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【web版】拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた。  作者: AteRa
第八章:魔族の国・ネーシス王国編

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第九十四話「魔族の少年」

「こんな道なら横着せずに普通の道を選ぶべきだった……」


 俺は一人で魔族領に入り、王都に向かって進んでいた。

 最初に辿り着いた街で山沿いに行けばショートカットができることを聞き、俺は意気揚々とショートカットの道に来たのだが……。

 かなりの断崖絶壁をギリギリのところで歩く。

 今にも崩れ落ちそうな道が崖沿いに延々と続いていた。


「遠くで飛竜も飛んでるし、見つかったら絶体絶命だな」


 まあ、かといって足を速めれば崖下に落ちるかもしれないし、天に祈りを捧げ続けるしかない。

 しかしこういうときほど、天は俺たちを見ていないものだ。

 おそらくタイミング悪く、お茶でもしていたのだろう。

 上空を、獲物を探すように旋回していた飛竜は、とうとう俺のことを見つけてしまった。


「ギュォオオオオォオオオオオ!」


 雄叫びを上げ、こちらに急降下してくる。

 クソッ、まずい。

 逃げ場がないぞ。

 キョロキョロと辺りを見渡すが、逃げられそうな場所はやっぱりない。


 飛竜に食われるか、崖下に落ちるか。

 どっちも死にそうだが……。

 俺はものすごい勢いで迫ってくる飛竜を前に、飛び降りる選択肢を取った。

 やっぱり食われるのだけは嫌だ。


「うわぁあああああぁあああああ!」


 自由落下で内臓が宙に浮く感覚を覚えながら、崖下までものすごい勢いで近づく。

 上を見ると、襲ってきていた飛竜は崖にぶつかり、頭がハマってしまって動けなさそうだった。


 しかしここまでか。


 俺は諦めの感情とともに目を瞑る。

 そのまま地面に思い切り打ち付けられ——ずに、なにか柔らかいものにぶつかった。


「……ん?」


 なんだろうと思って首を傾げ、目を開く。

 そして俺を支えている柔らかいものを見ると、それはモフモフの巨大ウサギだった。


 どうやらこいつが俺の下敷きになってくれたらしい。

 ありがとう、助かった、の意を込めて、ポンポンとそいつの頭を叩いてやる。

 するとウサギは身体を揺すって俺を振り下ろした。


 目が合う。

 少しの間、見つめ合う。

 なんだか、ウサギの目は、怒りに燃えているように見えた。


「ピュギュゥウウウウウウウウゥウ!」

「うわぁあああああぁああ! すまんって!」


 襲いかかってくる巨大ウサギ。

 その跳び蹴りを慌てて避けると、俺は全力で森の方へ逃げ出す。

 しかし巨大ウサギの悪路を走る速度は尋常じゃなかった。


「速すぎ、速すぎ! 追いつかれちゃうって!」


 全力で走っているはずなのに、徐々に距離が縮まっていっている。

 そして最終的に、俺は巨大ウサギの跳び蹴りを食らって地面に倒れ伏した。


 ジリジリとにじり寄ってくる巨大ウサギ。

 これは戦うしか道がないのか。

 そう思っていると、木々の陰から線の細い少年が現れる。

 紫色の肌を持ってるから、おそらく魔族なのだろう。

 まあ魔族領なのだから当たり前か。


 彼は俺たちの様子を見ると、キョトンと首を傾げた。


「あれ? ウチェット、なにしてるの?」


 ウチェット?

 このウサギの名前だろうか?


「ぴぎゅぴぎゅ」

「ふんふん」

「ぴぎゅぴぎゅ」

「ふんふん」


 その少年と巨大ウサギはなんだか話し合っているようだ。

 あれで会話は成立しているのだろうか?

 そう不思議に眺めていると、ふと少年が声をかけてきた。


「あの……ウチェットにいきなり襲いかかったってホント?」

「うっ……そのつもりはなかったんだが、実際そうなってるよな。すまんかった」


 俺は頭を下げる。

 しかしウチェットはふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「そのつもりはなかったって、じゃあどうしてそうなったの?」


 そう尋ねてくる少年に、俺はさっきの経緯を説明する。

 すると少年はなるほどと頷いて言った。


「そっか。それじゃあ確かに仕方ないね。ウチェット、謝ってもらったんだし、許してあげたら?」

「ぴぎゅ!」


 少年の言葉に、巨大ウサギ——もといウチェットが前片足を差し出してきた。

 俺はそれを握り、仲直りが成立する。


「うんうん、仲直りできてよかった」


 少年は満足そうに頷くと、今度は俺に尋ねてくる。


「それで、おじさんはどうして崖なんて歩いてたの?」

「ああ、酒場で王都へのショートカットになってるって聞いてね」

「……ショートカット? ああ、多分それ、騙されてるよ」


 やっぱりかぁ……。

 途中からそうなんじゃないかと思ってたんだ。


「まあ魔族は良くも悪くも実力主義だからね。人族だから舐められてたんじゃない?」


 随分とはっきり言う。

 このくらいはっきり言ってくれた方が、わかりやすくて助かるけど。


「う〜ん、これからどうするか」


 俺は腕を組み悩みながら空を見上げる。

 そろそろ日が暮れてきて、空が赤く染まり始めていた。


「それじゃあ僕の村においでよ。大したものはないけど、みんな優しいし」

「ホントか!? それは助かる!」


 俺はこうして少年——ジンの好意に甘え、村の方に向かうのだった。

 ちなみにウチェットは仲直りしてから馴れ馴れしくなり、鬱陶しいくらいに絡んでくるようになった。

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