第百六話「審査での機転」
一人一人と審査員に芸を見せていく参加者たち。
歌を歌ったり、ダンスをしたり、独自の魔法を使ったりと様々だ。
すぐに結果が言い渡される形式らしいけど、みんな悉く敗北していっている。
中には俺でも巧さが分かるような人も居たのに、彼らもみんな落とされていた。
「あれでも駄目なんですね……」
ジン君はポツリとそう言う。
さっき壇上に立っていた人が披露しているのは歌だ。
めちゃくちゃ上手で、聞き惚れてしまいそうなほど。
しかし、審査員に落とされてしまっていた。
「どういう基準なんだろうな?」
俺が首を傾げて言うと、アーシャが考え込みながら言った。
「これだろうという基準は思いつきますが、言わない方が良いでしょうね。他の参加者的にも、ジンさん的にも」
「そうですね。僕は結局、自分の持てる力を出し切るだけですし」
アーシャの言葉にジン君は頷いた。
そして再び真剣に壇上を見つめるジン君。
しばらくして、三、四人が落とされた後、初めての合格者が出た。
それは独自の光を発する魔法と自分のダンスを組み合わせた煌びやかなものだった。
「初めての合格者ですね……」
「そうだな。七色に魔法が光ってて、凄い煌びやかだったな」
しかし、何が決め手だったんだろうな。
派手さか……?
いまいちよく分からず、俺は首を傾げる。
だがジン君は深く考え込んだ様子で、黙ってしまった。
その後も合格者は出ないまま、ジン君の出番が近づいてきた。
そのとき、ジン君がふと俺に相談してきた。
「アリゼさん。僕の演奏に合わせて剣舞みたいなのってできたりします?」
「剣舞?」
「はい、そうです。そんな凄い感じじゃなくていいので」
それならできそうだけど。
それに何の意味があるのだろう?
だがジン君が必要だと思ったのなら、俺は手伝うだけだ。
俺は頷くと、ジン君に言った。
「分かった。俺で良ければ力になるよ」
「ありがとうございます!」
そして俺は唐突に壇上に立ち、ジン君の演奏に合わせて剣舞を披露することになった。
それなら《身体強化》くらいは使うか。
俺はジン君と共に壇上に上がると、早速剣を手に持った。
「それでは、始めてください」
審査員がそう言った。
始まるジン君の演奏。
即興で俺はそのリズムに合わせて、剣を振るい、身体を大きく動かしていく。
時に鋭く、時に大げさに。
徐々にジン君の演奏がヒートアップしていき、それに合わせて俺の気分も高揚していく。
汗が散るのも気にならないほどの集中。
周囲も何も視界に入らない。
ただ耳に聞こえてくるリズム、音楽だけが、俺を包み込んでいた。
「はあ……はあ……」
気がついたら演奏が終わり、俺たちは拍手に包まれていた。
久しぶりにここまで集中したかもな。
いつの間にか息が切れている。
「お疲れ様です、アリゼさん」
「ああ。そっちこそいい演奏だったぞ」
近づいてきてねぎらいの言葉をかけてくるジン君に、俺はそう返した。
後は審査員がどう判断するかだが……。
「……合格です」
彼は淡々と静かな感じでそう言った。
俺とジン君はそれを聞いて、目を見合わせた。
「……やりましたね」
「ああ、おめでとう」
ぐっと涙を超える感じで押し殺すように、ジン君は言った。
こうして俺たちはリンネさんの誕生会に参加することになった。
誕生会はあと三日後。
それまでに少しでも技を磨いておこうと、俺とジン君は剣舞と演奏を共に練習するのだった。