第百二十一話「弟子入り」
「おらおら! 魔力の使い方がなってないぞ!」
結局俺たちは自称世界最強の男に弟子入りすることになった。
そして現在、彼に山奥の迷宮まで連れてこられ、ビシバシと鍛えられていた。
「そんなんじゃ世界最強にはなれん!」
そう怒鳴り続ける彼の名前はバラン。
熊型の獣人だ。
本当に世界最強かは分からないが、自称するだけのことはあり、俺たちよりかはよっぽど強かった。
彼は「まずは実践あるのみ!」と言い切り、俺たちをこの迷宮まで連れてきたのだった。
「敵の数が多過ぎて処理し切れないんですけど——!?」
アーシャは直剣で敵を捌きながらそう叫ぶ。
そんな彼女にバランはこうアドバイスをした。
「なら斬ればいいだろう!」
「アドバイスになっていません!」
「俺はそうやって教わったぞ!」
彼にそんなアバウトな教え方したの、誰だよ。
そのせいで俺たちも苦労することになってるんだけど。
そう心の中で愚痴りながら俺たちは必死になって迫り来る魔物——ブラッド・スパイダーの数を減らしていった。
しばらく後、俺たちはようやく全ての敵を捌き切り、ヘナヘナと倒れ込んだ。
そんな俺たちにバランは腕を組み仁王立ちして言った。
「なんとまぁ、情けない。こんなんでへばってしまうとは」
俺は魔力量が少ない効率重視型だし、アーシャもどちらかといえば直接戦うタイプじゃない。
そんなことを思ったが、言ったところで彼の考えが変わるとは思えないし、言い訳みたいに聞こえるので口にはしなかった。
「ともかく。今日はこれくらいにしておくか。情けないとは思うが、無理させる必要もないからな」
良かったぁ……。
これが今日、何度も続くってなると流石に魔力量的にも体力的にもきついところだった。
俺がそうほっと胸を撫で下ろしている横で、アーシャもほっと胸を撫で下ろしていた。
「それじゃあ、街に戻って今夜は飲み明かすか!」
まだ元気に溢れているバランがそう言って、俺たちは街に戻り酒場に入ることになるのだった。
***
「アリゼさぁん……早くみんなと会いたいですよぉ……」
ベロンベロンに酔っ払ったアーシャが俺にそう泣きついてくる。
そりゃそうだよな。
気丈に振舞っていても、いきなり知らない土地に飛ばされて、みんなと離れ離れになったなんて普通はストレスを感じるはずだ。
俺はそんなアーシャの頭を撫でながら宥める。
「そうだよな、会いたいよな」
「そうなんですよぉ! 一人は寂しかったですよぉ!」
しかしそれはそれとして、酔っ払いすぎでは?
これは明日、記憶が残っていたら恥ずかしくて穴にこもってしまうかもしれない。
そんなことを思っているとバランが酒をもらって戻ってきた。
「おうおう、かなり出来上がっているな」
「ちょっとストレスが溜まっていたみたいだな」
「まあ誰しもそういう時はあるさ。何もかも忘れたい時はな」
「バランにもあるのか?」
俺が尋ねると彼は遠い目をして言った。
「そりゃもちろん。……俺にもあるさ」
「そうか」
「……俺は昔、貴族だったんだ」
それから彼は語り始めた。
昔のことを。
彼が貴族の子息だった頃、アルベルト公爵という名の貴族の目論見を知ってしまった。
どうやらアルベルト公爵は『人類統一計画』というものを進めていたらしく、この超大陸アベルを獣人だけのものにしようとしていたらしかった。
平和主義だったバランの家はアルベルト公爵と対立し、政戦に負け、爵位を剥奪されて両親は処刑され、バラン本人は山奥に追放されたらしい。
そこで出会った老人に戦い方や生き残る方法を教えてもらい、今があると言った。
「そういえば……アルベルト公爵もその老人も『亜神』と言う言葉をよく使っていたな」
「亜神……?」
「ああ。もちろん俺はそれが何かは知らないがな」
亜神ねぇ……。
なんなんだろう、それは。
そんな話をしていると、いつの間にかアーシャは寝てしまっていて、俺たちは解散することになるのだった。