第七十三話「樹海迷宮探索」
誕生日プレゼントである『冷夏花』のある『樹海迷宮』は王都から早馬で二時間ほどのところにあった。
俺とダラスク国王、そしてダイダス騎士団長の三人で『樹海迷宮』に向かっていた。
ダイダス騎士団長は騎士団長と言う割には細い身体をしている、ダラスク国王と同年代のおじさんだ。
髪の毛は明るい金髪を綺麗に七三分けに整えられていて、ぱっと見文官に見えなくもない。
しかしその動きの洗練され具合などを見るに、相当な手練れであることは一目瞭然だった。
「久しぶりだな、この迷宮に来るのも」
ただの洞穴にしか見えない迷宮入り口の前でダラスク国王は言った。
ダイダス騎士団長は彼の横に立つと昔を思い出すような声を出す。
「ダラスク様がまだ若く血の気が多かった頃、一番最初にきた迷宮でしたものね」
「……ああ、あの頃はお前にお世話になったよな」
そんな二人の会話を聞いて、俺は首を傾げる。
「血の気が多かった頃?」
俺の問いにダイダス騎士団長は小さく笑いながら言った。
「そうだ。ダラスク国王は第四王子でな、明るく人懐っこい性格だったから民衆からの支持は厚かったのだが、その分他の兄弟姉妹からは疎まれた存在だったんだ。第一王子に騙され、殺されそうになったから、このお方は王都を抜け出し冒険者になった」
あー、なるほど。
ダイダス騎士団長の説明に納得する。
だからデリアに肩入れするのか。
昔の自分を彼女に重ね合わせているのだろう。
「だが数奇なことに今王座に座っているのはダラスク様だ。他の兄弟姉妹は皆死ぬか追放された」
その言葉にダラスク国王は複雑な表情をしている。
後悔でもなく、誉でもない、なんとも言えない表情だ。
「ダラスク様は国王になったことを後悔しているのですか?」
「いや、俺自身は後悔していない……はずだ。言い切れないのも事実だがな」
「なるほど」
「でも、あの時国王になる道を断っていたらどんな生活を送っていたか。それを想像することはよくある」
それでデリアには国王を断って自由な道を歩んでもらいたいと。
少々エゴな部分もある気がするが、人間、特に大人というものはそう言うものだ。
子供たちに自分のした後悔をして欲しくないから、それを押し付けてしまう。
それが本当に本人のためになるかなんて、本人にしか分からないはずなのに。
「ともかく昔話は後だ。さっさと『冷夏花』を採りに行くぞ。迷宮には二日は潜る必要があるだろうからな」
ダラスク国王は自分の雑念を振り払うようにそう言うと、さっさと迷宮に入ってしまった。
俺とダイダス騎士団長は慌てて彼の後に続いて迷宮に入るのだった。
***
「本当に樹海なんですね」
俺たちは方角が分からなくなるほど深い樹海の中を歩いていた。
確かにこれでは『冷夏花』を見つけても、帰るのに一苦労しそうだ。
「ああ。この迷宮の難易度が高いと言われるのは魔物の強さではない。単純な広さと複雑さだ」
俺の言葉にダイダス騎士団長が答える。
確かに今まで出てきた魔物は大して強くなかった。
大陸アガトスの中心にある『魔の森』の浅瀬に出てくる魔物と同程度くらいだろうか。
しかし『魔の森』よりも木々の背が高く、鬱蒼としていて、日差しもほぼ入ってきていない。
まあ迷宮だから日差しと言っても、本物の日光ではないのだろうけど。
「ここに入った者は基本、出るよりも先に疲弊し食料が尽き結果魔物に殺される。それに魔物たちもいつ襲ってくるか分からない環境だ。より精神力を疲弊させるからな」
この森の中だと敵が接近したことを認知した時には、もうすぐ傍まできているなんてよくあることなんだろう。
だとするといつになっても気が抜けないし、おちおち寝ている暇もない。
「でもその対策はしてあるんですよね?」
「ああ、もちろんだ。先ほどから地面に液体を垂らしているだろう?」
ダイダス騎士団長は先ほどから定期的に緑色の液体を地面に染み込ませていた。
あれが道標になっているのだと思う。
「あの液体は近くの液体の魔素反応に共鳴するんだ。つまり手元のこの液体に魔力を反応させると——」
するとドンドンと今まで垂らしてきた液体に魔力反応が起こり、帰り道までの道標ができた。
「普通の道標だと迷宮に吸収されたり魔物に踏みつけられて消えたりするからな。これなら吸収もされないし消えもしない」
よく考えられている。
まあ王都に近い迷宮だから攻略法も長年の蓄積があるのだろう。
「そんな話をしていたらまた魔物が出てきたな。……と言っても、またダラスク様が勝手に仕留めてしまったようだが」
少し離れたところでダラスク国王が魔物を一撃で葬っていた。
アカネの大剣と大差ないほどの大きな大剣を得物としているらしい。
それにしてもメチャクチャ強い。
俺やベアならギリ勝てるが、アカネだと危ないのではないだろうか?
前にデリアに魔王がこの超大陸アベルではそこまで強くないと言っていたが、本当なのかもしれない。
「ふう。久しぶりに体を動かすのもやっぱり悪くないな」
ダラスク国王はさっぱりした表情でそう言いながら戻ってくるのだった。




