第三十六話「デートウィークが始まります」
俺たちは鏡華大心国への道すがらに、小さな街へ寄った。
いったんちゃんと休憩を取ろうということになり、一週間ほど滞在する予定だ。
「というわけで! 今週はデートウィークにしたいと思います!」
宿の一番大きな部屋を借り、そのベッドの上でミアはそう宣言をした。
その言葉に俺は首を傾げて尋ねた。
「デートウィーク? なんだそれは」
その問いにミアは人差し指を得意げに立てながら説明する。
「それはですね……今週は私たち五人が、一人ひとりアリゼさんとデートをしていくのです!」
「え、一人ひとりとデートしていくのか……? それってかなり大変なんじゃ?」
しかし俺の言葉は無視され、少女たち五人は盛り上がっていく。
「流石はミアね。いい提案をするわ」
「そうですね、ルルネに全面的に同意します」
「いいじゃん、デート! 私もしたい!」
「デート。……楽しみ」
それぞれが楽しそうにそう言っているのを見て、流石にやめますなんて言えなかった。
おじさんが少女たちの夢を壊すわけにもいかないしなぁ……。
ミアはベッドの上に立ちながら、さらにこう言葉を続けて言った。
「さて――後は順番決めですが……」
その言葉に空気は一変。
バチバチとした緊迫感のある空気に変わった。
「あなたたちには絶対に負けないわ。勝たせてもらうわね」
「いえ、勝つのは私です。ルルネさんには――いえ、皆さんにも負けません」
ルルネの勝気なセリフにアーシャも強気で返す。
それを聞いていたアカネは立ち上がり、ブンブンと腕を振りながら言った。
「戦闘なら負けないよ。どこからでもかかってきな」
そんなアカネに若干の呆れ顔を含ませながらニーナが言う。
「……アカネは脳筋。戦闘なわけない」
ニーナの言葉に頷いて、ミアは高らかとこう宣言した。
「勝負はいたって簡単! じゃんけんです! これなら不平等は起こらないでしょう?」
途端にみんな、それぞれでじゃんけんのトレーニングを始めた。
……じゃんけんのトレーニングってなんだよ。
ただの運ゲーにトレーニングとかないのだが、それぞれが真剣な表情でやっている。
しかしおじさん、少しばかり疎外感を感じます。
「さて、そろそろ始めましょうか」
ミアの言葉に余計空気に緊迫感が走る。
ピリピリとしながら、みんなはじゃんけんの構えを取った。
「最初は、ぐー!」
高まっていく緊張感にどうしても疎外感が拭いきれない。
……そこまで順番大事か?
ちゃんとみんなとデートするって。
「じゃんけん――」
そして高まりきった緊張感の中、五人揃って勢いよく手を出した。
「ぽんっ!」
……あいこだ。
「……あいこですね」
「そうだな……。残念だ、ここで勝ち逃げしておきたかったが」
アーシャの言葉にアカネがぽつりと返す。
どんだけ順番に命かけてるんだよ……。
おじさん、ちょっとついていけないです。
「じゃあ、いきますよ。――あいこで」
再びじゃんけんの構えをし、緊張感が高まっていく。
なんかこっちまでドキドキしてきたけど、絶対に錯覚だよなぁ。
「しょ!」
お、今回は勝負が決まったな。
「……ふっ、勝ちましたね。激しい戦いでした」
ドヤ顔で他の四人を見ながらアーシャは言った。
他の四人は本気で悔しそうな顔をしている。
「しかし! まだ二番手が残ってます! またまたいきますよ!」
ミアは気を取り直してそう言うと、再びじゃんけんを始めるのだった。
それから十数回の勝負ののち、順番が完全に決まった。
一番手がアーシャ。
二番手がアカネ。
三番手がニーナ。
四番手がミア。
そして最後がルルネだった。
それぞれ勝ち誇った表情や悔しそうな表情を滲ませている。
まるで激しい戦いがあった後のようだった。
ようやく勝負が終わり、俺が会話に混じる余地が生まれたので、アーシャに尋ねてみた。
「それで、アーシャはどこに行きたいんだ?」
俺の言葉にハッとアーシャはやっちまったみたいな表情をする。
「そうでした。勝負に夢中でどこに行くかを考えていませんでした」
「……おいおい、そっちのほうが大事だろ、多分」
それからアーシャは、というか他の四人も、どんなデートをしたいか真剣に考え始める。
暫くしてアーシャはぽつりとこう言った。
「私は……ショッピングに行きたいです」
「そんなんでいいのか?」
「そんなのがいいのです。アリゼさんとショッピングなんて久しぶりですし」
というわけでとりあえずアーシャと行く場所が決まった。
「というか、もう夜も更けてきたしそろそろ寝ようぜ。他の四人はまだ考える時間があるんだしさ」
俺がそう言うと代表してルルネが言う。
「そうですね。そろそろ寝ましょうか。……ふっ、まだ私たちには考える時間があるので」
そして何故かアーシャに勝ち誇ったような表情を向ける。
それに対してアーシャは悔しそうな表情をした。
……うん、時間が経って彼女たちの考えていることが、分からなくなってしまったかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は自分の部屋に戻って一人眠りにつくのだった。
 




