第五十三話「ナナの魔法特訓日記」
次の日になり、Bブロックの準決勝戦が始まった。
と言っても敵は呆気なく、全員簡単に御せてしまった。
「決勝トーナメントに進むのはアリゼで決定だぁあああああ! 流石、英雄の師匠なだけあります!」
二日目は準決勝二回と決勝戦の三戦だけだったし、俺が速攻で決着をつけてしまったから、午前中には終わってしまっていた。
俺は屋台で串焼きを買うと、ニーナとナナの家まで歩きながら話をする。
「今日はナナちゃんに魔法を教えようと思うんだが、どう思う?」
「良いと思う。私もそろそろ教えて良い頃だと思っていた」
どうやらニーナも同じ考えだったらしい。
このことを知ったらナナちゃんも喜ぶのではないだろうか。
彼女は魔法を使うことに憧れがあったらしいしな。
しかしナナちゃんの家に行っても彼女はおらず。
「ナナは多分、今日も草原で一人で特訓してると思います。最近はずっとそうしてますから」
母が言うには草原にいるらしい。
その場所はニーナが知っていたので俺は彼女についていく。
草原まで来ると、言われた通りナナちゃんは一人で座禅を組んでいた。
魔力操作の特訓をしているのだろう。
「おーい、ナナちゃん!」
俺はそんな彼女に声をかける。
そこでようやく俺たちに気がついて、満面の笑みを浮かべてこちらを見た。
「あ、おじさん! あと、ニーナ様!」
ちなみにおじさんというあだ名を変えようと奮闘してみたが、結局変わらなかった。
要塞都市アルカナの宿娘アンナちゃんはすぐに変えてくれたのにな……。
「おう、どうだ調子は?」
「うん、順調だよ!」
「しかし何だか嬉しそうだな。何かあったか?」
そう尋ねると、ナナちゃんは含むような笑みを浮かべて首を横に振った。
「ううん! 何でもないよ、何でも!」
「そ、そうか……。まあ、いいや。とりあえず今日は魔法の使い方を勉強しよう」
「え!? 魔法を使っても良いの!?」
俺の言葉にさらに嬉しそうに飛び跳ねるナナちゃん。
そんな彼女にニーナは頷いて言った。
「うん、今日からは魔法の勉強。でも暴発したらヤバいことになるから、気をつけるように」
ナナちゃんの魔力量だと、間違いなく初級魔法でも死人が出るレベルだ。
マジで慎重にならないとマズいことになりかねない。
真剣な表情で言ったニーナに同じく気を引き締めたナナちゃんは頷いた。
「わ、分かった。頑張ってみる」
そして深淵の魔女ニーナによる個人レッスンが始まる。
「魔法は、基本的に詠唱と無詠唱がある。でも最近は無詠唱が一般的」
「詠唱は大昔の話だって聞いたことがある!」
「そう。今はかなり魔力についての研究も進んでいて、詠唱にはロスが多いことが分かっている」
そう話し始めたニーナの言葉を一言一句聞き逃さないように身を傾けるナナちゃん。
「魔力は自分の意思で変質できる。例えば、火の属性に変質すると——」
言ったニーナの手からボウッと火が飛び出てきた。
「こんな風に火が飛び出てくる」
「なるほど! でもそれってどうやるの?」
首を傾げるナナちゃんに、ニーナは一つ一つ丁寧に説明していく。
「これは感覚で掴むしかない。でも手助けはできる」
「手助け?」
「そう。魔力操作と同じように、他人から補助輪のように道しるべを示すことはできる」
そしてニーナはナナちゃんの手を取ると、慎重にその魔力を火の属性に変質させた。
瞬間、ゴウッとナナちゃんを取り囲むように火柱が起こった。
流石の魔力量だ。
その火柱の勢いはニーナの先ほどの魔法とは比べものにはならない。
「凄い! 私も魔法が使えるんだ……!」
嬉しそうにしているナナちゃんにニーナは微笑んで言った。
「うん、魔法は魔力があれば誰でも使える」
「それで、この感覚を掴めば良いんだよね!?」
それから二時間ほど、その草原で二人はずっと属性変化の特訓をしていた。
しかし、もう日も暮れかけ、そろそろ辺りは暗くなってくる頃だろう。
「そろそろ帰ろうか。もう日が落ちる」
「うん! そうだね、そろそろ帰らないとお母さんに怒られちゃう!」
と言うわけで、今日の特訓はここで終わりにし、俺たちは王都に帰るのだった。
***
そして次の日、Cブロックの予選が始まった。
ミアは戦闘能力が少女たちの中でも一番低いらしい。
だからどうなるかと思っていたが——。
聖女としての力を遺憾なく発揮し、順調に準決勝まで上がっていった。
どうやら光属性の魔法は得意らしく、そこまで弱いわけでも無かった。
まあ、他の四人が規格外過ぎるだけなんだよな、多分。
「お疲れ様、ミア」
「ありがとうございます! これでお腹いっぱいにご飯を食べても許される!」
誰に許されて、誰に許されないのかは分からないが、一応試合に向けて身体を絞っていたらしい。
ミアは嬉しそうに両手いっぱいに肉や魚を抱えながらもぐもぐとそう言っていた。
そんな感じでミアの予選も無事終わり、再び俺とニーナはナナちゃんの特訓にいそしんだ。
彼女は筋が良く、この二日で属性変質の感覚を掴み始めているらしい。
「この調子なら決勝トーナメント戦の頃には一人で魔法を使えるようになっているはず」
「ホント!? やったぁ!」
ニーナの言葉にナナちゃんはそう喜び、だだっ広い草原でピョンピョンと跳ねるのだった。
【作者からのお願い!】
この小説を読んで
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると僕が喜びます!
あなたの応援が執筆のモチベーションになります!
よろしくお願いします!




