第百十八話「情報屋に話を聞こう」
情報屋を探すため、ヒムへリン辺境伯領の冒険者ギルドに来ていた。
「冒険者ギルドへようこそ。何かご用ですか?」
兎の獣人の受付嬢にそう言われ、アカネはこう返す。
「ええと、この街の情報屋についてききたいんですけど」
「情報屋ですか。了解です。ちょっと待っていてくださいね」
そう言って受付嬢はカウンターの奥に下がっていく。
しばらくして地図を抱えて戻ってきた。
「これがこの街の地図でして、ここがここ、冒険者ギルドです。そしてここをこう行って、ここを曲がって路地に入ったすぐのところにある酒場のマスターが情報屋ですね」
そう簡単に教えられ、ニーナは目を見開いて尋ねた。
「そんな簡単に教えていいの?」
その問いに受付嬢は人差し指を唇に当て、いたずらそうに微笑んで言った。
「教えていい情報屋と教えられない情報屋がいるんですよ」
「なるほど、そういうこと」
受付嬢の言葉に納得したように頷くニーナ。
それから受付嬢の「またのご利用お待ちしております」という言葉を背に受けながらギルドを後にした。
ニーナたちは歩いて先ほど教えて貰った酒場まで行くが、酒場なだけあって昼間は閉まっているみたいだった。
「また夜出直す感じになりそうね」
「うん。また夜来よう。しかし、それまで暇になった」
ニーナのその言葉に答えるようにエリスの腹がぐうっと鳴った。
「す、すみません……」
「そうね、そろそろお昼ご飯にしましょうか」
そう言ってニーナたちは手近な食堂に入るのだった。
***
夜、ニーナたちは酒場にやってきた。
仕事を終えた冒険者たちが集い、どんちゃん騒ぎをしている。
そんな中、三人はカウンターに座った。
「何にする?」
そう無愛想な声で問いかけてきたのは、無精ひげの生えた気怠げなマスターだ。
ニーナはそれに対してこう答える。
「情報が欲しいんだけど」
「……そうか。ならこっちに来い。——レイラ、少し店を頼んだ」
「はい、マスター。任されました」
マスターは女性のバーテンに店を任せ、ニーナたちにカウンターに入るよう促す。
ニーナたちはマスターに促されるままカウンターに入り、その奥の扉を抜けた。
その先には廊下が続き、小さめな部屋が用意されていた。
マスターはそこに入ると、早速ニーナたちに尋ねてきた。
「で、何の情報が欲しいんだ?」
その問いにニーナが答える。
「二つあって、どちらも人捜しなんですけど、一つはエルフか人間を見なかったかということ、そしてもう一つはこの子と同じ銀狼種の獣人の少年を見なかったということを知りたい」
「なるほど。人捜しか。あいにく、俺はそのどちらも聞いたことないな」
「そう。ありがとう」
「すまんな、力になれなくて」
「知らないのは仕方がない。——隣の街にも同じような情報屋ってある?」
「もちろん。その程度の情報ならまたギルドに聞けば教えてくれるだろう」
情報屋に言われ、ニーナたちはありがとうと伝えて酒場を出た。
「まあ、最初だしこんなもの。焦っても仕方がない」
「そうね。じっくり探していくしかないわよね」
ニーナの言葉にアカネも同意するように言う。
しかしエリスはどこか不安そうだ。
「兄さん……。はあ、何処に行ってしまったんでしょうか」
心配する気持ちも分かるから、ニーナたちは何も言えなかった。
無責任に励ますのも躊躇われた。
しかしエリスはパンッと自分の頬を叩くと言った。
「って、私がこんな落ち込んでいても仕方がありませんよね! 兄さんと再会したときに疲れ果ててたら意味ないですし!」
そう自己解決して、無理やり元気を引き出すエリス。
魔王と戦ったニーナたちですら、少女一人の励まし方には悩むのだった。
***
それから、更に二週間ほどが経った。
四つの街の情報屋を巡り、ようやくルルネたちの情報を手に入れることが出来たのだった。