第百二十五話「裏路地での攻防」
「はあ……はあ……ようやく撒けましたね……」
衛兵から全力で逃げて、二人は裏路地まで来ていた。
ようやく衛兵を撒けたみたいで、後ろを振り返ってももう誰も追いかけてきていない。
ミアはホッとして膝に手をついて呼吸を整える。
しかし……そこでようやくルルネがまだ緊張を解いていないことに気がついた。
「ルルネ……?」
そう声をかけようとした瞬間、ルルネはミアを押し倒すように地面を蹴って飛んだ。
「なっ……!?」
何をするんですか!? と講義しようとした直後、ミアが居た場所を高速で何かが通り過ぎていった。
ドゴンッ! と背後で破壊音が響き渡る。
恐る恐るそちらを見てみると、先端が鋭利になっているぶっとい鉄杭が路地の石壁に突き刺さっていた。
ザクザクと、地面を踏みしめる音が聞こえてくる。
そちらの方を見てみると、フードを被った小柄な人がこちらにゆっくりと近づいてくるのが見えた。
ルルネは立ち上がって、そのフードの人物に向き直ると、その人も立ち止まり向かい合った。
「貴方は?」
緊張した固い声でルルネは尋ねる。
しかしそれに対する返答はなく、その人が右手を横に伸ばすと――
ブゥンッという羽虫のような音とともに右手に先ほどと同じような鉄杭が現れた。
そしてノーモーションで鉄杭をぶん投げてくる。
「チィッ!」
ルルネは舌打ちをして左に避ける。
しかし相手はそれを読んでいたのか、ルルネが避けた頃にはフードの人は左側へと駆け出していた。
マズい。
ミアはそう思い、聖魔法を使うために懐から鈴を取り出そうとするが、間に合わない。
再びブゥンッという音とともに、フードの人の左手に細身の剣が現れた。
……どうする。
ミアはそう頭を回転させるが、ルルネを助ける方法を思いつかないまま時間が過ぎていき――
「あっ、あそこにいたぞ!」
「アイツらが指名手配犯か!」
「おい、また誰かを襲おうとしてるじゃないか!」
バタバタと衛兵たちが集まってくるのが分かった。
……襲われたのはこっちなんだけどな。
ミアは心の中でそう思う。
が、今はそんなことを言っている場合ではない。
敵が増えた。
ますます窮地に陥ってしまった。
そう思っていたのだが、衛兵たちが現れた瞬間、目の前のフードの人はスッと姿を消してしまった。
「消えたわね」
「はい。何とか助かったみたいです」
「……はぁ。指名手配犯だったことに助けられるとはね」
「そうですね。それよりも、私たちも早く逃げますよ!」
ルルネの言葉に頷きながら、ミアはその手を引っ張って再び裏路地を駆け出す。
そのまま逃げ回って、もう一度衛兵たちを撒くことに成功した二人は、ようやく南地区に足を踏み入れることに成功するのだった。