第百二十七話「黒猫族の少女」
「ちょっとちょっと。何があったか知らないけど、言い方ってもんもあるんじゃないかしら」
熊の獣人を見上げながらルルネは言った。
それに対し、熊の獣人はハンッと鼻を鳴らす。
「知らねぇなら黙ってな。これは俺とこの黒猫の野郎との問題だ」
「いいえ、同じ店で食事をしている以上、完全な部外者ではないと思うのだけれど」
「黙れ黙れ黙れ! うぜぇからてめぇらも纏めてぶっ飛ばす!」
そう言って拳を握りしめる熊の獣人だったが、ルルネはすぐさま自分の身体に魔力を行き渡らせて、身体能力を強化すると、その首筋に向かって手刀を振り下ろした。
トンッという音とともに、熊の獣人は床に崩れ落ちる。
それを見ていた周囲の人たちは「おお~っ」っと感嘆の声を上げた。
「大丈夫だった?」
「え、ええ。ありがとうございます」
黒猫の獣人の少女はまだ怯えた様子だったが、何とか頷くと感謝の言葉を述べた。
「災難だったわね」
「いえ……いつものことなので……」
いつものこと、という言葉にルルネたちは反応しようとしたその時。
ドタドタと厨房から高いコック帽を被っている兎の獣人の男が出てきた。
「あっ……店長……」
それを見た少女はそう言う。
なるほど、この人が店長か。
そう思ったのもつかの間、彼は怒り心頭と言った感じで怒鳴り散らした。
「お前ッ! また問題を起こしたのかッ! こんのッ、黒猫族がッ! お前みたいなのがいるから、ウチの店の評判が下がるんじゃねぇか! ちくしょう、やっぱり見た目だけで雇うべきじゃなかった! クビだクビ! さっさとこの店から出ていってくれ!」
その剣幕にルルネとミアは思わずドン引きしてしまう。
しかし少女だけは落ち着いた様子で、どこか悲しそうに頷いた。
「はい……そうですよね。すみません、出ていきます」
そう言って店から出ていこうとする少女。
ミアはそれを見て、流石に止めようと口を開こうとするが……
「あの……私は大丈夫なんで、あまり口を挟まないでください」
言い始める前に、釘を刺されてしまった。
そしてウェイトレスのエプロンを脱ぐと、店の外に出ていく。
ルルネたちは心配になって、代金だけテーブルに置くと、彼女を追いかけるように店の外に出るのだった。
***
「……どうして、私を守ろうとしてくれたんですか?」
二人がその少女を追いかけると、彼女は困ったようにそう言った。
それに対して二人は顔を見合わせて言った。
「そりゃ、困っている人がいたら見捨てられないでしょ?」
「そうですよ。明らかに理不尽に怒られてましたもんね」
そういう二人に少女は目を見開く。
「そんな理由だけで?」
「そんな理由って……当然のことじゃない」
驚く少女に、ルルネはそう言う。
「当然のこと……」
ルルネの言葉に少女は口の中で反芻するように呟いた。
どうやら彼女は相当苦労していて、自己肯定感が低いのではないかと、二人はそう思うのだった。