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【web版】拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた。  作者: AteRa
第六章:エルフの国・ミミア王国編

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第六十三話「デリアの正体」

 情報屋のおばさんから話を聞いた後、俺たちはひとまず宿を探した。

 もう日も暮れかけていて、デリアに話に行くわけにもいかないからな。


 そして適当な宿に一泊して、俺たちは次の日デリアたちの元に向かった。


 聞き込みをしたらすぐにドーイの研究所の場所は分かった。

 この街では有名な変態科学者ってことになっているらしい。


「失礼しまーす」


 研究所の扉は鍵は閉まっていなかったので、俺たちは勝手に開けて中に入る。

 すると中では二日酔いでダウンしているドーイがいた。

 辺りに死ぬほどエールの瓶が転がっていて、死ぬほど飲んだみたいだった。


「おい、ドーイ。どうしたんだ、こんなに飲んだら流石に死ぬぞ」

「……ん? ああ、この間の旅人たちか」


 トロンとした目でこちらを見てドーイは言った。

 それからノソノソと起き上がると、ソファに座り直してため息をついた。


「何かあったんですか?」


 心配そうにナナが尋ねる。

 それにドーイは絞り出すように答えた。


「……デリアが連れていかれた。どうやら借金取りたちの目的は最初から彼女だったらしい」


 俺たちはドーイの言葉に目を見開いた。

 そして俺は彼に詰め寄ると低い声でこう言う。


「それで、アンタは何も行動を起こさずやけ酒をしていたと」

「……悪いかよ」

「いや? アンタがそれを悪いと思っていないなら、悪くはないんだろうな」


 冷たくそう言い放った。

 するとドーイは激昂したように立ち上がって俺を睨みつけてきた。


「俺だって抵抗したさ! でもどうしようもなかったんだ! こんなちっぽけな俺が借金取りに勝てるわけないだろ!」


 ドーイはそう言った後、再びソファに座り直して、またため息を零す。


 ……どうしてか腹が立つ。

 俺にとっては他人事だ。

 わざわざ足を踏み入れる話題でもない。


 でも――そういう問題じゃなかった。

 俺も心残りになるだろうし、ドーイだって絶対に後悔しているはずだ。

 本心ではどうにかしてデリアを助けたいと思っているはずだった。


 ただの同情かもしれない。

 でもここで見捨てて後悔するよりも、同情でもなんでも助けようと行動を起こすほうが絶対にいい。


 だから俺は――。


「助けに行くぞ」

「……なんて言った?」


 わざとらしく聞き返すドーイ。

 俺はもう一度、ハッキリと言ってやった。


「助けに行くぞ、って言ったんだ」

「でも……相手は強力な護衛を雇ってるんだぞ?」

「それでも行くぞ。ドーイだって助けたいと思っているはずだ」


 俺の言葉に視線を逸らすドーイ。

 俺はドーイに続けてこう言った。


「場所はどこだ? 案内してくれ」

「……はあ。分かった、分かったよ。案内はするさ」


 諦めたようにため息をつくと、ドーイは立ち上がって研究所の外に出るのだった。



   ***




――デリア視点――


 これで良かったんだ。


 私は目隠しされて真っ暗なまま、両手両足を縛られ転がされながらそう思った。

 これは神が私に課した罰なのだ。

 職務を放棄して自分の好きなように生きた罰。


 私はただ自由に正直に、真っ当に生きたかっただけなのに。

 第三王女という立場は私にとっては重たすぎた。


 何不自由ない生活……なんて生易しいものではなかった。

 王女としての品位を保つべく、私は過剰な英才教育を施された。


 それに加え、王城内は嘘と欺瞞に塗れ、皆が皆、騙し合いながら暮らしていた。

 自由に、そして正直に生きたかった私はそれに耐えきれず、逃げ出した。


 そんな私に神は罰を与えたのだろう。

 だから、私はこれを受け入れるしかない。


「おい、女。起きてるか?」


 すると声が聞こえた。

 野太い声だ。


 私が黙っていると、男は勝手に話し出した。


「お前は三日後に奴隷商に売られることになってる。人間の奴隷商だ。エルフの美人は高く売れるからな、それでドーイの借金を返してもらう」


 そうは言うが、ドーイの借金の半分はこいつらのせいじゃないか。

 まあもう半分は確実にドーイ自身のせいなのだが。


 おそらく私を手に入れることが目的の半分なのだろう。

 その憶測はやっぱり当たっていたみたいで――。


「だが奴隷商に売り出す前に、俺たちのほうで楽しませてもらう。これはちゃんと奴隷商との契約の上だ」


 彼はそれを言って私に命乞いをして欲しいと思っていたのだろう。

 泣きながら媚びを売ってほしいと思っていたのだろう。


 だが私はずっと黙っていたので、不服そうに舌打ちをすると彼は部屋から出て行った。


 出て行った後、私は泣いた。

 こんなんになるのだったら逃げださなければ良かった。

 だがもう遅い。

 こうなってしまったら誰も助けてはくれないだろう。


 ドーイや昨日の人間たちが脳裏をよぎる。


 ……ドーイは絶対に助けてくれない。

 彼には助けられるほどの力もないし、そもそもそんな勇気がない。

 昨日の人間たちも間違いなく助けてくれないだろう。

 だって彼らには私を助ける義理なんて全くない。


「ああ……嫌だなぁ、このまま死ぬの……」


 思わず言葉がこぼれた。

 そう呟いたその時、なぜか部屋の外が騒がしくなった。

 耳を澄ませてみれば、どうやら誰かが襲撃してきたみたいだった。

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