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第十三話「天才聖女ミアはとあることに気が付く」

「アリゼさん、もう行っちゃうの?」


 要塞都市アルカナの北門にて。

 俺とルルネはアンナちゃんたちに見送られていた。


 俺は他の奴隷だった少女たちとも会いたい。

 だから彼女たちがいるらしい北国――ニーサリス共和国に向かうことになった。


 アンナちゃんは寂しそうに俺の服の裾を握っている。

 彼女の父ガイラムも何故か歯を食いしばりながらそっぽを向いていた。


「ああ。俺には会いたい人たちがいるからさ。会いに行かなきゃいけないんだ」

「……それって他の英雄様たち?」


 俺が頷くと、アンナちゃんは渋々と裾から手を離した。


「そっか……。アリゼさんにとって彼女たちは大切な人なんだもんね」

「まあな。でも、またいつか戻ってくるよ」

「――絶対だからね。絶対に戻ってきてね」


 その言葉に再びしっかり頷くと、今度はガイラムのほうを向いた。


「おっさん、俺が戻ってくるまでにくたばるなよ」

「誰がおっさんだ、誰が。……その言葉、そっくりお前に返すぜ」


 いつもの勢いの良さは潜め、しみじみとガイラムはそう言った。


 俺はこれ以上長引かせても悲しくなるだけだと思い、くるりと背中を向ける。


「それじゃあ、またな。今度は立派に育ったアンナちゃんを見せてくれよ?」


 そして俺はルルネを連れて歩き出した。

 後ろからは啜り泣きが聞こえてくるが、あえて俺は振り返らなかった。


「……ごめんなさい、アリゼさん。私のせいで」

「いやいや、ルルネのせいじゃないだろ。それに旅人たるもの、出会いと別れはあるものだ」


 そう言うが、それでも申し訳なさそうにしているルルネ。

 俺はパンッと手を叩くと、気持ちを切り替えるように言った。


「さて! 移動も面倒くさいしな、とある助っ人を呼んでるんだ」

「そういえば馬車とかもないし、どうやって移動するのか気になってました」


 不思議そうに首を傾げるルルネにあえて俺は答えず、思いきり口笛を鳴らした。

 すると、ドタドタと『魔の森』のほうから一匹のエンシェントウルフが駆けてくる。


「――なっ!?」


 その様子にルルネは目を見開き驚いている。

 そして腰にぶら下げているレイピアを引き抜こうとするが。

 俺はその手を押さえ、そいつ――カミアが来るのを待った。


「お呼びか、我が主」

「ああ、これから旅をするからさ、俺たちと一緒に来ないか?」

「……我が主、我はただの乗り物じゃないんだぞ」

「わぁってるって。でもカミアだってずっと引きこもってて退屈だったろ?」


 俺が言うとカミアははあっとため息をついた。


「まあ……それはそうなんだが。なんか言い包められた感じがするな」

「気にしたら負けだ。それで、一緒に来てくれるか?」

「――もちろん。お主と一緒にいると退屈しなさそうだしな、ついていくぞ」


 口をパクパクしていたルルネはようやくハッと我に返り俺に聞いてきた。


「この方は……もしかしてエンシェントウルフでしょうか?」

「ああ、そうみたいだな」

「エンシェントウルフ……初めて見ました。エルフに伝わる絵物語でしか見たことなかったのに」


 ルルネの言葉に俺は首を傾げ、カミアのほうを見た。


「お前ってもしかして、結構凄い奴だったりするのか?」

「だから何度もそう言っておろう。お主は信じてくれなかったが」


 どうやらカミアは凄い奴だったらしい。


「ともかく我の背中に乗れ。全速力で行くぞ」

「あ、え、ちょい待ち。全速力は――」


 俺が言い終わる前に俺とルルネはひょいっと背中に乗せられ、急加速。

 十分ほどしか乗っていなかったが、二人してグロッキーになっているのだった。



   ***



 ここは英雄たちにあてがわれた天空城。

 その自室で私――聖女ミアはルルネの言動を考えていた。


「やはり……どこか怪しい感じがしましたね。私の聖女としての勘がそう告げています」


 まだ天空城が北の国に辿り着く前。

 私はそんなことを考え、ルルネをどうやって追うかを考えていた。


 しかし追うことを他の三人にはバレたくない。

 もしルルネがアリゼさんの居場所に迫っているのなら。

 私が彼を独占したいからだ。


 ――と言ってもルルネには先を越されてしまったが。

 左手でルルネをナデナデし、右手で私をナデナデすればいいだけだ。

 しかしここでもう一人増えると、私の番が減ってしまう。


 それだけは避けたかった。


 どう言い訳をしてこの天空城から降り、ルルネの後を追うか。

 ……いっそのこと、魔族が出たことにしてしまおうか。


 いやいや、それは英雄として流石に良くない。

 自分たちの発言力の大きさは自覚しているつもりだ。


 それだったら……。


 私は一つの妙案を思いつくと、他の三人に内緒で天空城から抜け出すのだった。



   ***



 それから二日後。

 聖女ミアが定例会議に顔を出さないことに気が付いた他の三人は、彼女の部屋に突撃する。

 しかしその部屋はすでにもの抜け殻で、一枚の手紙が置いてあった。


 アーシャさん、アカネさん、ニーアさん。

 ごめんなさい、私には行かねばならないところが出来てしまいました。


 神の御心によって西にある『鏡華大心国』に行かねばならないのです。

 あー、残念です! アリゼさん探しを出来ないなんて残念です!

 ホント、残念だなぁ!

 でも、皆様なら探し出せると私は信じております。

 せいぜい、頑張ってくださいね!


 それを読んだ三人は心を一つにした。


 ――鏡華大心国に行こう。

 そして自分たちを出し抜こうとした聖女ミアよりも先にアリゼを見つけようと、そう思った。


 だが、彼女たちは知らなかった。

 その国にはアリゼはおらず、ミアによるミスリードであることを知らなかった。


 こうして新しい運命の流れが生まれ始めるのだった。

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