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第十六話「慈愛の聖女ミアの登場」

「……ミアか? ミアなのか?」


 カミアの背中でグロッキーになっている少女に俺はそう尋ねた。

 彼女は今にも吐き出しそうになりながら、何とか言葉を捻り出す。


「あ、アリゼさん……。そうです、ミアです。お久しぶりです……」

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃありません……。今にも吐きそうです」


 顔が真っ青だ。

 まあその気持ちは痛いほど分かる。


 そして彼女は、のそのそとカミアの背中から降りようとしたので、俺は近寄って手を貸してあげる。


「……ありがとうございます、アリゼさん」


 そう言いながらもふらりと倒れそうになって、俺にもたれかかるようになる。

 立派に成長したミアの体は、柔らかく温かい。

 思わずそのことにドキリとしながらも、俺は平静を装って言った。


「いったん水でも飲むか?」

「……はい、お願いしてもいいですか?」


 ミアがそう言うや否や、周囲で警戒していた兵士たちが我に返り、我先にと水を汲みに行く。


「あと……アリゼさん……。もう一つお願いしてもいいですか?」

「ああ、いいぞ。言ってみろ」


 弱弱しい声で言うミアに、俺はしっかりと頷いた。


「それじゃあ……私の頭をナデナデして欲しいのです。前みたいに」

「なんだ、そんなことか。それくらいなら全然構わんぞ」


 そしてもたれかかってきているミアの頭をナデナデと撫でてあげる。

 うん、こうしていると10年前を思い出す。

 しかし彼女も立派に成長しているので、頭の収まりは少し悪くなっていた。


 そんなことをしていると、しびれを切らしたようにカミアが口を開いた。


「我はもう森に帰っていいか?」

「ああ、構わないぞ。どういう経緯か知らないけど、ミアをここまで運んでくれてありがとな」

「いや、お安い御用だ。それに焼き魚を奢って貰ったお礼だからな」


 どうやらカミアはミアに焼き魚を奢って貰ったらしい。

 そういえばミアは他の四人に比べても食にこだわる人だったな。


 カミアがいなくなると同時に、城のほうからハルカさんとルルネが駆け寄ってくる。

 そしてミアの姿を見たルルネは驚きの声を上げた。


「ミア!? どうしてここにいるの!?」

「……そんなの決まっています。そもそもおかしいと思ったのですよ。ルルネ一人でガガイタスを退けるなど。それに要塞都市に残る理由も怪しいと思いました」


 ふむ、どういうわけかルルネは他の四人に嘘をついていたらしい。


「うっ……まあ、バレてしまったら仕方がないわね。とりあえずミア。アリゼさんから離れなさい」

「どうしてですか? 私は酔って気持ちが悪いので、アリゼさんに介抱して貰ってるだけですよ?」


 そう言うミアにルルネはすうっと目を細めて言った。


「どうせもう気持ち悪くないんでしょう? アリゼさんに撫でて貰いたいからって演技までしちゃって」

「……そんなことありません。ああー、気持ち悪いなー、今にも吐きそうだなー」


 二人のやり取りを眺めていたハルカさんは口をパクパクしていたが。

 ハッと我に返ってルルネに尋ねた。


「あの……彼女は慈愛の聖女ミア様でいいのでしょうか?」

「ええ、そうよ。彼女が腹黒の聖女ミアよ」


 そう言ったルルネにミアはムスッとした表情をして言い返す。


「私は腹黒じゃありません。少しばかり計算高いだけです。それにビビりの森人ルルネには言われたくありません」


 そしてぐぬぬと睨み合い、牽制し合う二人。

 ……できれば俺を挟まないでやってほしかった。


 それに前に比べて大人になったからか、言い合いの激しさが上がっている気がする。


 昔はもう少し可愛らしい言い争いだったのになぁ……。

 おじさん、昔を思い出して少し悲しいです。


「てか、そもそもミアはここに何しに来たんだ?」


 俺ふと思い、そう尋ねてみる。

 するとミアは当然と言わんばかりに答えた。


「そんなのアリゼさんに会いに来たに決まってますよ。私たちはアリゼさんに会いたくて仕方がなかったんですから」


 そして頬を膨らませると、ルルネのほうを見て言葉を続けた。


「でもルルネさんのせいで私たちは遠ざけられるところでしたけどね」

「……それを言ったら他の三人がいない時点で、あなたも私と変わらず同罪だけどね」


 確かに他の三人は一緒じゃないらしい。

 同罪というのはよく分からんが、ともかく俺はミアを引きはがすと言った。


「てか、もう夜更けだしこの続きは明日やろう。俺はもう眠い」


 ミアは引きはがされ名残惜しそうにしながらも頷いた。


「そうですね。それがいいですね」


 ハルカさんはそれを聞いて、ミアのほうを見ると言った。


「それじゃあミア様のお部屋もすぐに用意しますので! 少々お待ちください!」

「……ああ、私はアリゼさんと一緒のベッドで寝るので大丈夫ですよ」


 しれっとそんなことを言ったミアの頭をルルネは軽く叩いた。


「ダメに決まってるでしょう? あなた今何歳なのか考えたことある?」

「……むう。いいじゃないですか、それくらい。そもそも間違いが起こっても私は問題ありませんし」

「そういうことじゃないのよ……。でもハルカさん、この聖女の部屋は用意しなくて大丈夫ですよ。私が責任を持って一緒の部屋で見張るので」


 そのルルネの言葉にどこか頬を引き攣らせながらハルカは頷いた。


「……はあ、仕方がありませんね。今日のところはアリゼさんと一緒に寝るのは諦めます」


 そしてルルネに引きずられて城に入っていくミア。

 残されたハルカさんと俺は、目を見合わせるとこう言い合うのだった。


「……私たちも早めに寝ましょう」

「そうだな……。稽古の話も明日しような」

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