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第百七十六話「集う光」

 アリゼの持つ《魔力発信機》が放つ温かい光は、まるで心臓の鼓動のように、規則正しく、そして力強く明滅を繰り返していた。

 その場にいた全員が、言葉を失ってその小さな光の源を見つめている。

 それは、離れ離れになった仲間が、すぐそこまで来ていることを示す、紛れもない希望の徴だった。


「みんな……!」


 ミアの瞳から、再び安堵の涙がこぼれ落ちる。

 アリゼとアーシャとの再会だけでも奇跡のようだったのに、さらに遺跡に向かった仲間たちも戻ってくるかもしれない。

 その期待に、胸が熱く高鳴った。


 どれほどの時間が経っただろうか。

 誰もが固唾を呑んで東の森を見つめる中、ついに木々の間から四つの人影が姿を現した。

 先頭を歩くのは、銀狼族の戦士カゲト。

 そして、その後に続くのは、長い旅路の疲労を滲ませながらも、その瞳に強い意志の光を宿した、三人の少女たち。


「ルルネ……! アカネ……! ニーナ……!」


 ミアが、ほとんど叫び声に近い声でその名を呼んだ。

 その声に、森から現れた三人もはっと顔を上げる。

 そして、そこにいるはずのない懐かしい顔ぶれ――アーシャ、そして何よりも敬愛する恩人、アリゼの姿を認め、その場で立ち尽くした。


 一瞬の静寂。

 それを破ったのは、アカネだった。


「アリゼさんッ!」


 彼女は背負っていた大剣の重さも忘れたかのように、一直線にアリゼの元へと駆け出した。

 そして、以前再会した時と同じように、その胸に思いきり飛び込む。


「痛い痛い!」


 アリゼの嬉しそうな悲鳴が響き渡る。

 半年ぶりの再会は、あまりにも唐突で、そして温かかった。


「ルルネ!」

「アーシャ!」


 ルルネとアーシャも互いに駆け寄り、固く抱きしめ合う。

 互いの無事を確かめ、これまでの苦労を労うように、その背を優しく叩き合った。


 そしてニーナは、いつもの無表情をわずかに崩し、静かな足取りでアリゼの前に立つと、ただ一言、こくりと頷きながら呟いた。


「……うん。会えて、よかった」


 アリゼは、目の前に再び揃った五人の「娘たち」の顔を、一人一人、愛おしむように見つめた。

 奴隷だった頃の怯えた少女の面影は、もうどこにもない。

 大陸を救い、そしてさらに別の大陸に飛ばされてなお、仲間を想い、戦い続けてきた、誇り高き英雄たちがそこにいた。

 その成長が誇らしく、同時に、彼女たちが背負ってきたものの重さを思い、胸が締め付けられるようだった。


「……ああ。全員、無事だな」


 アリゼがそう言って微笑むと、五人もまた、涙と埃にまみれた顔で、最高の笑顔を返した。

 長かった分断の時は、終わりを告げたのだ。



   ***



 長老の計らいで、一行は村で一番大きな小屋に集まり、これまでの出来事を共有し始めた。

 それは、バラバラだった物語のピースが一つに合わさっていく、重要な瞬間だった。


 まず、ルルネたちが《オーカスの遺跡》での出来事を語った。

 心の試練、守護者との対話、そして手に入れた《聖なる水晶》。

 一行の中央に置かれた水晶は、周囲の空気を浄化するかのように、穏やかな光を放っている。


「そして、守護者はこう言いました。『赤き月が昇る刻、覚醒の祭りが始まる』と……」


 ルルネが告げた預言に、全員の表情が引き締まる。

 次に、アリゼとアーシャが王都の地下墓地で発見した研究日誌について話した。

《人工英雄の素》の非道な実験、そしてアルベルト公爵の研究所の場所が記された地図。


 最後に、ミアたちがこの村での攻防と、ネシウスの覚醒について語った。

 全ての情報が一つに繋がった時、アルベルト公爵の計画の恐るべき全貌が明らかになった。


「《大陸統一の覚醒祭》……公爵は、英雄の素を持つ者たちを強制的に《亜神》へと覚醒させ、その軍団で大陸を支配するつもりなんだ」


 アリゼが低い声で結論づける。


「ネシウスさんは、そのための最初の成功例……そして、指名手配された私たちは、本物の英雄として、儀式の最後の贄にされるはずだった……」


 ミアの言葉に、エリスとリアは青ざめた顔で俯いた。

 だが、今は絶望している時ではない。

 彼らの手には、反撃の切り札があった。


「この《聖なる水晶》があれば……」


 ニーナが水晶にそっと触れる。


「長老と緑炎の結社の知識を合わせれば、ネシウスさんを救い、公爵の野望を打ち砕くことができるかもしれない」


 そうだ、と全員の瞳に力が宿る。

 仲間は揃った。

 敵の目的も、倒すべき相手も分かっている。

 そして、希望となる力も、今ここにある。


 アリゼは、再び集った五人の娘たち、そしてこの過酷な旅路で出会った新たな仲間たち――エリス、リア、カゲト、そして師匠であるバランを見回した。

 誰もが傷つき、疲れ果てていた。

 だが、その瞳の奥には、どんな困難にも屈しない、燃えるような闘志が宿っている。


 彼は静かに立ち上がり、全員の顔を見渡して、力強く宣言した。


「よし、全員揃ったな。アルベルト公爵……お前たちの好きにはさせん。これから、俺たちの反撃を始める!」


 その声は、長く続いた逃亡と分断の終わりと、伝説の英雄たちの新たな戦いの始まりを告げる、力強い狼煙だった。

 銀狼族の村に集った光は、大陸を覆う巨大な闇を打ち払うべく、今、一つになろうとしていた。

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