第四十八話「準決勝に決着がつきました」
バイスに近づいたルルネはその勢いのまま思いきり木剣を振るった。
彼は何とか自分の木剣でその攻撃を受けるが、堪えきれず吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
もの凄い勢いで決闘場の壁に激突するバイス。
粉塵が舞い、彼の上から瓦礫が落ちてきた。
しかしこれでは決定打にはならないだろう。
それはアカネも思ったのか、まだ試合に集中したまま言った。
「まだバイスは倒れていませんね。……なかなかしぶといみたいです」
その言葉の通りバイスは瓦礫をかき分けて起き上がってきた。
「……急に強くなったが、やはり手加減をしていたか」
バイスはポツリと呟く。
そう言いながらもその表情は獰猛に笑っている。
彼も根っからの騎士であり、強敵というものに高揚感を覚える質なのだろう。
「しかし……やはり私は負けられない。ここで負けるわけにはいかないのだ!」
まだその瞳には戦意が満ち満ちていた。
当たり前だが、こんな程度では諦めないということだろう。
「そうこなくっちゃ。さあ、まだまだ行くわよ」
楽しそうにルルネは言うと、トントンと軽くその場でジャンプする。
自分の身体の調子を確かめるように。
その様子を見たバイスは冷や汗を再びたらりと垂らすが、彼の表情は変わらず笑みを浮かべていた。
「さて、今度こそ決着をつけるわよ」
そう言ってルルネはタンッと地面を蹴った。
次の瞬間にはバイスの目前に迫っている。
「何のこれしき……ッ!」
バイスは何とかその速度についていくように剣を振るうが、ルルネはそれに剣を合わせる。
そして流されていくバイスの攻撃。
そのせいで彼は体勢を崩し、そのタイミングでルルネは剣を振るう。
――ドゴンッ!
しかし吹き飛ばされると思っていたバイスは、何とかその攻撃を踏ん張った。
気力と思いの強さで、魔力効率が奇跡的に上がっているのだろう。
耐えたバイスはルルネの目の前でにやりと笑う。
「もらったッ!」
そう叫びながらバイスはルルネに剣を叩きつけようとする。
しかし彼女は冷静だった。
ぬるりとその攻撃を避けると、背後に回り再び剣を振るう。
今度こそ吹き飛ばされていくバイス。
だが今回は壁に激突するほどではなく、彼は途中で止まった。
「凄い、凄い戦いだァ! ブロック予選とは言え流石は準決勝だッ!」
熱を込めて実況者は声を張り上げる。
ルルネは耐えたバイスを興味深そうに眺めると、こう言った。
「……流石ですね」
「いや、まだまだだな私は。防戦一方だ」
悔しそうに言うバイスに、ルルネは微笑むと深々と被っていたフードを突然取った。
急に現れた英雄の顔に会場は騒然とする。
「これは……ッ! 覆面Rはなんと英雄ルルネ様だったのだッ!」
実況者も驚いたように大声を出した。
相対するバイスもこれには驚きを隠せないようだった。
「ル、ルルネ様……どうして……」
「ごめんなさいね。でも私もアクアヴィーナスを渡したい相手がいるのよ」
その言葉にバイスはフッと笑った。
「そうか……。英雄と呼ばれたルルネ様も一人の女性だったという訳か」
「ええ。アナタの頑張りに免じて正体を現したわ。だからもう負けられない」
確かにここで負けてしまえば、彼女の英雄としての名に傷がつく。
バイスとの戦いに本気で挑むために、背水の陣を敷いたというわけだろう。
「ルルネ、本気」
ポツリとニーナも言った。
俺もその言葉に頷くと口を開いた。
「ああ、これは一瞬で決着がつきそうだな」
俺がそう言った瞬間、ルルネは思いきり飛び出した。
その速度は先ほどとは変わりが無い。
しかし英雄として背負っている想いやしがらみが、彼女に力強さを与えていた。
「くっ……例え相手が英雄だったとしても! 私は負けないッ!!」
そう言ってバイスも地面を蹴って飛び出した。
そして交差する二条の光。
最後に立っていたのはやはり――。
「勝者は覆面Rもとい、英雄ルルネ様だぁあああああああ!」
バイスはバサリと倒れ、ルルネだけがステージで立っていた。
決着がつき、会場は大喝采で包まれる。
ルルネの名を呼ぶ声で溢れかえった。
彼女はバイスのほうに歩み寄ると、彼に手を差し伸べた。
まともに動けないバイスだったが、何とかその手を握ると起き上がった。
「……完敗だよ、ルルネ様」
悔しそうに言うバイスだったが、それでもその表情は晴れやかだ。
真剣に戦って勝てなかった。
そのことが彼の騎士精神に火を点けたのだろう。
「それでもなかなか強かったわ。また強くなったら戦いましょ」
「ふっ……強者の台詞だな、それは」
自嘲気味に言ったバイスにただ微笑みかけるルルネ。
こうしてAブロックの準決勝は終わり、三十分の休憩の後、準決勝の二回戦目が始まるのだった。




