第百七話「誕生日会、開幕」
とうとう誕生日会当日になった。
結局、合格者はジン君含めて三グループみたいだった。
ダンスの人、それと合唱のグループが合格だ。
おそらく一つの技だけではどれだけ優れていても駄目で、組み合わせを見られていたのだろう。
なぜ組み合わせを重要視したのかは定かではないが、リンネさんが関係ありそうに思える。
その理由は今日の誕生日会で明らかになるかもしれないな。
「今日はリンネ様の誕生日会に出るんだろ! 頑張って来いよ!」
宿屋の女将はガハハと豪快に笑いながらそう言って、ジン君の肩をバンバンと叩く。
その激励にジン君は照れたように頬をかいた。
「ありがとうございます、頑張ってきます」
そう言うジン君に宿屋の娘も近づいてきて言った。
「お兄ちゃんとおじさん、頑張ってね!」
おじさん……。
やっぱり俺はおじさんと呼ばれる運命なのか。
それはともかく、俺は娘の頭に手を置いて撫でると、言った。
「ありがとう。おじさんもお兄さんも頑張ってくるよ」
「うん! 帰ってきたらいっぱいお話聞かせてね!」
というわけで、土産話を持って帰ってくることを約束し、俺たちは王城に歩いて向かった。
門の前まで辿り着くと、そこではアーシャが待ち構えていた。
「ようやく来ました。もうそろそろ始まりますよ」
「ごめんごめん。それならすぐ行こうか」
そして俺たちはアーシャに続いて王城内を歩き、大広間まで辿り着いた。
そこには高価そうな服を身にまとった魔族の貴族らしき人たちがたくさんいた。
みんな上品にワインのグラスを傾けながら談笑していた。
俺たちが大広間に入ると、みなこちらをチラリと見てきて、すぐに興味をなくし視線をそらした。
芸を披露するために呼ばれた奴らだと把握されたのだろう。
声をかけるほどではないと判断されたのかもしれない。
まあ、俺たちの目的はリンネ様に顔を覚えてもらい、彼女の元でジン君が働くきっかけにするつもりできただけだからな。
あまり貴族と仲良くなっても意味がないかもしれない。
そう思っていたのに、無精ヒゲを生やした貴族のオジさんが近づいてきた。
「やあやあ。君たちが芸を披露する人たちのうちの一グループだね」
声をかけられてジン君が頷いて固い声で言った。
「は、はい……。よ、よろしくお願いします」
「いや、よろしくもないけどね。精々、あまりリンネ様のお目を汚さないように気をつけなよ? 田舎者がこんなところに来られるだけでも光栄なんだからさ」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて貴族のオジさんが言った。
それを聞いた周囲の貴族たちも失笑する。
「……そっ、そうですよね。す、すいません」
その言葉に完全に萎縮してしまったジン君に、アーシャが貴族に対して文句を言おうとした。
しかし俺はそれを手で制する。
「アリゼさん……っ!」
「やめておけ。ここでは彼らの方が立場が上だ」
小声で抗議してくるアーシャに、俺も小声でそう返した。
アーシャはそれを聞いて不服そうな表情をしたが、言い返すのを抑えてくれた。
そんな会話をしていると、突然使用人たちが広間の蝋燭の火を落とし始める。
それからラッパの音が鳴り響き、広間の壇上に人影が現れた。
次の瞬間、パッと魔法が広間の中央に打ち上がり、まばゆく照らした。
壇上に立っていたのは、漆黒のさらさらとした髪を靡かせている、美しい女性だった。
彼女は壇上ですうっと息を吸うと、大声でこう言い放った。
「私がリンネである! 今日はみな、私のために集まってくれてありがとう!」