第四十一話「今度はニーナとデートです」
「それで、ニーナはどこに行きたいんだ?」
今日はニーナとのデートの日だ。
朝、準備をしながら彼女にそう尋ねる。
すると短くこう答えた。
「本屋」
「ああ、本屋に行きたいのか。ニーナらしいな」
と言うわけで、俺たちは本屋へ行くことになった。
この街の本屋はあまり大きくなさそうだがな。
でもこういった場所に掘り出し物とかが置いてあったりするかもしれない。
「じゃあ早く行こう」
「そうだな。少し寝過ごしちゃったしな」
俺は昨日飲んだせいもあって、寝坊してしまっていた。
もう日も高く上っていて昼前くらいか。
何度も謝って許してもらったが、やっぱりちょっと申し訳ないことしたよな。
「それで、何か目的の本とかはあるのか?」
歩きながらニーナにそう尋ねる。
彼女は少し首を傾げて考えた後、答えた。
「特に」
「そうか。でもニーナのことだし、魔法書とかが欲しかったりするんだろ?」
「いや、英雄譚とかの物語でも可」
へー、ニーナが英雄譚を読むなんて珍しい。
いつも難しそうな魔法書とか学術書とかを読んでいたイメージだ。
「何でまた英雄譚なんだ?」
「歴史も知ったほうがいいと思った。それに魔法書は大体読んでしまったから」
おおう、大体読んだとか流石すぎる。
まあ英雄となった今ならいくらでもそう言った本は集められるだろうしな。
だがニーナは何故かポッと頬を赤らめると言葉を続ける。
「ほら……子供が出来た時とか、子供に読み聞かせもしないといけないし」
「子供、子供かぁ。ニーナはそういう相手がいたりするのか?」
いるとしたら凄く悲しいが、それだけニーナも成長したということだ。
ニーナは俺の言葉に今度はムッとした表情をすると言った。
「その質問は愚問。いるわけない」
「そ、そうか……。それはすまんことを聞いた」
「いや、いい。決まった人はいるから」
マジかよ! 決まった人いるのか!
お父さんの前に連れてきなさいと言いたいところだが、そもそも俺は彼女の父でもないしな……。
思わず俺が落ち込んでいると、ニーナははあっとため息をついて言った。
「やっぱり鈍感。アリゼさんは10年前から何も成長してない」
「くっ……せ、成長くらいはしているさ」
「いいや、してない。私が言うのだから間違いない」
悲しいなぁ……。
そして俺たちは街の小さな本屋を見つけ、そこに入ってみる。
「失礼しまぁす」
俺はそう言って店の扉を開いた。
すると嗄れた声が返ってくる。
「いらっしゃい。何か用かね?」
そうカウンターの向こうから顔を出したのは皺の寄ったお婆ちゃんだった。
彼女は鋭い目でこちらを見るが、俺を見ると目を見開いた。
「——お前さん、さてはアリゼだね?」
「……え? 何で俺の名前を?」
「流石に覚えとらんか。まあお前さんが10代前半の頃だ。仕方がないだろう」
10代前半は《黄金の水平線》に拾われて旅をしていた頃だろう。
何か覚えてないかと記憶を思い出そうとして、そして——。
「あっ! もしかしてベアと仲の良かった学者のお姉さん!?」
「そうだ。よく覚えていたな」
彼女のことはよく覚えている。
マットサイエンティストさながらに過激な実験を繰り返していた人だ。
よくベアの狩ってきた魔物を引き取って、それで実験をしていた。
ベアもそれにはノリノリで、二人して楽しそうに夜更けまで実験をしていたものだ。
「そうか……レアナさんももうお婆ちゃんか……」
「ははっ、もう30年も経っているのだ。当たり前だろう」
「しかし、どうしてこんなところで本屋を?」
「老後なんだ、静かなところでゆっくりしていてもいいだろうが」
そう言った後、レアナさんはニーナの方を見て尋ねた。
「で、そちらは英雄様のニーナ様だね?」
「うん、そう。私はニーナ」
「そうかそうか。ありがとう、ニーナ様。お主のおかげで今の世界は平和になったのだから」
そう直接感謝され、ニーナは満更でもなさそうな表情になる。
必死に照れを隠そうと無表情を様子が、口元のニヤケが抑えきれてない。
意外とニーナって感情豊かだからな。
あんまり口調とかには出ないだけで。
今回は流石に嬉しくて抑えきれなかったのだろう。
「それで、今日は何を買いにきたんだね?」
「ああ、そうだ。英雄譚とかが欲しいらしいぞ」
「英雄譚か……。それならとっておきがある」
そして店の奥に戻っていくレアナ。
どうやら陳列されているものではないらしい。
戻ってきて、彼女の手に持っていたものはとても古そうな一冊の本だった。
「それは何?」
その本を見たニーナは興味深そうに尋ねた。
レアナはニヤリと笑みを浮かべるとこう言った。
「これは700年前に現れた魔王と、それを倒した勇者様たちの話さ。魔王を倒した後、勇者様たちがどこへ行ったのかとかまで書かれている」
……それってとても貴重なものなのではないか。
ニーナもそう思ったのか、首を傾げて言った。
「何でそんなものをお婆さんが持っているの?」
「ふふふっ、それはな、私が勇者たちの末裔の一人だと言うことだよ。まあ他の末裔たちは一つの僻地の村に引きこもっているけどな」
含むように笑いながら、レアナはそう言うのだった。




