第五十九話「いざ、超大陸アベルへ」
「オロロロロロロ!」
俺は船酔いにやられてグロッキーになっていた。
そんな俺の背中を、ルインが優しくさすってくれている。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だ……オロロロロロ」
やっぱり大丈夫じゃないかも。
現在、俺たちは超大陸アベルに向かう船の上にいた。
この船はアルカイア帝国とニーサリス共和国が共同で俺たちのために作ってくれたものだ。
ナナとルインも一緒に乗っているのだが、二人とも船酔いは大丈夫そうだった。
俺ってこんなに三半規管が弱かったのか……。
ふとカミアの背中の上を思い出す。
もしかしてあれで酔っていたのも、俺の三半規管が弱かったせい……?
って、いや、みんな目をグルグルに回してたし、それはないだろう。
「しかしようやく超大陸アベルに行けるな」
「みんなが転移されてから一年だけど、特訓とかしてて結構早かったよね」
確かに準備とか特訓とかしてたらいつの間にか一年が経っていた。
みんな無事だといいけど……。
まああの五人のことだ、好き勝手生きてることだろう。
「アリゼさぁん! ご飯ができたよ!」
そんな会話をしていると、ナナがそう言いながら近づいてくるのだった。
***
それから一週間ほど。
俺たちの目の前に超大陸アベルが迫ってきていた。
「うぉお……でけぇ……」
端から端まで見渡しても先が見えない。
目の前の陸は断崖になっており、そこに小さな入江があるみたいだった。
「アリゼ様。とりあえずあそこの入江に入ろうと思います」
俺が甲板から超大陸アベルを眺めていると、近づいてきた航海士がそう言った。
数人の航海士や料理人など、たくさんのスタッフがこの船には乗っていた。
まあ彼らは超大陸アベルに上陸せず、俺らを送ったらすぐに大陸アガトスに戻ってしまうが。
「ああ、それで頼む」
航海士の言葉に頷いて返すと、彼はまた仕事をしに船の中に降りて行った。
それと入れ違うようにルインとナナが上がってくる。
「アリゼさん。ようやくだね」
ルインの言葉に俺は頷く。
「そうだなぁ。……すげぇ、緊張してきた」
「大丈夫だよ! 私たちも全力でサポートするから!」
俺がぽつりとこぼすと、ナナが励ますように言った。
確かにこの一年で二人は見違えるほど強くなった。
立派に成長してきているし、とても心強いのは事実だった。
そしてドンドンと入江に近づいてきて、船が錨を降ろす。
「アリゼ様。到着しました」
航海士にそう言われ、俺たちは超大陸アベルに足を踏み入れる。
「これが超大陸アベルの海岸かぁ……」
「そんな感慨深い? 普通の海岸だけど」
俺がしみじみと言うと、ルインが風情のないことを言う。
「でも俺たちが一年間、恋がれていた海岸だぜ? そりゃあ感慨深いだろ」
そんな会話をしながら、慎重に大陸の奥へと進んでいく。
入江を抜けるとすぐ先は森になっていて、鬱蒼と木々が生えていた。
「物音一つしないな……」
「確かに! なんか逆に不安になる!」
俺の言葉に同意するようにナナが言った。
それからしばらく歩いていると、何か視線を感じるようになった。
「……誰かにつけられてる」
ルインが小さな声で耳打ちしてきた。
俺は頷いて、こう返した。
「つけられてるな。とりあえず気づかないふりだ」
それから何事もないように歩き続けるが、その視線はずっとつきまとう。
流石に痺れを切らした俺たちは、そいつと顔を合わせることにした。
俺はナナとルインと目を合わせ頷き合うと、思い切り走り出す。
すると後ろの人影も慌てたように駆け出してきて。
ずざぁぁあああああ!
——コケた。
思い切りコケた音が聞こえた。
振り返ると、緑色の衣装を身に纏った金髪の美少女が倒れていた。
「だ、大丈夫か……?」
俺が思わずそう声をかけると、その子はバッと起き上がって拳を握った。
「むっ……! 私たちを攫いにきた人間族め! 里にたどり着く前に私が成敗してくれる!」
……ん?
この子は何を言っているんだ?
俺は思わずルインたちの方を見るが、彼女たちも不思議そうに首を傾げていた。
「ええと……攫う?」
「このっ! もう国の仲間は渡さないぞ!」
なんか誤解されているような……。
てか、この大陸は魔族の土地じゃないのか?
彼女は魔族のような肌色をしていなかった。
俺たちが彼女の様子に呆然としていると、ふわりと風が吹いた。
その時、その美少女の髪の毛が靡き、耳があらわになる。
その耳は——ルルネと同様に尖っていて。
つまり彼女はエルフだということなのだった。




