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【web版】拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた。  作者: AteRa
第五章:闘技大会編

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第五十七話「ピンチの中で掴んだ希望」

「遅れました、アリゼさん! お久しぶりです!」


 ルインは豪華な装飾の施された剣を構えながら俺にそう声をかけた。

 俺は目を見開き、彼女の方を見る。


「どうしてルインが……」

「決まってます。アリゼさんに勝てると思ったから、こうして村から出てきたんです」


 そうか……彼女もそこまで強くなったのか……。

 思わず感慨に耽りそうになるが、そんなことをしている場合じゃないと首を振る。


 今は魔王を倒すのが先だ。

 俺はヨロヨロと立ち上がるが、ルインは近づいてくると手で制した。


「ここは私に任せてください。私の強くなったところを見ていてください」

「でも、相手は魔王だ。そう簡単に勝てるわけが……」


 そう言った俺に彼女はにっこりと微笑みかけてくる。


「大丈夫です。今の私ならなんか勝てそうな気がするんです」


 ルインの言葉に反応するように、右手に持っていた剣が黄金に瞬く。

 俺はその剣を見ると尋ねた。


「それは……どうしたんだ?」

「これは村に代々伝わってきた剣らしいです。《宝剣エクスカリバー》と言うらしいですよ」


 ……なるほど、そう言うことか。

 だから先程の一撃で魔王の左腕を切り刻めたんだ。


 あの村に勇者の末裔が住んでいたのだとすれば、ルインが勇者の末裔だとしてもおかしくない。

 そしてその《宝剣エクスカリバー》がその村に大事に保管されていてもおかしくはなかった。


「それに……私が負けそうになってもアリゼさんがなんとかしてくれる。私はそう信じています」


 彼女は振り返り、魔王の方を睨みながら言った。

 絶対的な信頼が俺を包み込む。


 魔王は血走った目でルインの方を睨んで、低い声で言った。


「貴様だけは絶対に許さないぞ。よくもこの俺に傷をつけてくれたな」

「許す許さないもありません。アナタはここで死ぬのだから」


 ルインの瞳には意思の強さが宿っていた。

 ……なんだかみんな、ドンドンと成長していく。

 俺の知らないところで。

 そのことが嬉しくもあり、少し悲しくもあった。


「うるさい、うるさい。……うるさいうるさいうるさい!! 俺は絶対的な王だ! 誰も俺を超えることはできないんだ!」


 魔王はそう叫びながら地面を蹴ってルインに接近する。

 その速度は圧倒的で、俺は思わず目を見開いた。


 ……やはり俺たちとの戦いのときは手加減をしていたんだ。

 まずいと思った。

 流石に宝剣によって強化されたルインだとしても、避けることは——。


 しかしルインは突然、消えた。

 そのことに魔王は驚き声をあげる。


「どっ、どこに行ったッ!?」

「ここです、魔王」


 すっと背後に現れたルインは、その剣を魔王の心臓に突き刺そうとする。

 しかし済んでのところでそれを避けた魔王は、チッと舌打ちをする。


「……なんだ、その速さは」

「なんでもありませんよ。ただアナタが遅いだけです」


 圧倒的だった。




 ——それから、ルインの蹂躙劇が始まった。

 なんとか避け続ける魔王だったが、次々に傷を作っていく。


 そしてルインはトドメと言わんばかりに、宝剣に魔力を溜め始める。

 もう魔王は満身創痍で、動けない状況だった。


「これでおしまいです、魔王」

「……くっ。俺はまだ、諦めてないぞ」


 魔王はそう言うが、すでにそれを避ける体力さえも残っていないことは明白だった。


「それでは、さらばです。魔王——」


 そしてルインは地面を蹴り上げて、圧倒的な速度で魔王に接近すると、その心臓に剣を突き刺した。


「うがぁああああああああああああ!」


 魔王はそう叫ぶ。


 しかしふと、俺は彼がニヤリと笑みを浮かべるのを見た。

 それで俺は魔王が何を企んでいるのか、理解してしまった。


「ルインッ! マズい! 避けろ!」


 しかし宝剣を握ったままのルインに避けることができるはずもなく。

 魔王の伸びてきた右腕に顔面を掴まれるのだった。


「捕まえたぞ! ハハッ! これでお前たちは本当に終わりだ!」


 瞬間、ルインの魔力が魔王に吸収されていく。

 彼女は驚き固まったまま、地面に倒れ伏した。


 魔王は自分の胸に刺さっている宝剣を引き抜くと、その辺に放り投げた。

 そして俺の方を見ると、にいっと不気味な笑みを浮かべる。


「お前だけはじっくりと殺してやろうと思ったが、前言撤回だ。すぐに楽にしてやる」


 よりパワーアップした魔王はかき消えるように移動すると、俺の前まで現れた。

 俺は慌てたように魔王の右ストレートをなんとか避ける。


 ドゴンッと衝撃波で森の木々が薙ぎ倒されていく。


 しかし——魔王は一つだけ慢心していた。

 あの《宝剣エクスカリバー》をその辺に放り投げてしまったことだ。


 俺はなんとかその投げ捨てられた宝剣のほうに駆けていく。

 そのことに気がついた魔王は怒りの叫び声を轟かせた。


「貴様ぁああああああああ! お前だけは絶対に許さないぞぉおおおおおおお!」


 しかし魔王が俺の元にやってくる頃には、すでに俺の手の中に宝剣が握られているのだった。

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