第三十七話「アーシャとショッピングします」
そして次の日、俺はアーシャと一緒にショッピングをすることになった。
宿を出て街を歩きながら隣を歩くアーシャに尋ねる。
「それで、何を買いたいんだ?」
「そうですね……まずはやっぱり洋服が欲しいです」
まずはってことは他にも欲しいものがあるのだろう。
おじさん、若い感性を失っているからついていけるか心配です。
「じゃあ洋服屋に向かうか」
「はい。お願いします」
チラリと隣を歩くアーシャの表情を見ると、やっぱり嬉しそうだ。
まあこうして一緒に出掛けるのも十年ぶりだからな。
かくいう俺も、実はワクワクしていたりするのだった。
街の大通りをブラブラ歩きながら良さげな店を探す。
女性ものの洋服とかよく分からないので、基本はアーシャに任せきりだが。
「あっ、あそこ入ってみてもいいですか?」
そう彼女が指さしたのは少し質素な感じのする洋服屋だった。
きらびやかな装飾というよりかは、機能性重視みたいな。
「あそこでいいのか?」
アーシャなら英雄なのだし、お金も持っているだろう。
もっと豪華なものも買えるはずだが、その店がいいみたいだった。
「はい、あの店がいいです」
「よしっ、それじゃあ入ろうか」
ちなみに俺たちは伊達メガネをしたり、帽子を被ったりして変装している。
意外とそれだけでもバレないものだ。
「いらっしゃいませー」
店に入るとやる気のなさそうな挨拶が聞こえてきた。
店番をしているのはそばかす赤毛の女の子だった。
「あの、上着が欲しいんですけど……」
そうアーシャは店番している少女に話しかけた。
少女はチラリとアーシャを見て、バッと姿勢を正した。
もしや正体がバレたものかと思ったが。
「綺麗な人ですね……。こ、これは本気で選ばせて貰います!」
少女が姿勢を正したのは、アーシャの顔立ちが整っているせいだった。
確かにアーシャは顔立ちが凄く整っている。
まあ奴隷だった少女たちはみんな整っているけどね。
「ありがとうございます。ええと――」
「私はエミリって言います! よろしくお願いします!」
アーシャが微笑みかけて言うと、エミリと名乗った少女は顔を真っ赤にして頭を下げた。
「よろしくお願いします、エミリさん。私は……そうですね、アーシャって言います」
一瞬、アーシャは自分の名前を名乗るかどうか迷ったが、結局名乗ることにしたらしい。
その名前を聞いたエミリさんは感心そうな声を上げた。
「へえ……英雄様と同じ名前なのですね。羨ましいです」
「そうですか? 目立ってあんまりいいことありませんよ」
そんな会話をしながら、エミリさんはアーシャを連れて店内を案内する。
どうやら洋服には詳しいらしく、色々な知識を知っていた。
「これはですね、ブラッドベアーの毛皮を使っているので、とても丈夫で暖かいんですよ」
そう提案した上着は確かに暖かそうだった。
ファッション性はあまりないが、アーシャなら綺麗に着こなせると思う。
彼女もそれを気に入ったのか、エミリさんにこう尋ねた。
「それ、試着してみてもいいですか?」
「はい! 構いません! ぜひ着てあげてください!」
上着なので、その場で彼女は羽織ってみた。
「うん、メチャクチャ似合ってるじゃないか」
俺はそれを着たアーシャを見てそんな感想を漏らす。
エミリさんも嬉しそうに口を開いた。
「ええ、凄く似合ってますよ! やっぱり素材がいいと洋服が映えますね……」
そう褒められてアーシャは照れくさそうにその上着を脱ぎながら言った。
「じゃあ、これをお願いします」
「はい! 分かりました!」
そしてその上着を梱包してもらい、会計を済ませる。
本当は俺が出したかったけど、あまりお金を持っていないから出せなかった。
悲しい。
だが買い物を済ませたアーシャは上機嫌そうだった。
「ふふっ、いい買い物が出来ました」
「良かったな。凄く似合ってたし」
「そうですか? やっぱりアリゼさんに褒められると嬉しいですね」
その言葉に俺は首を傾げながら言う。
「そうか? 俺は感性の古いおっさんだぞ?」
「そんなのは関係ありません。アリゼさんだからいいのです」
うーん、そういうものなのだろうか。
よく分からんが、そう言うならそうなのだろう。
無理やり納得させていると、アーシャが時計塔の時計を見ながら言った。
「そろそろお昼時ですね。何か食べましょうか」
「そうだな。お腹空いたしな。アーシャは何を食べたい?」
「ふふっ、私はアリゼさんの食べたいものが食べたいです」
微笑みながら彼女は言った。
……時々アーシャは凄く魅力的なセリフを言うよな。
意識して言っているのか、無意識で言っているのかは分からんけど。
気を抜くと異性として意識してしまいそうだ。
「それじゃあ……やっぱりデートと言えばパスタとかだよな」
「パスタですか。分かりました、それにしましょう」
そして俺たちはパスタ屋を探し、店に入ろうとした直前。
その脇の裏路地でうずくまって泣いている少女を見つけるのだった。
 




