第百十九話「占い師の婆さん」
「王都で指名手配って……ルルネたち、大丈夫なのかな?」
「う〜ん、指名手配が出てるってことはまだ捕まってないってことなんだろうけど、いつ捕まるか分からないわよね」
情報屋からの帰り道。
ニーナの言葉にアカネが考えながらそう返す。
「それに、罪状もルルネとミアがしそうにないものだった」
「なんだかでっち上げられたようなものが多かったわね。何かしらの事件に巻き込まれたのかしら?」
しかし考えたところで仕方がない。
得られた情報は数少ないのだ。
ルルネたちが王都で指名手配を受けているということくらい。
素材が少ないんじゃ考えようがなかった。
思考を切り替えて、ニーナは隣を歩くエリスの方をチラリと見た。
彼女もまた不安そうな顔をしていた。
彼女の兄の情報は一切出てきていない。
不安になるのも仕方がないことだと言えた。
ニーナはどう話しかければ元気を出せるか考えて、何も思いつかないまま宿に辿り着いてしまった。
その日は沈黙が多いまま眠りにつき、次の日。
朝早くから王都に向かって旅立とうとしていた。
「エリス。王都まで行けばお兄さんの情報が見つかるかもしれないから」
「ありがとうございます。……私、そんな不安そうな顔をしてましたか?」
ニーナは励まそうとして、エリスにその魂胆を見抜かれてしまった。
別に悪いことではないのだが、少し気まずくて視線を逸らす。
瞬間、エリスはパンッと自分の手のひらで両頬を思いきり叩いた。
「こんな、クヨクヨしている場合じゃないですよね! 再会したときにネシウスお兄ちゃんにこんなクヨクヨしてたら怒られちゃいます!」
そう言ってカラッと笑う。
どうやら気持ちを切り替えたらしい。
先ほどまでの不安そうなエリスはもういなかった。
「それじゃあ王都へレッツゴー!」
右手を挙げてそう走り出すエリス。
彼女のその元気が、今はニーナとアカネにとっては有り難いのだった。
***
「そこのおっさん、やい、そこのおっさん」
「誰がおっさんだ、誰が」
その時、俺とアーシャもまた獣人の国に入っていた。
現在は、王都に向かう途中に寄った小さな村にいた。
アーシャは現在、泊まらせてもらっている家の人の家事を手伝っていた。
俺は獲物でも狩りに行くかと村の外に向かって歩いていたら、道端に椅子を出して休憩していた婆さんそう声をかけられたのだ。
「おっさんじゃろ、どう見たって」
「いや、確かに間違いなくそうなんだが。人からそう言われるのは嫌なの」
「お主、運命には逆らわない方が良いぞ」
「それは俺におっさんだと認めろって言ってるってことか?」
「そうとも言う」
俺はムッとして先に進もうとして、更に声をかけられた。
「ちょいちょい、待ちいや。年配者の話くらい聞いていった方がお得じゃぞ」
確かにそれも一理あるか。
俺は再び立ち止まってちょっと戻る。
「で、一体何の用なんだ?」
「儂が占いをしてやろう。こう見えても若い頃は一流の占い師だったもんでなぁ」
占いかぁ……。
俺はあまり占いとか信じないタイプなんだよなぁ。
ただ足を止めてしまった以上、聞くしかない。
「そうか。それじゃあ占ってくれ」
「ふぉふぉ、そう言うと思って、既に占っておいたのじゃよ」
いつの間に……。
占いってそんな早く出来るものなのか?
そもそも、俺があのまま立ち去ったりしたらどうするつもりだったんだろう。
胡散臭さがプンプンと香ってくる。
「で? どんな結果だった?」
「まあそう焦りなさるなや。すぐに説明してやるから」
そう言って婆さんは話し始める。
どうやら俺には
『近々、困難が訪れるだろう』
『すぐに自分たちより強い人物に出会うこと』
『その人物に弟子入りすべきこと』
の三つが結果として出ているらしい。
なんか、かなり詳細な占いだな……。
しかも近々困難が訪れるって、なかなか不謹慎だ。
「気を付けなはれよ。その人物に弟子入りしなければ、そなたは困難を乗り越えられぬかもしれぬでな」
それだけ言って婆さんは椅子を持ち家の中へと帰っていった。
何だったんだ……。
俺は首を横に振って気を持ち直すと、森の方へ行き、野獣を狩ってくるのだった。
戻ってくることには、先ほどの話はすっかり忘れてしまっているのだった。