表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/183

第百三十三話「VS世界最強」

 バランが湖底に降りてきた時点で、俺たちの疲れはピークに達していた。

《深淵喰らい》との戦いで消耗し、魔力の残量も少ない。

 それなのに――


「よし、休憩は終わりだ! 次の課題に移るぞ!」


 バランの言葉に、俺とアーシャは同時に顔をしかめた。

 いやいや、普通は「よくやった」とか「休め」とか、そういう流れになるんじゃないのか?


「ちょ、ちょっと待って……さすがに一息くらいつかせてくれても……」

「そうですよ! 私たち、今まさに命がけで戦ってたんですから!」


 二人揃って抗議するが、バランは腕を組んだまま鼻で笑う。


「はっ! それくらいで音を上げるようじゃ、まだまだ修行が足りねぇな! いいか、お前たちに休む暇はない! もっと強くなりたいんだろ?」


 ぐっ……反論しようとして言葉が詰まる。

 確かに、俺たちはもっと強くならなければならない。

 けど、せめて回復する時間くらい――


「まあ、そう言うと思ってな。一応、回復する手段は用意してやったぞ」


 そう言うと、バランは腰の袋から何かを取り出し、ふわりと俺たちに投げてきた。

 俺とアーシャはそれを受け取る。

 ――それは、小さな青い石だった。

「……これは?」

「《水精の核》だ。この湖の水精たちが生み出した結晶でな、口に含めば魔力と体力がある程度回復する。まあ、万能ってわけじゃねぇが、お前らの今の状態にはちょうどいいだろうよ」


 なるほど、そんな便利なものがあるのか。

 俺とアーシャは顔を見合わせ、同時に結晶を口に含んだ。

 途端に、身体の内側からじんわりとした力が湧き上がるのを感じる。

 魔力の流れもスムーズになり、疲れが和らいでいく。


「……すごいですね、これ」

「確かに回復するな。完全じゃないけど、これならもう少し戦えそうだ」

「はははっ! そうだろう!」


 バランは満足そうに頷くと、ゴツゴツした腕を伸ばし、俺たちを見据えた。


「さて、それじゃあ次の試練だ」


 俺とアーシャは身構える。

 さっきの魔物よりもヤバいものを出されたら、流石に笑えない。


「まさか、また魔物と戦えって言うんじゃないでしょうね?」


 アーシャが警戒しながら言うと、バランは違う違うと手を振った。


「今度は実戦訓練だ。俺が相手をしてやる」

「え?」

「……え?」


 俺とアーシャは硬直した。


「えっと、つまり……バランさんと戦うんですか?」

「ああ、そうだ。さっきの戦いで水中戦の基本はだいたい掴んだだろう? なら次は、それを応用する段階だ。相手は俺。遠慮せずにかかってこい!」


 バランがニヤリと笑いながら拳を鳴らす。

 その音だけで、ゴクリと喉を鳴らしてしまうほどの威圧感。


「いやいや、さすがに無理ないか? だってバラン、あの《深淵喰らい》を素手で倒せそうな雰囲気出してるけど……」

「そうですよ! 明らかに格が違いすぎるというか……!」

「はっはっは! そりゃあ当然だろう。俺は世界最強だからな!」


 なんの躊躇もなく自分を世界最強と言い切る男。

 普段なら冗談かハッタリだと笑い飛ばすところだが、バランに限っては冗談にならない。

 彼がどれほどの強さを持っているか、俺たちはすでに理解していた。


「安心しろよ。ちゃんと手加減してやる。……少しな」

「少しってなんだよ!? そこは全力で手加減しろよ!」

「はははっ! まあ、やってみりゃ分かるさ!」


 バランはお構いなしに身構えた。


「さあ、準備はいいか? 始めるぞ!」


 俺たちは否応なしに構えを取る。

 湖底の水が揺れ、バランの全身から殺気のようなものが滲み出る。


「くっ……やるしかないですね」

「……ああ」


 アーシャと俺は同時に動いた。

 今まで培った水中戦の技術を総動員して、バランに立ち向かう――!



   ***



 開始と同時に、俺は魔法を使う。

 水の槍を形成し、一気にバランへ向かって突き出す。


「おっ、悪くねぇ!」


 バランは軽く拳を振るっただけで、水の槍を粉々に砕いた。


(――やっぱり化け物かよ!)


 衝撃が水中に広がり、俺の身体も流されそうになる。

 しかし、それを計算に入れていた俺は、流れに逆らわず、バランの死角へと回り込んだ。


「アーシャ!」

「いきます!」


 アーシャが俺の呼びかけに応じ、剣に魔力を宿らせる。

 ――水流を利用した超高速の斬撃。

 バランの側面を狙い、一気に繰り出す!


「おおっ!」


 だが――バランは笑いながら、片手でその斬撃を受け止めた。


「っ……!?」


 アーシャの剣がビクとも動かない。

 それどころか、バランは指一本で剣を押し返してきた。


「なるほど、悪くねぇ攻撃だ。だがな――」


 バランの拳が、アーシャの腹部に向かって突き出される。

 直撃すれば、間違いなく悶絶コースだ。

 しかし――


「させるか!」


 俺は即座に魔力を込め、水の壁を展開する。

 バランとアーシャの間に壁が出来、衝撃を和らげる。


「おお、やるじゃねぇか!」


 バランは楽しげに笑いながら、その場で拳を止めた。


「いい連携だったぜ。だが――お前たちの実力はまだまだこんなもんじゃねぇだろ?」


 バランの目が鋭くなる。

 まるで、俺たちの潜在能力を見透かすような視線。


「もっと来いよ。本気を出してみろ!」


 俺とアーシャは、息を呑んだ。

 まだ本気を出せる余地があると言うのか?


「……やるしかないですね」

「ああ……今度こそ、全力でいくぞ!」


 俺たちは新たな覚悟を胸に、再びバランへと挑みかかる。

 水中修行は、さらなる極限へと突入する――!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ