百十話「承認」
「とまあ、感動の再会はこれくらいにしておこう。次も控えてるしな」
そう言ってリンネさんはジン君から離れる。
少しジン君は名残惜しそうにしていたが、渋々壇上から降りて群衆に混ざった。
「お疲れ様です、ジンさん、アリゼさん」
「良かったですよ……二人とも!」
戻るとアーシャとルークさんがそう言いながら近づいてくる。
感激した様子のルークさんの言葉にジン君は照れながら答えた。
「そ、そうですかね……?」
「はいっ! とても輝いて見えました!」
キラキラした表情でいうルークさん。
俺がそんな二人をにこやかに眺めていると、近くで愚痴っていた貴族が話しかけてきた。
「……すまなかった」
その言葉に俺たちは驚く。
そしてジン君が静かに尋ねた。
「ええと、すまなかったって、何がですか……?」
「いや、お前たちのことを平民だとナメていたんだ。どうせロクな芸も披露できないのだろうと」
そして再び貴族の人はすまなかったと言って頭を下げた。
それに慌ててジン君が言う。
「そ、そんな! もう謝らなくていいですよ! 逆に認めてもらえて、謝ってもらえて、それだけで十分ですから!」
「そうか……恩に着る」
それだけ言って離れていく貴族。
突然の行動に驚いてしまったが、ちゃんと謝れるいい人だった。
バカにされてた時は少し悲しかったが、ちゃんと認めてもらえて良かった。
自分でも単純だと思うが、人の感情を動かせたと実感できた。
そして続いて三人目が芸を披露し、誕生日会はピークを迎える。
みんなお酒を程よく飲み、かなり盛り上がってきた。
「はははっ! すまんかったなぁ! 正直俺もお前たちのことをナメてたんだわ!」
バンバンとガタイのいい貴族にそう肩を叩かれているジン君。
すごく困っていそうな表情だ。
しかし同時に嬉しそうでもある。
あの先陣きって謝ってくれた貴族の男が現れてから、次々と謝ってくれる貴族が出てきた。
そして良くも悪くも田舎育ちの純粋で汚れないジン君がお気に召したみたいだった。
「そうか、お前さん心臓が悪いのか! まあウチなら優秀な医者がいるし、激しい仕事もない。ウチにきてもいいぞ!」
ガタイのいい貴族にそう言われるジン君。
その言葉にジン君は嬉しそうな困ったような表情をした。
しかしすぐに表情を真面目なものにすると言った。
「僕は……リンネ様の側で働きたいんです。だからすいません……その話は」
そう言われその貴族は一瞬、キョトンとした。
しかしすぐにガハハと笑うと言った。
「そうかそうか! それは大変な道のりだろうが、頑張れよ!」
快活に笑った貴族に、さらに周囲の貴族が言葉を重ねる。
「ぷぷっ! フラれてやんの!」
「うっせぇ! リンネ様相手じゃ仕方がないだろ!」
「そうだな! リンネ様には勝てねぇよな!」
「ぐっ……何も言い返せねぇじゃねぇか!」
ジン君の周囲がとても明るくなっている。
その中心に彼がいることが、俺は何かすごく嬉しくなった。
彼の保護欲を掻き立てるような人柄が作り上げた空気感なんだろうな。
見守っていた俺にアーシャが近づいてきて言う。
「大丈夫そうですね、アリゼさん」
「ああ、そうだな」
そして二人して見守っていると、その輪の中に一人入り込んでくる人がいた。
「そうかそうか! やはり私には勝てんよなぁ!」
リンネさんだった。
みんな驚き、彼女の方を向く。
圧倒的カリスマがそこにいた。
「ジン。お前は私の側で働きたいのか?」
そう聞かれたジン君は一瞬にして表情が固くなる。
緊張してしまったのだろう。
口をパクパクさせて、言葉を発そうとしているが、なかなか出てこない。
ジン君は救いを求めるように周囲を見て──俺と目が合った。
ほんの一瞬、目と目が合う。
それでジン君は覚悟が決まったらしい。
息を吸い込むと大声でこう言うのだった。
「働きたいですッ! 働かせてください、お願いしますッ!」