第五十五話「魔王復活」
ナナちゃんの捜索を開始してから既に二時間が経過した。
しかしそれでも見つからないことに俺は最悪の事態を想像してしまう。
彼女は魔力量が多い。
それも圧倒的にだ。
もし――その魔力量が魔王復活に利用できるのだとすれば。
シークレット、もとい円卓騎士第二位ブリーファが接触していてもおかしくない。
先ほどの聞き込みをしたときの情報を思い出す。
彼は草原のほうに向かっていた。
そしてナナちゃんは草原で特訓をしていた。
……あながち間違いではなさそうだ。
だとすれば間違いなく時間が無い。
闇雲に王都周辺を探し回っていると、アカネと遭遇する。
「ナナちゃんはいたか?」
「……いなかったです」
どうやらアカネも見つけ出せなかったらしい。
先ほどの考察を彼女に伝えると顔色を真っ青にした。
「それはマズいですね……。どうしましょうか」
「どうするって言ったって……見つからないことにはどうしようもないよな」
そんな時だった。
バチバチと森のほうから巨大な電撃音が聞こえてくる。
俺とアカネは顔を見合わせると、そちらの方に駆けていった。
その音源はどうやら小さな洞穴らしかった。
ルルネたちも集まっていて、みんな緊迫した表情をしている。
おそらく状況を何となく把握しているのだろう。
中から、カツカツと歩いてくる音が聞こえる。
俺たちは、そいつが現れるのを息を呑んで見守っていた。
「あー、久しぶりの身体はやはり良いな。生き返った気分だ」
出てきたのはスラリとしたイケメン風の魔族だった。
漆黒の衣装を身に纏い、その赤く細い瞳をキョロキョロとさせている。
「……と思えば、なかなかの歓迎だな。探す手間が省けて助かった」
そう言ってチロリと舌なめずりをした。
ぱっと見は全く強そうには見えない見た目だ。
しかしそこから溢れ出る魔力は異常に俺たちに圧力をかけてくる。
「しかしあのバカ魔力の少女とブリーファ。二人分の魔力があれば倒すなんて余裕だろう」
「……もしかして、仲間の魔力を吸収したのか?」
俺が尋ねるとその魔族はギョロリとこちらを見て首を傾げると、言った。
「誰だ、お前は? 見たことがない顔だな」
「……わざわざ名乗るほどではない。それよりも、仲間のブリーファさえも吸収したのかと聞いている」
その問いに魔族は何でもないように頷く。
「当たり前だろう? あいつらが何のためにいると思っているんだ? 俺の糧になるためにいるんだ」
どうやらこいつは救いようもない悪らしい。
仲間を吸収しても何とも思わないなんて……。
「しかし、これほどの魔力がわざわざ集まってくれるとは有り難い。これほどの魔力を持って超大陸アベルに戻れば、一躍俺は英雄になれるぞ」
「超大陸アベル……?」
俺が首を傾げると、魔族は馬鹿にするように鼻で笑って言った。
「そんなことも知らないのか。超大陸アベルとはこの大陸アガトスとは別にある巨大な大陸だ」
「もしかして……その超大陸アベルって魔族たちが治めているのか……?」
俺の言葉にその魔族は頷いた。
……魔族たちがどこから来ているのか不思議だったが、どうやらその別大陸から来ているらしい。
「さて……よりどりみどりでどれから食すか悩むが、やはりメインディッシュは最後だろう」
そう言った瞬間、そいつの姿が掻き消えた。
狙いはミア。
ミアは慌てて避けようとするが、彼女は英雄の中でも最弱だ。
その速度に避けきれず、頭を掴まれてしまった。
「ぐっ……」
叫び声を上げるのを何とか堪えると、彼女は杖をかざして聖魔法を使おうとする。
しかしそれすらも間に合わず、一瞬で彼女の瞳からハイライトが消えた。
魔族はポイッとミアを捨てると、そこでようやく腰の剣を引き抜いた。
「くくくっ……やはり英雄などと呼ばれる奴らの魔力は美味しいな。すさまじく力が溢れてくるのを感じるぞ……」
そうクツクツと笑う魔族を睨みながらアカネが呟く。
「くそっ……。こんな時に天空城さえあれば。あれさえあれば魔王だって倒せるはずなのに……」
しかしニーサリス共和国に置いてきてしまった。
今さら取りに行くことも叶わない。
絶体絶命となってしまった今、それでも俺たちはそのドンドンとパワーアップしていく魔王を倒さなければならないのだった。




