第百十二話「密かなる企み」
本日より新章開始です!
「アルベルト様。いかがでしょうか?」
地下に広々と広がる闘技場。
その中心で銀狼種の獣人の少年とS級の魔物【サイクロプス】が戦っていた。
二人しかいない観客席で、戦いの様子を眺めながら老人が男に話しかけた。
老人は猫の獣人だった。
細長い瞳孔をさらに細め、まるで研究材料を見るかのように闘技場での戦いを眺めている。
一方、熊の獣人であるアルベルトと呼ばれた男の方は、獰猛な、好戦的な笑みを浮かべて少年がサイクロプスに圧倒する様子を眺めていた。
「悪くないな。……いや、実に良い」
「そうでしょうそうでしょう。彼は【人工英雄の素】への適応率が99%を超えてますからね。ほとんど本物と遜色ない結果を出せていますよ」
「なるほどな。しかもこの後に【亜神】への覚醒も控えているのだろう?」
「ええ、ええ。彼は追い込まれれば追い込まれるほど、亜神への覚醒を早めますので。強敵との戦闘が彼を強くしていくのですよ」
と、そのとき。
バタンッという倒れる音とともに、サイクロプスが地に伏せた。
どうやら戦闘が終わったらしい。
銀狼種の少年に傷は一つもついていない。
それどころか荒い息一つもついていなかった。
圧倒していたことがよく分かる。
少年は興味なさそうな目でサイクロプスを見下ろすと、今度は老人たちの方に振り向いた。
その瞳に憎悪も嫌悪もなかった。
ただ無関心の瞳だけが老人たちを捉える。
アルベルトはそんな彼をさらに獰猛な笑みで見下ろしながら、足を組み直して言った。
「これで【人類統一計画】がさらに進むな」
「そうですな。この研究がさらに進めば、最強の【統一軍】が作れるでしょう」
手を揉みながら老人は言う。
アルベルトはそんな老人をチラリと見て言った。
「そんなに研究費が欲しいのか?」
「ええ、ええ。そりゃもちろん。といっても、後は本物の【英雄の素】を手に入れられれば良いんですけどね」
「……そういや半年前に、この獣人の国に人族が二人ほど転移してきたみたいだな。どうやら向こうの大陸では英雄だとか呼ばれていたみたいだぞ」
「ふむ……そやつらが【英雄の素】を持っているかは分かりませんが、指名手配して確保できると良いですな」
ニヤリと笑みを浮かべて老人が言った。
アルベルトは少し考えてから、こう答えた。
「そやつらを捕らえれば研究は進むのか?」
「ええ、おそらく。まあ期待外れの可能性もありますがな」
「そうか。それでは指名手配にしてやるか」
そう言うとアルベルトは立ち上がった。
老人もそれに続く。
「ネシウスは早く覚醒させろ。まずは【亜神】がどれくらい強いのかを知らなければならぬ」
「ええ、ええ。分かりました。必ずや」
ネシウス——銀狼種の少年のことだ。
未だに光のない瞳で二人を見つめているネシウスが今、何を考えているのか、二人には分からなかったし、そもそも興味も持っていなかったのだった。