第百十六話「深まる謎」
少女――ノエルに連れてこられたのはスラム内にある墓場だった。
彼女は一つの墓の前で立ち止まった。
「この墓は……名前が書かれていない?」
「そう。ここをこう押すと……」
そう言いながらノエルはしゃがみ込み、墓石の横の土を退けた。
そこには小さなボタンがあり、彼女がそれを押すとズズズッと墓石が動いた。
現れたのは薄暗い階段だった。
「これは……」
「この先にエリお姉ちゃんがいるから。二人が先に入って」
ノエルに言われてルルネとミアは階段を下っていく。
その後ろからノエルがついてくるが、彼女は相当警戒しているのか、預けた短剣を鞘から取り出していた。
そのまま下っていくと、石造りの無骨な扉が現れる。
「開けて入って」
ノエルの言葉にルルネは素直に従って扉を開ける。
中は魔道具のランタンがたくさん置かれ青白い光で明るく照らされていた。
ランタン以外には小さな机と椅子、そして簡素なベッドがあるくらいで、とても質素な印象を受けた。
そして椅子に赤髪でそばかすのついた少女が座ってコーヒーを飲んでいた。
三つ編みに結んではなかったが、彼女がエリであることはすぐに予想ができた。
「貴女がエリさんですか?」
ミアが尋ねると、エリらしき少女はこちらを見て頷いた。
「そうです。私がエリです」
それから彼女はルルネたちの後ろに立っているノエルの方を見て首を傾げた。
「で、ノエル。この方たちは?」
「エリお姉ちゃんを探してたから連れてきたの」
「大丈夫なんですか?」
「……多分」
少し不安そうなノエルの言葉にエリは少し警戒するようにルルネたちを見つめる。
ルルネは早めに本題に入った方がいいと判断して、口を開いた。
「私たちは最近、スラムの子供たちが消える事件を追ってます。アルベルト公爵家が関わっているところまでは分かったのですが、そこまでしか追えなくて……。どうやらベンさんが知っていたらしいと長老に伺って、ベンさんの店のウェイトレスだったエリさんを尋ねてきたわけです」
ルルネの話を聞いて、エリは目を見開いた。
それから思案するように目を伏せ、考え込む。
沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのも、エリだった。
「……この事件について、私が知っていることも、そこまで多くはありません。分かっていることといえば、【人類統一計画】。これを遂行するために【英雄の素】を持つ人間を探している、ということ暗いです」
エリの言葉にミアは眉を寄せる。
「【英雄の素】、ですか?」
「ええ。これがあれば、人を【亜神】へと進化させることが出来るみたいなのです」
ルルネたちは、言葉それぞれの意味が何を指しているのか理解できなかった。
しかし何か良からぬことであることは、何となく理解できた。
「その【英雄の素】を持つ人間を探すために、子供たちを攫っているのでしょうか?」
「それは分かりません。ただ一つ言えるのは、彼らはもう生きていないということくらいでしょうか」
エリの言葉にルルネとミアは奥歯を噛み締める。
どのような計画なのかは分からないが、大人たちの都合のために子供が死んでいいわけがない。
ルルネはエリに頭を下げて言った。
「ありがとうございました。情報、助かりました」
「いえ、あまりお力になれずにすみません」
そうしてエリの隠れ家からルルネたちは出る。
ルルネは外の新鮮な空気を吸いながら言った。
「情報は増えたけど、また行き止まりみたいね」
「そうですね。出口のない迷路を彷徨っている気分になりました」
また手がかりを見失ってしまった二人。
それから一週間、色々と探ってみたが何も分からず、時折やってくる衛兵たちから逃げ隠れする日々も相変わらず。
そんなとき、スラムの方にも響いてくるくらい大きな事件が街で起こったらしかった。
『獣人の国に来ていた最強の魔族と名高いS級冒険者のバリトンが何者かに殺害された』
それを聞いたルルネとミアは顔を見合わせて、
「最強の魔族が殺害……?」
「もしかしたら【亜神】と何かしら関係がありそうですね」
そうして二人は今度はバリトンの事件を追うことにするのだった。