第十四話「王女様に剣を教えることになった」
カミアに乗りやってきたのはこの国アルカイア帝国の帝都だ。
その城壁は要塞都市アルカナとは趣が違って、とても豪華に作られている。
「帝都かー、久しぶりだな」
俺がルルネたちを拾う前、旅人をしていたときに訪れた以来だ。
カミアには近くの森に居て貰い、俺たちは帝都に入ろうとする。
「すいません、身分証はお持ちでしょうか?」
見張りをしている兵士にそう尋ねられ、俺とルルネは冒険者カードを取り出した。
ちなみにルルネの冒険者カードは俺たちのものと違って、とても豪華に作られている。
簡単にまねできないようにアダマンタイトで作られているらしい。
「この冒険者カードは……っ! やはり英雄様の一人、ルルネ様ですかっ!?」
そのカードを見た兵士は目を見開き、口をわなわなと震わせながら言った。
「まあ……自分で言いたくないですけど、確かに私は英雄なんて呼ばれていますね」
「しょ、少々お待ちください! 上の者をすぐにお呼びいたしますので!」
そう言って兵士は慌てたように駆け出して行ってしまった。
すぐにって言ってたし、まあそんな時間はかからないだろう。
そう思っていたのだが――。
なぜか三十分くらい俺たちは放置されていた。
「遅くない? 何してるんだろう?」
「私たちが来たともなれば、やはり出迎えに時間がかかるのでしょう。いつものことです」
そうか、いつものことなのか。
それなら仕方がないな。
さらに三十分経ち、合計で一時間ほど経ったときにようやく俺たちの前に馬車が停まる。
その馬車はそんじょそこらでは見られないほど豪華な装飾がされた馬車だった。
「おお……凄い馬車が来たぞ。なんだなんだ」
俺がそう驚いていると、馬車の扉が開き中から一人の美少女が出てくる。
立派なドレスを身に纏った美少女だった。
「すみません、お待たせしました。私はこのアルカイア帝国第二王女ハルカ・アルカイアです」
おおっと、王女様が出てきたんだが。
それにしても見事なカーテシーである。
「お久しぶりです、ハルカさん。私はルルネ、そしてこちらがアリゼさんです」
そうルルネが言うと、ハルカさんはいたく感激した表情をする。
「ああ、ルルネ様は私のことを覚えてくださったのですね! 嬉しいです!」
「そりゃあ忘れませんよ。四年前、突然アカネに剣で斬りかかった少女のことなど」
アカネに剣で斬りかかったのか……。
それは凄い。
どうやら見た目に寄らず腕白な性格をしているらしい。
「ふふっ、あの時の私はまだ幼かったものですから」
「確かに見違えましたね。随分と成長したみたいです」
今度はハルカさんは俺のほうを見て口を開く。
「そして、こちらが英雄様たちを育て上げたとされる、アリゼ様なのですね」
その言葉に俺が返答する前に、ルルネが勢いよく返事を返す。
「そうです! 彼こそが私たちの恩人であり、大切な人。アリゼさんです!」
ふふんっと胸を張って自慢げに言うルルネに俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
いきなりそんな触れ込みをしたら、俺が凄い人みたいになっちゃうじゃないか。
「とと、こんなところで歓談していても良くないですね。早速王城に向かいましょう」
そして何故か馬車の屋根を折りたたみ、中が丸見えの状態にする御者。
「え……? この状態で王城まで行くのか?」
俺が困惑しそう尋ねるとハルカさんは微笑み言った。
「ええ、そうですよ。そりゃあルルネ様のお姿は全住人が見たいでしょうからね」
そういうものなのか……。
この美少女に挟まれるおっさんという構図はあまり良くない気がするがなぁ。
ともかく俺たちは馬車に乗り込み、王城までゆっくりと進む。
その間にはたくさんの人だかりができており、みんな彼女たちを一目見ようと押し寄せてきていた。
「おお! あれがルルネ様か! 初めて見た!」
「ルルネ様とハルカ様……。二人ともお美しい……」
「きゃあl ルルネ様がこっちを見たわ!」
そんな熱烈な応援もあれば――。
「なんだ、あのおっさんは」
「おい、もしかしたらあのおっさんがアリゼ様かもしれないだろ」
「あのおっさんが……? いや、あり得なくはないか」
そんな疑問の言葉も飛び交っている。
しかし誰がおっさんやねん、誰が。
俺はアラフォーとはいえ、まだ三十代やぞ。
……でもこの二人の若い美少女たちに囲まれていれば俺もおっさんか。
はあ……。
そんなことにちゃっかり落ち込みながら、俺は王城へと向かっていった。
***
それから王城で王様に謁見したり、食事会なんかをしたりして一日を過ごした。
しがないおっさんには分不相応な対応だと思ったが、楽しかったから良しとしよう。
そして俺にあてがわれた一等良質な客室でくつろいでいると――。
「失礼します、アリゼ様」
そう言って何故かハルカさんが部屋に入ってきた。
「おおう、どうしたんだ、こんな夜更けに」
彼女はすでに寝間着姿で、俺は少し警戒心を抱く。
もしかしたら一緒に寝てくれと言われてしまうかもしれない。
彼女は王族だし、俺が凄い人認定されているのなら、俺をどうにかして囲いたいと思っていてもなんら不思議じゃないからだ。
彼女は真剣な表情をして俺を見つめた。
その口がゆっくりと開かれていくのを俺は固唾を飲んで見守る。
そして発せられた言葉とは――。
「私にどうか剣を教えて欲しいのです! お願いします!」
そんな下心とはまるで関係ない純粋なお願いであり、俺は自分のよこしまな考えを恥じるのだった。