第百二十四話「南地区」
「ん~、まずは銀狼種の獣人に関する聞き込みから始めるべきですかね」
「そうね。通りなんかをパッと見た感じ、銀狼種って珍しいっぽいし、すぐに分かってきそうなものだけど」
ミアの提案にルルネは頷きながらそう答える。
それから街ゆく人たちに片っ端から聞き込みをして、数時間。
思ったよりも多くの情報が手に入った。
まず一つ。
銀狼種とは普段は人里から離れた山奥でひっそりと集落を作っている種族である。
そして、彼らはその足の速さと魔力適正の高さから、かなりの攻撃力を有する。
さらには、街でたまに見かけていたとか、どこどこで会ったとか、そんなことも聞くことができた。
それがバリトンを殺した少年なのかは分からないが、話を聞くうちに頻出する場所は王都の南地区が多いことが分かってきた。
南地区は食品街とも言える場所で、豊富な食材やレストランが入り乱れる場所だった。
「腹ごしらえついでに南地区でも聞き込みしますか」
「ええ、そうしましょう。ちゃんとした食事にありつけるのは、久しぶりだものね」
ずっとスラムにいたから、しばらく美味しい料理は食べていないのだ。
久しぶりに食べたいと思うのも仕方のないことだった。
今いる西地区からかなり移動することになるが、そうすると少々衛兵に見つかるリスクがあった。
ルルネたちはまだ追われる身なのには変わりがない。
まあ、なぜ指名手配を受けているのかも、なんとなく分かってきたが。
「おそらく【英雄の素】を持った人を探しているんだと思うわ」
「それには私も同意です。どこからか、向こうの大陸での私たちの評判を聞きつけたのでしょう」
「そうとしか考えられないわよね~。はあ……勘弁してほしいものだわ」
「ホントです。あまり目立たずに他のみんなと合流して、少し観光してから帰るつもりだったのに」
「まだみんなとも会えていないし、そもそも首を突っ込みすぎて帰るに帰れなくなってきたわよね……」
そして二人してはあ……とため息をこぼす。
こんなつもりじゃなかったのに。
そんな話をしながら南地区まで歩いていると――
「あっ、お前たち。ちょっと顔を見せてくれないか」
衛兵にそう話しかけられた。
「どうしましょう、ルルネ」
「それは……、逃げるしかないわよね!」
そう言って脱兎のごとく駆けだす二人。
「あっ、おい! 待て!」
叫びながら、それを追いかける衛兵。
結局、見つかってしまった二人は、その後、長時間にわたって無駄な鬼ごっこをする羽目になるのだった。