第七十一話「エルフの王との邂逅」
「それで、こっちに来てからニーナはどうしてたんだ?」
一息つき、結局ニーナと一緒に山盛りのパンケーキを食べながら俺はそう尋ねた。
彼女はパンケーキをゴックンと飲み込んで答えた。
「基本的にはエルフの魔導書を見せてもらったり魔法を教えてもらったりしてた。逆にこっちから魔法を教えることもあったけど」
なるほど、先ほども言っていた通りずっとそんな生活を送っていたのか。
ニーナは皿の横に開いていた魔導書をパタンと閉じると今度はこっちに尋ねてきた。
「逆にアリゼさんたちは何をしてたの?」
「俺たちはこっちの大陸に渡る準備がほとんどだな。訓練したり船を作ってもらったり」
「そうなんだ。なんか、ごめん……」
俺たちが忙しくしていたことを知って、ニーナは申し訳なさそうに肩を落とした。
そんな彼女に俺は首を横に振ると言う。
「いや、危険に晒されてるより平穏に過ごしてくれてたほうがずっと良かったよ」
「そういうもの……?」
「ああ、そういうものだ」
不安そうに尋ねてくるニーナに俺はしっかりと頷く。
それを見てようやく安心した表情を浮かべるニーナに、今度はルインが尋ねた。
「てか他の仲間たちとは会ってないのですか?」
「え、みんなもこっちに来てるの?」
「もしかして知らなかった感じですか? ニーナさんと同じ感じでみんな飛ばされちゃったんですよ」
まあ飛ばされたときはニーナは気を失っていたわけだしな。
知らなくても当然か。
「てか、ルイン、さん。別に敬語じゃなくてもいいよ」
「本当ですか?」
「うん。なんだか喋りづらそうにしてるし」
「じゃあ遠慮なく。私もさん付けしなくていいから」
しかし、思った通りニーナは他の子たちの行方を知らないみたいだ。
ニーナとは出会えたが、また一から情報を集め始める必要があるだろう。
俺たちがパンケーキを食べながらそんな会話をしていると、トントンと部屋の扉がノックされた。
「失礼します。国王ダラスク・ミミア様がお呼びです」
扉が開かれ、メイドさんが頭を下げながらそう言った。
俺たちはパンケーキを急いで飲み込むと、立ち上がった。
「ご案内いたします」
そして先導するメイドさんに続いてみんなで王城内を歩く。
風車型の王城のせいか、縦に長く階段が多い。
基本上りで、たまに下り、また長い上りの階段を上っていく。
一つの大きな扉の前にたどり着く頃にはナナやニーナみたいな後衛職は息を切らしていた。
「すいません、上りが多いもので……」
「い、いえ、大丈夫です」
ナナは途切れ途切れ言うと深呼吸をして息を整えた。
それを確認すると、メイドさんはその大きな扉をゆっくりと開けた。
中は謁見の間で、長いカーペットが奥の豪華な椅子に向かって敷かれている。
その豪華な椅子には一人のエルフの男性が座っていて、その横に冷たげなエルフの女性が立っていた。
男性のほうは線の細いイメージのあるエルフらしさはなく、がっしりとした体躯に鋭い目つきをしていた。
女性のほうは逆に線の細いイメージ通りのエルフだが、ルルネとは違いどこか冷たく感情が読めない感じだった。
俺たちはカーペットの途中まで歩くと、膝をついて頭を垂れた。
すると国王だと思われるエルフの男性から声がかかる。
「別に畏まらなくていい。謁見の間ではあるが、従者は呼んでいないからな」
「……そうですか。それでは」
そう言って俺たちは立ち上がると、国王たちのほうを向いた。
「ともかく、娘を連れ帰ってきてくれてありがとう」
「いえ、俺たちにも目的がありましたから」
俺が言うと国王はニーナのほうを見た。
「彼女にはお世話になった。彼女のおかげでうちの魔法使いたちが歓喜の悲鳴を上げていたよ」
流石はニーナだ。
しっかりと爪痕を残しているらしい。
「それで、そなたたちはすぐに発たれてしまうのか?」
「少しくらいは観光してもいいかなと思っています」
「なるほど。それなら発つまではあの部屋を使うといい。その代わり、たまにニーナの知恵を借りるかもしれないが」
ニーナのほうを見ると、彼女は了承するように頷いた。
彼女としてもエルフの魔法を知れるのは願ったり叶ったりだろう。
しかし俺は他にもやるべきことがあった。
デリアとの約束。
彼女と家族間の問題を解決してあげなければならない。
だから俺は直球で、国王たちにこう尋ねるのだった。
「ところで、デリア……デリミーシュ様について、お二人はどう思われているのですか?」




