない!」
「アンタがいつも確認せずに肯定するせいで、余計な手間が増えるのよ! もう少し考えて行動なさい!」
「そうよそうよ! 全く関係のないところを掃除をしてしまうなんて経験は、もうごめんだわ!」
俺は思わず呆気に取られる。
しかし細眼鏡のおばさんが俺に気がつき、尋ねてきた。
「もしかして貴方、今日からこの村に泊まるつもりですか?」
「え、ええ、そうですけど……」
その問いに俺が頷くと、恰幅のいいおばさん3人がまた話し出す。
「ほら、やっぱり合ってたじゃない! 謝りなさいよ!」
「それは今までの自分の発言を顧みてから言いなさいよ!」
「そうよそうよ! 大体いつもアンタはねぇ――」
騒がしくなり始めた恰幅のいいおばさんたちは放っておいて、細眼鏡のおばさんに話しかける。
「ええと、貴女たちは一体……?」
「私はビーガルの妻です。彼からここに客人が泊まるから掃除してこいと言われました」
確かによく見れば彼女たちの手には掃除道具が握られている。
「おおっ、それは助かります。一人だと時間がかかりそうだったので」
「ふむ、それでは日が暮れる前に始めましょう」
細眼鏡のおばさんはそう言うと、パンパンと手を叩いた。
それで言い合いをやめた恰幅のいいおばさんたちは、各々掃除道具を手に整列した。
「それでは、これより掃除を始めます。丁寧に行うように」
そうして細眼鏡のおばさんの合図で、部屋の掃除が始まった。
彼女たちが手伝ってくれたおかげで掃除は一時間もかからずに終わり、日が暮れずに済むのだった。




