第八十五話「久しぶりの強敵」
「……なかなかやるな。貴様、何者だ?」
魔族は俺に向かって無造作に剣を振りながら尋ねてきた。
彼の攻撃に体系はない。
しかし圧倒的な魔力量と魔力効率があり、そもそも技を鍛える必要がなかったのだろう。
「何者でも……いいだろ! 今分かればいいのは俺とお前が殺し合っていることだ!」
そう返しながら俺は振るわれる剣をなんとか弾いていく。
現状、俺の一方的な防戦になっている。
このままではマズイと思いながらも、超えていける未来が見えない。
「確かにな。貴様が何者だったとしても、ここで死ぬのだから関係ないか」
それに対して魔族は冷静だ。
以前より俺も数段強くなったと思っていたが、魔族の強さは桁違いだった。
前にデリアが言っていたけど、倒した魔王がただの雑魚だったってのも頷ける。
しかも魔族の攻撃が時間が経てば経つほど洗練化されてる気がするのだ。
間違いなく俺の行動の癖に適応してきている。
「これならどうだ」
そして魔族の放ったディレイ攻撃が俺の防御をすり抜けて思い切り横腹に当たる。
一応魔力で防御もしていたから致命傷にはならなかったが、完全に能力の差を見せつけられた。
「ふむ。これなら当たるか。ならもう終わりだな」
当てた感覚を確かめるように何度か剣を振りながら魔族は言う。
こうなったら仕方がない。
全力を出さないと死んでしまうなら、腰が重いが全力を出すしかない。
「――限界突破」
呟いた瞬間、圧縮された高濃度の魔力がバチバチと電撃を走らせていく。
俺の能力の全てが底上げされ、見えている世界が圧倒的に広がる。
「……ほう。なるほど。これはまた随分と面白いものを持っているな」
変化した俺の様子を見た魔族は感心した声を上げた。
それからようやくそこで口角を上げると、魔族は言う。
「やっと戦い甲斐がありそうだ。今までだと少しつまらな過ぎたからな」
「その余裕、いつまで持つかな」
俺は大口を叩いてそう言うが、限界突破の持続時間は精々三分だ。
それ以上限界突破し続けると身体の内側から崩壊していく。
だからこの戦いの決着は三分で決めなければ自動的に負けが確定する。
「さて、お手並み拝見だな」
魔族はそう言って地面を蹴り上げ、ものすごい速度で接近してくる。
しかし知覚が異常に鋭敏になっている俺には、その微かな筋肉の動きまで理解できる。
筋肉の動きが理解できれば、彼の次の動きも予測できるわけで――。
斬ッ!!
そう振り抜かれた魔族の直剣をギリギリで避けると、俺はカウンターで彼の腹に剣を叩き込んだ。
鈍い音とともに吹き飛ばされていく魔族。
彼は何度か地面を転がりながら、ようやくその勢いを止めた。
「……何が?」
魔族はいまだに理解できていないような困惑の声を上げる。
自分の攻撃が外れ、俺のカウンターをもらうなんて一切考えていなかったのだろう。
俺はその問いに答えることもせず、黙って地面を蹴り上げた。
時間は有限。
なら最短で魔族を倒さなければならない。
「チィ……!」
俺の攻撃が飛んでくるのを認知した彼は、慌てて飛びのこうとする。
しかしそれすらも予測していた俺は、その行動に合わせるように剣を振るった。
ドゴンッ!
一方的に吹き飛ばされる魔族。
このまま追い詰められればいいが……。
そう簡単には上手くいかないだろう。
そしてその読みはやはり当たっていたみたいで、魔族はゆっくりと立ち上がりパンパンと土を払った。
「なるほど。それなら敬意を込めて、こちらも本気を出すとしよう」
言った瞬間、魔族の魔力が一気に濃縮されていく。
原理は俺の『限界突破』と同じように思えたが、元の体格の差かそれとも技術力の違いか、無理をしているようには見えなかった。
「……これは、きついな」
「では行くぞ」
そして魔族は地面を蹴り上げて、俺に接近してくる。
このままでは絶対に負ける。
どうにかしなければならないが……全く打開策が思い浮かばないって時に、横から何者かが乱入してきた。
「アリゼさん。私と久々に共闘しようよ」
乱入してきたのはルイン。
彼女は俺の方を見て心底楽しそうにニコリと笑うのだった。




