第四十九話「謎の男シークレット」
準決勝二回戦目は不気味な男シークレットとAランク冒険者レンの試合だ。
シークレットは相変わらずフードを深々と被っていて顔が見えない。
「彼がどんな戦いぶりをするのか、見物ですね」
真剣な表情でアカネは言う。
ブロック戦とはいえ準決勝まで上がってきたのだ。
そこまで弱いとは思えない。
でもルルネよりも強いとも思えないけどなぁ。
そんなことを考えながらステージを見る。
やっぱりシークレットの立ち姿はどこか不気味だ。
捉えどころがない気がする。
「それでは準決勝二回戦目、開始しますッ!」
そんな審判員の声とともに、コインが高く舞い上がる。
クルクルと舞い、ゆっくりと地面に落ちて――。
カツンと音が鳴ると同時にシークレットはその姿を消した。
「……なっ!?」
冒険者のレンは驚きの表情を上げる。
俺たちは遠く離れた場所から見ているので、シークレットが何をしたか分かった。
彼は転移魔法を使ってレンの背後に一瞬で回ったのだ。
あれはもの凄い速度で移動したとかではないだろう。
しかし転移魔法の必要魔力量はかなり高く、一度で普通なら規定値を超えてしまうはず。
でも引っかからなかったってことは、相当な魔力効率を誇っているに違いない。
背後に回ったシークレットは口元を半月に歪めて、木剣を思い切り振るう。
ドゴンッというもの凄い音とともにその場からレンは吹き飛ばされていった。
そのまま壁にたたきつけられたレンは、瓦礫の下に隠れてしまった。
「なんとっ!? あれは転移魔法でしょうか!? いきなり背後に現れたと思ったら、もの凄い勢いで冒険者レンが吹き飛ばされていったぞ!!」
実況者はワンテンポ遅れてそう叫んだ。
彼も一瞬の出来事過ぎて認識しきれなかったのだろう。
「起き上がれるか、レン! ――と、何とか起き上がったみたいです!」
流石はAランク冒険者。
あの攻撃を受けてもギリギリで起き上がった。
でももうフラフラで、戦う能力はそこまで残って居なさそうだ。
それでもレンの瞳には戦闘意欲が消えていない。
流石の執念としか言い様がなかった。
そしてレンは無理にニヤリと笑い、言った。
「やるな……。だが! 俺は負けない!」
「ふっ……負けないか。しかし俺はお前に用はない」
冷たく淡々とシークレットはそう返した。
どうやらレンには興味ないらしく、一瞬で決着をつけるつもりらしい。
再びシークレットの姿が消えた。
レンはそれを読んでいたのか、当てずっぽうで剣を振るった。
――ガキンッ!
当てずっぽうに振るった剣は運良くシークレットの振るった剣とぶつかり小競り合った。
ガリガリという音が響くが、やっぱりレンが不利なようで、彼の右足は地面にのめり込んでいく。
「ふむ……運は良いらしい。でもお前では魔力量が足りない。私の目的には達しない」
「目的だとっ……!? 何のことだ!?」
「それを言うことは出来ない。ただお前では力不足というわけだ」
そしてシークレットは剣をいったん引くと、もう一度思いきり横に薙いだ。
それに反応する力はもうレンには残っておらず、彼は吹き飛ばされ壁にぶつかった。
「レンは気絶し、勝者シークレットとなりました! 圧倒的な試合でしたァ!」
こうして準決勝二回戦目が終わった。
次は決勝戦、ルルネとシークレットの試合だ。
二十分のインターバルの後、その試合が始まろうとするのだった。
***
対峙するルルネとシークレット。
ルルネは先ほどの試合を見ていたのか、緊張した様子だった。
「ルルネか……。魔力量的には問題なさそうだな。やはりこの闘技大会に来て正解だったな」
シークレットはルルネを見てポツリとそう呟いた。
そんな彼の言葉にルルネは首を傾げて言った。
「どういう意味よ、それ?」
「いや、何でもない。こちらの話だ」
そして二人は木剣を構える。
それを見たアーシャは緊張した声音で言った。
「大丈夫でしょうか、ルルネは。相手はかなりの強敵らしいですけど」
「いや、分からんな。こればっかりはルルネを信じるしか無いが……」
他のみんなも固唾を呑んで見守っている。
ただ一人、ナナだけが事情を把握しきっていないのか、ワクワクした表情をしていた。
「あのシークレットさんって人、強そうだね! 凄い!」
「ああ、強いってもんじゃないぞ。あれは普通じゃない」
何者なのだろうか、シークレット。
ふと思い返されるのは前に戦った円卓騎士第一位のゼノスだ。
あいつと同等レベルの能力はありそうだった。
魔族って線は……?
そのことに気がつき、俺はゾッとする。
あり得なくはないが、わざわざ闘技大会に出て目立つ理由も考えられなかった。
分からん、分からんが、しかし嫌な予感だけがビンビンとしていた。
「それではAブロック決勝戦を開始しようと思います!」
審判員はそう叫んで、コインを弾いた。
そして宙を舞うコインが地面に落ちた瞬間――。
再びシークレットの姿が掻き消えるのだった。
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