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【web版】拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた。  作者: AteRa
第七章:ドワーフの国・ガンジア王国編

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第九十三話「鍛冶師アレバの最期」

「聖剣……は……」


 目を覚ましたアレバさんは一番最初にそう口にした。

 慌ててアカネが鍛冶場に取りに行き、アレバさんに見せる。


「そうか……あれは夢ではなかったのか……」


 そう呟きながら、彼の頬には涙が伝う。

 そんな彼の傍にアカネが近づいていった。


「アレバさん。これでご恩は返せたでしょうか?」

「……十分すぎるくらいだな」


 アカネの問いにぶっきらぼうに答えるアレバさん。

 しかし彼の表情は穏やかだった。

 そして力の入らない手で【聖剣ジジニシア】の剣身を撫でる。


「すまない、ユカリ、カナエ……。こんなもののために、二人が犠牲になって……」


 おそらくその名前は亡くなってしまった妻と娘の名前なのだろう。

 さらにアレバさんは、弱々しく言葉を続ける。


「バレル。お前はこんなもののために、あんな罪を犯したんだぞ……。自分の命すらも追い込んで。なあ、この剣がそんなに崇高なものに見えるか……?」


 誰に聞かせるでもなく、淡々とアレバさんは言葉を紡いだ。

 しかしその後、俺たちに視線を向けると、こう言った。


「一つ、最期にお願いがある。俺が死んだら、この剣を粉々に叩き割って俺の墓に入れてくれないか?」

「……分かりました。任せてください」


 アレバさんのお願いにアカネがしっかりと頷く。

 それを見たアレバさんは満足したように頷いて、こう言った。


「ありがとう。お礼に俺の作った最高傑作を渡そう。といっても、武器ではないがな。鍛冶場の棚の中に赤い石が入っているはずだ。あれは【魔力発信機】といって、他人の魔力を登録しておけば、遠く離れていても方角が分かる、って代物だ」


 そう言うと、彼はふうっとため息を吐いた。


「それじゃあ、俺は眠ることにするよ。最期にこうして囲まれながら眠れて、俺は幸せなのかもな」


 アレバさんは、目をつぶった。

 呼吸が徐々に浅くなっていく。

 医者の方を向くと、彼はゆっくりと首を横に振った。


 こうして、長く苦しかった人生が一つ、ひっそりと幕を閉じたのだった。



   ***



 俺たちは言われたとおり、聖剣を粉々に砕いて、アレバさんの墓に入れた。

 彼の人生は、最初から最後まで【聖剣】というものに囚われ続けていた。

 確かにそれは、完成すれば、人類の夢となり、希望となり得るものだったかもしれない。

 だが彼の人生は果たして幸せだったのだろうか?


 分からない。

 分からないが、夢を追うことが、信念を貫くことが、幸せにならない人もいる、ということを知った。

 この歳にもなってそんな教訓を得るとは思ってもいなかった。



 ——その剣は誰が為に。



 俺はベアから受け継いだこの教えをずっと守って生きてきた。

 今までは迷いもなく、この信念を貫けた。

 しかし今回の出来事で、心の奥底に少し迷いが生じてしまった気がする。


 果たしてそれを貫くことは、自分や他人を幸せにすることなのだろうか——?


 分からない。

 分からなくなった。


 ……。

 …………。


「それじゃあ、俺はこっちに行くから」

「うん、また後で! 私たちはこっちだよね!」

「ニーナ、私たちはこっちですよ」


 俺、ルインとナナ、ニーナとアカネ、の三グループに分かれて行動し、アーシャ、ルルネ、ミアを探すこととなった。

 アレバさんからもらった発信機があれば、いつでも居場所が分かるから、手分けした方が効率がいいってことになったのだ。


 そして別々の道に歩き出す。

 俺は一人、魔族領に向かってひたすら歩くのだった。

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