第四十五話「ナナちゃんの大いなる夢」
ナナちゃんの家のリビングで俺は彼女と向かい合って座っていた。
「まずは魔力操作についてだが、とりあえず俺の手を握ってごらん」
「手を? どうして?」
「握ってみれば分かるさ。ほら、手を出して」
そして恐る恐る手を出したナナちゃんの手を俺は握る。
すると茫漠な魔力があるのが分かるが、俺はそれを丁寧に動かしていく。
「あっ! なんか魔力が変わってく!」
「だろう? これが魔力操作ってやつだ。この感覚を今日は覚えるぞ」
「分かった! やってみる!」
俺は彼女が魔力操作をしようとしているのを、補助してあげるように動かしていく。
こういうのは感覚で覚えるのが大事なのだ。
だから繰り返し、何度も魔力を操作させていく。
「うーん、難しい……」
「最初はみんなそんなもんさ。これから上手くなっていくよ」
俺が言うと彼女は目を輝かせて言った。
「ほんと!?」
「ああ、ほんとだとも」
そんな俺たちの様子を見ていたニーナも話に入ってくる。
「ナナ。いったん力を抜いて」
「力を……? 分かった、やってみる!」
確かにナナちゃんの肩に力が入り過ぎていた気がする。
力を抜いたナナちゃんにニーナは更に言葉を続けた。
「自然に流れていくのを感じるの。水のように、川のように」
「水、水……、あっ! もしかしてこういうこと!?」
何かを掴めたみたいで、俺がほとんど補助しなくても自分で魔力を循環できるようになっていた。
流石はニーナだ、人に教えるのも上手らしい。
「そう。そんな感じ。アリゼさんの手を離してみて」
ニーナの言葉に頷いて恐る恐る俺の手を離した。
しかしそれでもゆっくりと魔力が循環していて、魔力操作の一歩目が成功したことを示していた。
「凄い凄い! なんか分かった気がする!」
「でも今日はそれをずっと繰り返していくことだな。それより先はまた今度だ」
「分かった! ありがとう、おじさん、ニーナ様!」
おじさん……。
やっぱり俺はおじさんらしい。
そんなことをしていると、奥からお母さんが出てきて俺たちに行った。
「あの……お礼にはならないかもしれませんけど、ご飯を食べていきませんか?」
そう言われたがどこからどう見ても人にご飯を振舞えるほど、金銭的に余裕があるとは思えない。
「いや、そこまで気にしなくても大丈夫だぞ。それよりもナナちゃんにたくさん食べさせてあげな」
その言葉とともにナナちゃんのお腹がぐうっと鳴る。
それを聞いたニーナはナナに尋ねた。
「お腹空いたの?」
「うん……。ちょっとお腹空いたかも」
「そう。だったら一緒に食べない? お母さんも一緒に」
そう言われたナナちゃんは嬉しそうな表情になる。
「え!? いいの!?」
「もちろん」
しかし母はどこか申し訳なさそうに俯いて言った。
「それでは私たちが貰ってばかりになってしまいます」
「気にすんなって。やっぱりご飯はみんなで食べたほうが楽しいだろ?」
というわけで、俺たちは一緒に夕食を食べることになり、ルルネたちがいる宿を探し始めた。
***
「それじゃあ、いただきます!」
目の前に広がるたくさんの食事に目を輝かせながらナナちゃんは言った。
やっぱり母親は申し訳なさそうにしているが、思わずと言った感じで腹が鳴る。
「……あっ。す、すいません」
それにアーシャが微笑んで言った。
「気にしなくて大丈夫ですよ。いっぱい食べてください」
「あ、ありがとうございます」
そして夢中になって食べ始める母娘を俺たちは温かめで見てしまう。
……いや、負けじとミア一人だけが食事にがっついていたが。
ミアはふと顔を上げると、ナナちゃんに尋ねた。
「ナナさんは食べるの好きなんですか?」
「うん! 私はね、お腹いっぱいにご飯を食べるのが夢だったんだ!」
そうか、それなら振舞ってあげて本当に良かった。
そんな彼女の母はぽつりと言葉を零した。
「ナナの父――私の夫は魔王軍との戦いで死んでしまったんです」
その言葉にアーシャたちはみな申し訳なさそうに顔を伏せた。
母はそれを見て慌てたように言葉を付け加える。
「あっ、いえ! 別に責めているわけじゃなくて、感謝してるのですよ! 夫の仇を討ってくれてありがとうって」
しかし責任感が強い彼女たちのことだ。
間違いなく負い目は感じてしまっているだろう。
ナナの母にルルネが代表して言った。
「すいません、私たちが至らないばっかりに犠牲を増やしてしまっていたのですね」
「そ、そんなことありませんよ! 悪いのは全部魔王なのですから!」
俺はこの話が平行線を辿る気がしたので、パンっと手を打って言った。
「じゃあこうしよう。ルルネたちは負い目を感じていて、ナナちゃんたちは魔力操作に困ってる。だったらナナちゃんがしっかりと魔力操作を出来るようになるまで俺たちで見守る。これでどうだ?」
そんな俺にルルネが呆れたような表情を向けてきた。
「ちゃっかりアリゼさん自身も入っているあたり、お人好しですよね」
「それを言うならお前たちもじゃないか。で、ナナちゃんの母親的にはどうだ?」
そう尋ねると、彼女は頭を深々と下げて言うのだった。
「ありがとうございます。この恩は絶対に忘れません」




