第百二十話「自称世界最強の男」
「ちょぉおおおおおおお! 何でこんなところにこんな魔物がいるんだよ!」
俺とアーシャが村を出て次の日。
森の中を歩いていたら突然ドデカいドラゴンに遭遇した。
真っ黒な鱗を持つ巨大なドラゴンだ。
どうやら気がつかないうちに縄張りに入ってしまっていたらしい。
「ホント、ツイてませんね! って、アリゼさん、もっと速く走ってください!」
「全力だよ! 逆に何でアーシャはそんなに速いんだ!?」
「怖いからに決まってるじゃないですか!」
大声でそんなやり取りをしながらも黒竜から全力で逃げていく。
と、その時、目の前に腕を組んで仁王立ちしている男が現れた。
がたいのいい男だ。
「ふははっ! 手助けは必要か!」
彼にそう問われ、俺は必死で頷く。
「あっ、ああ! 出来ることなら手助けしてほしい!」
「よっし! 任せろ! 俺がぶっ倒してくれる!」
そう言って彼は拳を構えた。
もしかしてあの黒竜に拳で立ち向かうつもりなのだろうか?
そう思っていると、そのまさかで、彼はそのまま地面を蹴って黒竜に立ち向かっていった。
大丈夫かと心配になって俺たちは足を止め、彼の行く末を見守る。
しかし――
パンッ!
そんな乾いた破裂音とともに、黒竜の顔面が吹き飛んだ。
……す、凄い。
とんでもない威力だ。
「ふははっ! どうだ、参っただろう!」
既に死んでいる黒竜にそう言う男。
しかしすぐに死んでいることに気がつきまた高笑いをした。
「っと、もう死んでるではないか! 情けない! こんなに弱っちくて何が竜だ!」
見た目にビビってちゃんと戦ってなかったから分からなかったけど、もしかして本当に弱かったのだろうか?
いやでも、あの見た目で弱いってことはないはずだ。
この男がやっぱりとんでもないくらい強いのだろう。
「ありがとう、助かったよ」
俺はそう言って彼に近づいた。
彼は鷹揚に頷いて言った。
「ああ。なに、これくらいはお安い御用だとも。俺は何せ世界最強の男だからな!」
世界最強。
その言葉を聞いて、俺は村での占いを思い出していた。
「すぐに自分たちより強い人物に出会うこと……その人物に弟子入りすべきこと、か……」
「何ですか、それ?」
俺が呟くとアーシャがそう尋ねてきた。
俺はこう言う。
「前の村で日なたぼっこしていたお婆さんにそう占って貰ったんだよ。……まあ、一方的にだけど」
「なるほど……。自称ではありますが、今のところは間違いではなさそうですね」
「そうなんだよな。そんなあちこちに自称だとしても世界最強がいるとは思えないし……」
そんな会話をしていると男も混ざってきた。
「何だ何だ! 何の話をしているのだ!? 俺も混ぜてくれよ!」
そう言われ、俺は先ほどの占いの話を彼にもしてみることにした。
本人から聞いてみるのも何かの参考にならないかなと思ったのだ。
すると彼は豪快に笑ってこう言った。
「ふははっ! 何を迷っているのだ! そう占われたのだろう!? だったら俺に弟子入りする! それ以外に道はないだろう!」
ドドンッ! と腕を組み堂々と胸を張って、彼はそう言うのだった。