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第二十話「無事、模擬戦を勝ち取りました」

 早朝の訓練場で俺はバランさんを必死に避けていた。

 流石に元Sランクということもあり、反撃の隙もない。


 この世界には魔力と呼ばれる力がある。

 それは決して魔法にしか使えないというわけじゃない。

 筋力強化や意識加速など、剣術にも応用できる。


 そしてその魔力は《量》と《効率》によって発揮できる力が変わってくるのだが。


 おそらくバランさんは圧倒的な量でごり押しするタイプだ。

 俺はどちらかというと、量は少なく効率重視の人間だった。


 量は生まれつきで大体決まってしまうからな、才能がないと効率を上げるしかないのだ。


「はぁっ! なかなかやるじゃねぇか、英雄の師匠さんよぉ!」


 細かく剣を振りながらバランさんは言った。

 よくもまあ、あんな重そうな直剣を細かく振れるものだ。

 地の筋力も相当高いのだろう。


「こっちは何も反撃できてないけどねッ!」

「ははっ! 避けられるってだけで十分なのさ!」


 確か現在Sランクはこの世界に4人しかいないはず。

 つまり英雄であるルルネたちよりも少ないのだ。

 元が頭につくとは言え、そんな強すぎる相手に避けきってる俺を褒めて欲しい。


 それだったら彼らが魔王を倒せばよかっただろう。

 そう思う人もいるかもしれないが、彼らは連携が下手くそなのだ。

 個々人で圧倒的な力を持ち、我が強いので、制御しきれないとか。

 その点ではルルネたちはバランスが良く、連携が恐ろしいほど上手いので魔王を倒せたらしい。


「おじさんにこの攻撃は結構キツイんだけどねぇ!」

「その割には結構余裕ありそうじゃないか!」


 まあ確かに余裕がないわけじゃないんだが。

 それでもキツイもんはキツイのだ。


「それに俺とあんたに年齢差なんてあんまりないだろ! なあ!」


 ……それを言われてしまったらお終いだ。

 バランさんもかなり歳いってる気がするからな。


 くそう……こうなったら俺も『筋力強化を使う』しかないかなぁ。


 先ほど、俺は魔力の効率重視タイプだと言った。

 それでも圧倒的に量が足りないので、部分的にしか使っていなかったのだ。

 つまり避ける一瞬など、ところどころで瞬間的に魔力を使う。

 そうやって魔力を減らさないように工夫していたわけである。


 絶対量が少ないからこんな模擬戦で大量の魔力を消費したくなかったんだが……。

 これじゃあ仕方がないよな。


 魔力が減るともちろん倦怠感が襲ってくる。

 それが嫌なので、小出しにしていた。

 でもそんなことを言っている場合じゃないことを悟る。


「いくぞ――少しばかり、歯を食いしばったほうがいいかも」


 俺はそう言って、全力の筋力強化を使用した。

 圧倒的火力、圧倒的速度を手に入れた俺は、バランさんの攻撃を軽々と避ける。


「――なっ!? 動きが変わった!?」


 驚くバランさんの裏側に一瞬で移動すると、軽くトンっと木剣で叩く。

 すると、一拍置いて衝撃がバランさんを襲い、凄い勢いで吹き飛ばされていく。


 まあSランク冒険者ならこれくらい余裕で耐えるだろう。

 そんな予想通り、バラバラと落ちてくる瓦礫の中からバランさんが起き上がった。


 それを見ていた観客たちはざわざわと騒ぎ出す。


「おい……見たか、今の動き。何だあれ……」

「俺は見ることすら叶わなかったぞ……。速すぎた」

「ヤバい! あのSランクのバランさんが一瞬で!」


 驚きの声たちを無視して、俺はバランさんに近づいて言った。


「まだ続けるか? 俺としてはもう魔力を使いたくないんだが」

「……いや、いい。合格だよ、当たり前だろ」


 むすっとしながらバランさんはそう言った。

 どうやら負けて相当悔しいらしい。


 俺は彼に手を差し出して、起き上がるのを手伝ってあげる。

 バランさんは起き上がると俺に尋ねてきた。


「で……どうして急に動きが変わったんだ? いきなり強くなったが」

「ああ、ただ普通に筋力強化を使っただけだよ」


 すると彼は目を見開き震える声で聞いてきた。


「もしかして最初は筋力強化も使ってなかったのか……?」

「いいや、一瞬だけ、部分的に最小限で使っていた、というのが正しいか」


 俺の言葉に彼は苦虫を嚙み潰したような顔をして頷いた。


「なるほどな。そんな芸当を出来るのはあんただけだろうが……まあ、納得は出来る」


 どうやら納得してもらえたらしい。

 バランさんは体についた土ぼこりを払いながらさらに続ける。


「ここまでできる人間がAランクなのもおかしいけどな。Sランクになるには冒険者ギルド本部があるニーサリス共和国まで行かないといけないからな」


 ニーサリス共和国か、それなら目的地とも被るが。


「ともかくニーサリス共和国の冒険者ギルド本部を訪れる機会があれば、Sランク申請をしてみるといい。あんたならすぐになれるだろうし、俺も一応推薦状を書いておこう」


 そして俺は模擬戦を終え、無事冒険者カードの更新を終えた。

 俺が王城に帰ると、勝手に出ていったことを美少女三人から責められるのだった。



   ***



 魔王軍円卓騎士第四位、ジジーニャはとても狡猾な男だった。

 陰に潜み、虎視眈々と英雄たちに復讐する時を待っていた。


 そして――とうとう動き始める。


 擬態をし、普通のどこにでもいるような男の格好をして帝都に潜り込むと。

 彼は含むような笑みを浮かべて王城に向かうのだった。

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