第六十二話「ニーナの行方が分かりました」
俺たちはバーン・ウルフの毛皮を剥ぎ取ると、残った肉は燃やして埋葬した。
どうやらこいつの肉は固くて食べられたものではないらしい。
「てか、この毛皮は何に使われるんだ?」
俺は街まで歩きながらデリアにそう尋ねた。
彼女は迷いなく森の中を先導しながら言う。
「バーン・ウルフの毛皮は硬く火に強いんだ。だから鍛冶師の作業着や手袋なんかが多いな」
「なるほど……それだったら、これだけで本当に借金を返せるのか?」
「ああ。こいつは消耗品だがバーン・ウルフはすばしっこくてなかなか倒せない。需要に供給が追い付いてないのさ」
そう言った後、デリアは呆れたようにこう付け加えた。
「まあ――君は本当に呆気なく倒してしまったがな」
確かに……。
そんな会話をしていると、すぐに街にたどり着いた。
物凄い方向感覚だ。
「それで、君たちはこれからどうするんだ? 私はこれを鍛冶師ギルドで換金してドーイのところに戻るが」
「俺たちは、そうだな……ちょっと仲間たちの行方を聞き込みしてみるよ」
俺が言うと、デリアは少し考えた後、こう言った。
「そうか……それなら私の御用達の情報屋を教えてあげよう」
情報屋か。
デリアは一体何者なんだろうな。
普通の人間……いや、エルフじゃない気がする。
「あそこに大きな時計台があるだろ? あそこから北に十軒先に行ったオレンジ色のパン屋が情報屋だ」
「いいのか? そんなことを教えても?」
「ああ、問題ないさ。私が用になることはもうないんでね」
よく分からないが、助かるのは事実だ。
「ああ、それと外套のフードは被っていたほうがいい」
「どうしてだ?」
「いや、エルフじゃないことがバレたら面倒だからな」
確かにそうかもな。
俺たちは頷くと素直にフードを被った。
そしてデリアにお礼を言うと、その場で別れた。
ルインとナナと時計台まで歩きながら話す。
「しかしバーン・ウルフを狩って最終的には良かったかもな」
「そうだね。情報屋なんて教えてくれるとは思わなかったよ」
俺の言葉に同意するようにルインが言った。
ナナはキョロキョロと街並みを眺めながらついてきていた。
そして歩くこと十分。
時計台の先のパン屋までたどり着いていた。
俺たちが中に入ると、恰幅のいいおばさんが出てきて言った。
「ごめんなさいね。もう売り切れて店じまいするところなの」
「いや、そうじゃない。俺たちはデリアに紹介されてきたんだ」
俺の言葉に一瞬で目の色を変えるおばさん。
それから店の扉がしっかりと閉まってることを確認して、鍵を閉めると尋ねてきた。
「デリア様のお知り合いですか?」
……デリア様?
俺は首を傾げる。
彼女は地位の高い人なのだろうか?
でもだとしたらなぜあんなところでドーイと研究しているのだろう?
分からないことだらけだ。
でもとりあえず俺は頷いて言った。
「ああ、彼女から紹介されたんだ」
「そうですか……分かりました。彼女からの紹介なら無償でお受けいたしましょう」
無償……ますますデリアの謎が深まるばかりだ。
「それで、ご依頼は何ですか?」
そう言われたので、俺はフードを取ってこう言った。
「この国で俺たちと同じような、人間を見なかったか?」
俺たちの姿を見てハッとおばさんは息を呑んだ。
しかし流石は情報屋のプロで、すぐに平静を取り戻すと言った。
「聞いたことがあります。どうやら王城に一人、魔女っぽい恰好をした人間が幽閉されていると」
「……ふむ、そうか」
魔女っぽい恰好か。
となると――。
ルインとナナも同じことを思ったのか、こう耳元で言ってきた。
「それってニーナ様ですよね?」
「私もそう思う」
俺は頷くと再びおばさんに尋ねる。
「それを解放してもらうにはどうすればいいかとか分かるか?」
俺の言葉に何故かおばさんは不思議そうな表情をして首を傾げた。
「それならデリア様に頼めばいいのではないでしょうか?」
「……デリア様って」
混乱している俺たちにおばさんはこんなことを告げるのだった。
「だって彼女、この国の第三王女でしょう? まあ……逃げ出した身だから協力しずらいのも分かりますけどね」




