第五十話「Aブロック決勝が終わりました」
掻き消えたシークレットにルルネはとっさに反応する。
流石の反応速度だ。
それでも最初からシークレットは本気だったのか、ルルネは木剣でその攻撃を受けたはずなのにいとも簡単に吹き飛ばされた。
ルルネは何回転かしながら地面を転がり、止まる。
そして土ぼこりを払いながら立ち上がった。
「なかなかやるわね……」
「そちらこそ、これを受けきるとはなかなか」
しかし転移魔法の使用魔力量は多い。
いくら魔力効率が圧倒的だからといって、試合中に使えるのは二回が限度だろう。
それ以上使ったら間違いなく規定値を超える。
シークレットもそのことに気がついているのか、立て続けに転移魔法は使わなかった。
この試合が長引くことを考慮して、魔力量を温存しているのだろう。
「一撃で決めきれなかったってことは、長引くなこの試合」
「そうですね。でも長引けば長引くほどルルネのほうが有利になるはずです」
俺の言葉にアーシャがそう返してくる。
シークレットは既に転移魔法を使ってしまっているからな。
二人の魔力残量からアーシャはそう思ったのだろう。
そしてルルネと対峙するシークレットはにやりと笑って言った。
「俺は勝つことが目的じゃないからな、目的の半分はもう果たしている」
そう言ったシークレットはなぜかこちらに視線を送ってきた。
正確に言えば、おそらく俺ではなくナナちゃんだ。
……どういう意味だ?
ナナは確かに魔力量が異常に多い。
漏れ出た魔力を感じ取れる人はたくさんいるはずだ。
だからといって、それが何だというのだ……?
俺がそう首を傾げていると、ルルネの目の色が突然変わった。
「まさか……アナタは……」
「そうだ。おそらくお前の予想通りだろう」
「くっ……通りで強いわけだわ……」
よく分からないが、そんな俺にアカネが説明してくれる。
「アリゼさん、魔王を復活させるのに必要なものって何だと思います?」
「……魔王? どういう意味だ?」
俺の疑問にアカネは苦しそうに話し続ける。
「魔王を復活させるには、たくさんの人が持つ恐怖の感情と、茫漠な魔力――」
「……なるほどな。ここに居る人たちを恐怖に貶めるつもりか」
「はい。でもそれだけじゃありません。茫漠な魔力はおそらくナナちゃんを触媒にするつもりかと……」
その耳元でささやかれた言葉に俺は思わず目を見開く。
なるほど……やはり彼は魔族か。
でもここでそのことを明かして、シークレットの正体を暴こうものなら相手の思うつぼだ。
魔族が出たというだけで、人々は恐怖の感情を募らせてしまう。
しかしシークレットが自分からそのことを明かしていないということは、まだ準備が整っていない可能性もある。
彼が自分で魔族だと明かせば、間違いなくこの会場は恐怖に包まれるからな。
それをしないということは、まだ何かしら準備を進めている最中とも考えられる。
これは俺の憶測だが、シークレットは自分の実力を存分に知らしめた後、舞台を整えて正体を明かすつもりなのだろう。
それを阻止するには、やっぱりどこかで彼に勝たなければならない。
それが彼の作戦を挫く唯一の方法だと思った。
「ここでルルネが勝ってくれれば良いんだが……相手が魔族となると難しそうだな」
「そうですね。おそらくですが、彼は円卓騎士第二位ブリーファです」
第二位か……。
辛い戦いになりそうだな。
その間、小競り合いを続けていた二人は、間合いを見極め、木剣を握り直す。
そろそろ決着をつけるつもりなのだろう――。
一拍おいて、二人は一気に飛び出した。
交差する二条の光。
そして最終的に立っていたのは――。
「しょ、勝者シークレット!! 英雄ルルネ様が敗北致しましたァ!」
その結果に会場がざわめき出す。
みんながみんなシークレットの正体について考察し合っていた。
……これはマズい。
彼に注目が集まった状態で正体を明かしたら――。
それよりも先に、誰かが決勝トーナメントでシークレットを倒す必要がある。
そんなことを思いながら、Aブロックの予選が終わるのだった。




