第三十四話「英雄たちは集結し、決着がつく」
唐突に力——魔力が湧き上がってきたのは、おそらくあの天空城の恩恵なのだろう。
俺はその身に纏った炎の魔力を無理やり自分の制御下におくと、操れるようにした。
俺は魔力の扱いだけなら誰よりも長けているつもりでいるからな。
こうして茫漠な魔力を新たに得た俺なら、それくらいは出来ると思ったのだ。
「……ちっ! こうなったら分が悪いですが、ここで負けるわけにはいきません」
そして再び細剣を構えるメイド。
俺も対して剣を構える。
キリキリと高まっていく緊張感。
誰かが唾を飲んだ。
それは俺だったかもしれないし、メイドだったかもしれない。
だがそんなことは関係ない。
それが合図となり、俺たちは勢いよく飛び出していた。
「うらぁあああああああああああああ!」
「やぁああああああああああああああ!」
二つの光が交差し、甲高い音を奏でる。
立ち位置が逆転し、俺がいたところにメイドが立っている。
対して俺もメイドがいたところに剣を振り切った状態で立っていた。
——パキッ!
何かが折れた音が聞こえた。
それは俺の今まで使っていた剣の刀身だった。
俺たちの激しい戦いについて来れなくなったのだ。
魔力でエンチャントをしていたが、それでも無理だったみたいだ。
カランと折れた切っ先が地面に落ちる。
メイドが振り返ると同時に俺も振り返る。
彼女は俺の折れた剣を見てニヤリと笑みを浮かべた。
「……どれだけ強くても武器がなければ不利です。私の勝ちですね」
そう言いながらメイドは俺の方に近づいてくる。
そして剣を振りかぶり、そして——。
キラリと天から何かが落ちてくるのが見えた。
「……っ!?」
メイドはそれに気がついて一瞬でバックステップを取りその落下物を避けた。
それはベアが今まで使っていたダイアモンドソードだった。
世界最大級の《深淵迷宮》の最下層、第百層で彼女が手に入れた剣だった。
俺は落ちてきて地面に刺さったそれを引き抜く。
おそらく天空城から落としたのだろうそれは、俺の手にすんなりと馴染んだ。
「これなら戦える……」
まるで長年寄り添ってきた剣のように俺の手に収まる。
これならこのメイドに勝てると、そう思った。
いまだ燃え盛る炎の中で、俺はニヤリと笑った。
そして剣の切っ先をメイドの方に向けて言った。
「これで終わりだ、メイド。俺の——いや、これが俺たちの……力だぁあああああああああ!」
地面を思い切り蹴る。
地面が捲れ、後方に土埃が舞う。
一瞬にしてメイドの近くに迫った俺は、全力の一撃を振るった。
メイドは必死になってそれを防ぐが、圧倒的な力の前にそれは無力で。
もの凄い勢いで吹き飛ばされていくメイドは、地面を何度もバウンドして壁に叩きつけられた。
「——がはっ!?」
ズルズルと地面に倒れ伏し、どうやら意識を失ったらしい。
「……勝ったのか?」
俺がぽつりと呟くと、少女たちが天空城から飛び降りてくるのが見えた。
「「アリゼさぁああああん!」」
なぜかアカネとニーナもいて、五人揃っているみたいだった。
俺が纏っていた炎を霧散させると、彼女たちは思い切り抱きついてきた。
みんながみんな泣いている。
どうやらひどく心配させてしまったらしい。
しかし疲れてしまっていた俺は、その彼女たちの腕の中で意識を手放すのだった。
***
目を覚ますと豪華な天井が見えた。
少し視線をずらすと、英雄と呼ばれた少女たちが俺のベッド脇に伏せるように眠っている。
みんな俺を心配してずっと見ていてくれたみたいだ。
と、そのときガチャリと部屋の扉が開き、クリスさんが顔を覗かせた。
「皆様、ずっとそうしていると風邪をひきますわ……って、あら。アリゼ様、起きたのですね」
そう言う彼女に俺は人差し指を唇に当てて静かにするように言う。
「みんな疲れて眠ってるから、しばらくこのままにしてあげよう」
「……そうですわね。アリゼ様の体調はいかがですの?」
小声になったクリスさんは俺にそう尋ねてくる。
俺は彼女に微笑みかけながら言った。
「もう大丈夫だな。十分回復したよ」
「それなら何よりですわ。ミア様が必死に治癒魔法を使っていましたので」
……そうか、やっぱりみんなに心配をかけてしまったか。
それは申し訳ないことをしたと、おじさん少し反省します。
「それで、あのメイドはどうなったんだ?」
「彼女——魔王軍円卓騎士第一位ゼノスは我々ニーサリス共和国が責任を持って管理しますわ」
「そうか……。それはありがたいな」
「魔力の発生を抑制する特殊な手錠で繋いでいるので、そう簡単に逃れられないでしょう」
それならよかった。
そんな話をしていると、むにゃむにゃとしていたアーシャが目を覚ます。
彼女は寝ぼけ眼を擦りながらこちらを見て、徐々に表情を明るくしていく。
「……アリゼさん? アリゼさん、起きたんですね!」
その大きな声によって他の子たちも目を覚ましていく。
「アリゼさん!」
「アリゼさぁああん!」
次から次へと俺に抱きついてくる彼女たちに俺は苦笑いを浮かべながらも、頭をそれぞれ撫でていくのだった。




