第百十五話「エリの行方」
次の日。二人は朝食を食べながら作戦会議を開いていた。
「さて。どうやってエリを探しましょうか」
ルルネは腕を組みながら悩むように言った。
それに対してミアは顎に手を当てて考えながら答える。
「う~ん、やはり聞き込みが手っ取り早いですかね?」
「それしかないわよね……。確か長老が言うには赤髪の三つ編みで、そばかすのついた少女だったわよね」
「はい。それと、年齢は二十三歳だと言っていました」
「まあそのくらい情報があれば、ある程度は絞れそうだけど……」
「王都から出てたらお終いですね」
「そうね。それだけはないことを祈るしかないわね」
ミアの言葉にルルネは頷いて言った。
二人は朝食を食べ終えると、食器を片付けて立ち上がり、出かける支度を始める。
早速二人はエリの捜索を始めるつもりだった。
「どこらへんを探しますか?」
「んー、ひとまずスラム周辺じゃないかしら?」
「ですよねー。じゃあしらみつぶしに探しますか!」
それから数時間ほどスラム内の人たちに手当たり次第に話しかけ、エリらしき少女を見てないか情報を探してみるが全く情報を得られなかった。
「う〜ん、やっぱりそう簡単に手かがりを掴めませんか……」
「そうね。これはスラムの外に出ているかもしれませんね——ッ⁉︎」
そんな話をしていると、ルルネは何かを察知して後ろに飛び退く。
元いた足元には小さな針が突き刺さっていた。
ルルネは警戒するように針が飛んできた方を見上げる。
チラリと空色のマントが靡いたのが見えてルルネはミアに言った。
「追うよ!」
「はい!」
二人は魔力を全身に巡らせて身体強化すると、屋根の上に飛び乗り、急いで空色のマントを追った。
快晴の空に溶け込んで見失いそうになりながらも、スラムから出る直前で追いついた二人はそのマントの人影の背中に蹴りを入れ、吹き飛ばした。
地面に転がり落ちたマントの人影の近くに降り立つと、マントのフードを掴み思い切り引っ張り剥ぎ取った。
「……って、女の子?」
そのフードの中の顔を見てルルネはキョトンとした声を上げた。
十代前半くらいの幼い少女だった。
彼女は二人を涙目で睨みつけて言った。
「え、エリお姉ちゃんは渡さないから!」
少女の様子にルルネは困ったように頬を掻く。
こんな幼い少女だとは思わなかったのだ。
ミアは困惑しているルルネの肩に手を置いて少し下がらせると、蹲み込んで目線を合わせ少女に柔らかい声で言った。
「私たちはエリさんに話を聞きたいだけなの」
「そんなこと言って! ベンお兄ちゃんの時みたいに殺しちゃうんでしょ!」
「ベンさんの時もこんな感じだったんですか?」
「うん……。なんか知らないお兄ちゃんたちが来て、ベンお兄ちゃんのところに連れて行けって言って、連れて行ったらそのまま捕らえられて殺されちゃったの……」
泣きそうに顔を歪ませながらそう言う少女。
ミアはそんな少女を優しく抱きしめて、頭をゆっくりと撫で始める。
「それは辛かったですね」
「うん……」
「私たちはその男の人たちとは違います。そう簡単には信じてもらえないかもしれませんが、私たちはベンお兄ちゃんのことや、消えるスラムの子供たちを調べてるんです」
少女はミアの胸から顔を離すと複雑そうな表情で見上げた。
「ほんと?」
「本当ですよ。う〜ん、こう言うと胡散臭いかもしれませんが、私たちは貴女の味方です」
「でも……」
それでも信じ切れていない少女にミアは抱きしめていた腕を離し、一歩後ろに下がった。
それから懐から護身用のナイフを取り出すと、少女に手渡した。
「……これは?」
「私たちが裏切りそうだったらそれで刺してください。絶対に裏切らないので」
真剣な表情で少女の目を見つめてミアは言った。
それに少女は目を見開く。
「…………」
「これでも信じられないですか?」
そう尋ねたミアに少女は首を横に振った。
「ううん、わかった、信じる。でも、裏切りそうだったら容赦しないから」
その言葉にミアはにっこりと微笑んだ。
「それじゃあ、私たちをエリさんに会わせてもらえますか?」
「うん、いいよ」
そうして歩き出した少女の後をミアとルルネは追っていくのだった。
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toi8先生にとても素晴らしいイラストを描いていただいたので是非ともお手に取っていただけるとありがたいです!