第五十六話「絶体絶命に現れた救世主」
それから俺たちは数時間にも及ぶ戦いを繰り広げていた。
しかしミアとルルネの魔力は既に魔王に吸収されている。
より強力になった魔王に、俺たちは防戦一方だった。
魔王を倒すには《天空城》が必要だ。
しかしそれはニーサリス共和国に置いてきてしまった。
誰かが持ってくるにしろ、大量の魔力が必要だ。
不可能に近い。
他に魔王を倒す手段があればいいが……そんなものは思い浮かばない。
そんなとき、ふとレアナさんからもらった英雄譚に書いてあった《宝剣エクスカリバー》のことを思い出す。
おそらくあれも、天空城と同じような性能を持っているはず。
でもあれがどこにあるかも知らないし、もしかしたらもう無くなっている可能性もある。
「ガハハッ! これで三人目だ!」
魔王はそう言いながらアーシャの頭を掴んでいた。
彼女も魔力を吸い取られていき、瞳のハイライトが消えていく。
「アリゼさん……これは、マズいかも」
ニーナが近くでボソッとそう言った。
間違いない。
今の俺たちの力じゃ、魔王には勝てる気がしない。
それからさらに数時間ほど戦闘し——残ったのは俺だけとなるのだった。
***
——ルイン視点——
そのとき、ルインは鏡華大心国の王都の近くまで来ていた。
要塞都市アルカナのレーア様、アルカイア帝国の帝都のハルカ様、ニーサリス共和国のクリス様と辿っていき、ようやくアリゼが鏡華大心国にいると聞きつけたのだ。
ルインは歩きながら自分の腰にぶら下げた剣を握る。
この剣は村から出てくるときに村長からもらったのだ。
村に代々伝わるとても大切な剣だと言っていたから、無くさないようにしないといけない。
そんなことを思っていると、王都付近の森の方で強大な魔力が生じるのを感じた。
「……何が起こっているの?」
思わずそう呟くが、何か嫌な予感がする。
ルインはその予感のまま、そちらの方に走って行った。
***
——アリゼ視点——
「ふふふ……はははっ! これで俺は最強だ! あとはお前を吸収すれば、俺も完全体になれる!」
英雄たちは魔力を奪われ、もう動けない状況だ。
残された俺までもが倒されれば、もう彼を止められる人間はいなくなる。
手汗で剣が滑りそうになり、ぎゅっと握り直す。
負けるわけにはいかない。
おそらく、彼を倒せばルルネたちもまた元に戻れるはずだ。
それに世界は平和になるだろうし、ここが正念場だった。
魔王は恐怖を煽るようにゆっくりと近づいてくる。
俺はジリっと後ろに下がりそうになるが、意思の力でなんとか堪えた。
「さあ——お前も俺の糧になれ!」
瞬間、魔王が飛び出してきた。
俺はそれをなんとか避けようとするが、ギリギリのところで掠ってしまう。
それだけでものすごい衝撃を喰らい、吹き飛ばされる。
「がぁっ!」
そのまま地面を何度かバウンドして、木の幹に叩きつけられた。
たったの一撃で俺は戦闘不能になってしまう。
今まではニーナのバフ魔法を貰っていたからなんとか堪えていたが、もう無理そうだ。
諦めて目を閉じる。
ごめん、みんな。
俺はみんなを救うことはできなかった……。
しかしふと、脳内に思い出が蘇ってくる。
十五年前、みんなを拾った時の記憶だ。
『やあやあ、僕は悪い大人じゃないよ』
そう声をかけた時の少女たちの怯えた表情。
それから同じ時間を一緒に過ごし、楽しかった思い出を振り返っていく。
「……そうだな。諦めるわけにはいかないよな。ここで諦めてたまるものか」
俺は目を開いた。
すでに魔王は近くまで寄ってきている。
俺は最後の力を振り絞って立ち上がった。
そのことに魔王は目を見開いて感心の声を上げた。
「ほう……まだ戦う意志を見せるか」
「俺は負けない。負けるわけにはいかない」
そして落ちていた折れている剣を拾うと、俺は構えた。
「ハッ! そんな折れた剣で何ができる!」
鼻で笑われようとも、どんなに馬鹿にされようとも、俺は戦う。
みんなのために。
俺が剣を構えていると、苛立ったように魔王は言った。
「……そうか。貴様はそれでも逆らう気だな? じゃあ吸収は待ってやる。心が折れるまでな」
そして魔王はジリジリと近づいてくると——。
***
俺はこの数時間の記憶が朦朧としていた。
ただ殴り蹴られ続けていたのだけは覚えている。
それでも、俺はまだ立ち上がった。
それに苛立ったように魔王は舌打ちする。
「ちぃっ! まだ心が折れないか。……もう吸収してしまうか、面倒くさい」
マズい、とボンヤリする頭で思った。
吸収されたら本当に終わりだ。
それだけは避けなければならないが……。
もう体は動かない。
ピクリともしない。
今度こそ俺は目を瞑った。
諦めてしまったそのとき——。
「アリゼさぁああああああああああん!」
そんな聞き馴染みのある叫び声が聞こえてきて、ザシュッという小気味良い音が聞こえてきた。
「ぎゃぁあああああああああああああ!」
今度は魔王の叫び声が聞こえてくる。
何が起こったのかと思って目を開くと、そこではルインが魔王の左腕を切り刻んでいたのだった。




