第百二十三話「バリトンが死んだ時」
「バリトンを倒したのは、僕と同じくらいの歳の男の子だったんだ!」
声をかけてきた少年は、興奮したようにそう話し始める。
それから彼は、どこか憧れるような表情で目を輝かせながら、続きを話す。
「その子がメチャクチャ強くて! 真っ白な耳がついてたから、多分銀狼種だったと思うんだけど、本当に淡々と、なんの苦戦もなく、あの超強いバリトンを圧勝したんだよ!」
彼の言葉にルルネは眉を寄せた。
「圧勝? バリトンって相当強いのよね?」
「……ああ、そのはずだが。性格は終わっていたが、実力は本物だった。間違いなく、このくらいの年齢の少年が圧勝できるような相手ではない」
ルルネの言葉に冒険者もそう続ける。
しかしそんな反応を見せる大人たちに少年は憤慨したように言った。
「ホントだよ! 本当に強かったんだから!」
そう主張する少年に、ミアはこう言った。
「おそらく、彼が言っていることは間違いないと思います。そもそもここで嘘をつく必要なんてありませんからね」
「ええ、そうね。だとすれば、その子が年齢に見合わず、強力な力を有しているってことになるけど」
そこまで言って、ルルネの脳裏に一つの言葉がよぎっていた。
「……【亜神】」
そう呟いたルルネに冒険者は首を傾げる。
「亜神? なんだそりゃ?」
その問いにルルネは答えない。
以前エリから聞いた言葉を思い返していたからだ。
『【英雄の素】を持つ人間を探している』
『それがあれば【亜神】へと進化させることができる』
そして……少年ながらにして圧倒的な力。
「……もしかして、すでに【亜神】に進化してしまっていた?」
そう考えれば辻褄が合う。
消えていく子供たち。
その中にたまたま【英雄の素】を持つ子供がいて。
もしその子を【亜神】へと進化させることができていたのなら。
この子が見たという圧倒的な力を持つ少年の存在も何ら違和感がない。
「ミア」
「ええ。おそらくは間違いないと思います」
ルルネがミアのほうを見てそう言うと、彼女も同意するように頷いて言った。
だとすればどうなるか。
ここで問題となるのが、【人類統一計画】とやらの詳細だ。
これは一体何を意味するのか。
そのままの意味で、人類を一つの王朝で支配しようというのか。
はたまたもっと深い意味があるのか。
「これは……もう少し詳しく調べたほうが良さそうね」
「そうですね。もしかしたら人類規模の問題かもしれませんから」
「しかし……こんな大々的な事件に巻き込まれるのはこれで三度目かしら」
「一度目と二度目は魔王戦。そして今度は獣人との対決ですね」
そう言うミアに、ルルネはニッと不敵な笑みを浮かべてこう返すのだった。
「ええ、そうね。何だか私、ワクワクしてくるようになっちゃったんだけど、それって重症かしら?」
「それは私の治癒魔法でも治せないくらい、かなりの重症だと思いますね」