第八十二話「ラミの子孫たち」
すいません!
第八十二話を書き換えさせていただきました!
魔族領の一番端、ドワーフの国の領地との境目辺りにその屋敷はあった。
ドリトスとラミが過ごした屋敷だ。
荷馬車に乗っているドリトスは到着したことを知り、少し残念そうな声を上げた。
「屋敷に着いたか……。しかしこの目で屋敷の姿を見られないのは少し悲しいな」
そのまま俺たちが近づいていくと、頭に小さなツノを持った魔族らしきメイドが近づいてくる。
「貴方たちはこの屋敷に何か用でしょうか? 招待状などはお持ちですか?」
その言葉に俺が代表して一歩前に出ると、メイドとの話し合いを目論む。
「招待状はないけど、彼は昔ここに住んでいたラミさんの元家庭教師で、ドリトスって言う人なんだ」
「……ドリトス様ですね。少々お待ちください」
そう言ってメイドは屋敷に戻っていった。
彼の名前が今になって通用するとは思えないが、現状繋がりはこれくらいしかない。
誰か覚えている人がいないか、その一縷の望みにかけるしかなかったわけだが――。
先程のメイドは十分ほどで戻ってくると、俺たちに言った。
「ドリトス様ですね。うちの当主に話は通してありますので、ご案内いたしますね」
「……ありがとう」
メイドの言葉に静かにお礼を言うドリトス。
そんな彼にどことなく優しげな表情を向けると、メイドは俺たちを屋敷に案内した。
「懐かしい匂いだ」
屋敷に入るとドリトスがそんなことを言う。
屋敷の匂いは変わっていないらしい。
それからしばらく廊下を歩いていると、小さな子供が駆け寄ってきた。
「レイカ! その人たちは誰だ!?」
「レイミ様、この方たちはお客様です。無礼のないようにお気をつけください」
「ああ、分かったぞ! 任せておけ!」
そう言うとレイミと呼ばれた少女は華麗にカーテシーをして名乗った。
「よろしくお願いします、お客様。私はレイミです。よろしくお願いします」
おおっ、ちゃんとした子だな。
まだ八歳くらいにしてはしっかりしている。
しかしレイミの堅苦しいのはすぐに終わり、目をキラキラさせるとメイドに尋ねた。
「レイカ、どうだった!? ちゃんとできてたか!?」
「ええ、ちゃんとできておりましたよ」
ふんわりと笑ってメイドは返す。
その言葉にレイミは嬉しそうに飛び跳ねた。
「とと、レイミ様。私たちはレミ様のところまで行かないといけないのでまた後ほど」
「レミお婆様のところに?」
「はい、そうです」
「分かった! それが終わったらお客様とまた遊びたい!」
レイミの言葉にレイカは困ったようにこちらを見てくる。
どうするか考えて、みんなの意見も聞こうと振り返ると――。
ツーと涙がドリトスの頬を伝っていた。
「ドリトスさん?」
「あ、ああ。すまんな、ちょっと昔を思い出しただけだ。それで、ええと、なんの話だっけか?」
ゴシゴシと涙を拭い、ドリトスは何もなかったように言った。
しかしそれを見逃さなかったレイミが駆け寄って心配そうに尋ねた。
「大丈夫? お爺さん。悲しい時は私がおまじないをかけてあげるんだよ。えいえいおー! って」
「おまじない……それってラミの……」
レイミの言葉に震える声でドリトスが尋ねる。
彼女はにっこりと笑うと元気いっぱいに頷いて言った。
「うん、私はレミお婆様に教えてもらったんだけど、レミお婆様もラミお婆様に教わったんだって!」
「そうか……ラミのおまじないはまだ健在だったのか……」
ドリトスはそう言って歯を食いしばった。
一瞬、沈黙の時間が訪れるが、まだ空気の読めていないレイミがその空気を壊すのだった。
「って、あれ? みんなレミお婆様のところにいくんじゃなかったの?」
***
「ドリトス様。貴方のことはラミ様から色々と聞いております」
俺たちはレミの部屋にたどり着くと開口一番そう言われた。
皺だらけの顔にどこか昔を懐かしむ表情を湛えている。
「……聞くのは少し怖いが、どんなふうに伝わってるんだ?」
ドリトスがそう尋ねると、レミは小さく笑って答えた。
「いえ、そんな悪く伝わってないですよ。私が知る中で一番良い師匠だった、と聞いております」
「そうか……」
「しかし、ぶっきらぼうで不器用なドワーフだったとも聞いております」
「ああ、そうか……」
しかしドリトスはこれ以上その話をするつもりはないのか、早速本題に入った。
「それで、俺の呪いを解く方法を知っていたりしないか?」
「アンデット化の呪いですよね? 一応、心当たりはあります」
そう言いながらレミは立ち上がった。
そして部屋の扉を開けながら言う。
「ついてきてくれますか?」
「……どこに行くんだ?」
俺が尋ねると、レミは振り返ってにっこりと笑い、こんなことを言うのだった。
「この屋敷の地下室、現在、ラミ様が住われている場所ですよ」




