第百二話「王都での再会」
楽器屋を巡ったり、練習をしたりした後、夜明けとともに街を出て王都に向かった。
王都に近づくにつれ、旅人の数が増えていく。
その様子を見たジン君が俺に尋ねてきた。
「これ、みんなあの張り紙を見てきたんでしょうか……?」
「分からないけど、そうっぽいよな。まあ王女様の誕生日会に参加できる機会なんてなかなかないだろうしね」
俺はジン君の問いに頷いて答える。
それを聞いたジン君はなるほどと納得したように頷いた。
それから俺たちはその集団に混ざるように歩き、王都まで辿り着いた。
王都は城塞都市になっており、高い壁が街を覆っていた。
「入るにはあの列に並ばなきゃいけないみたいですね」
「めちゃくちゃ並んでるなぁ……。あれ、どのくらいかかるんだろう」
街に入る門には無数の旅人たちが並んでいた。
列の人数的に四、五時間はかかってもおかしくはない。
でも並ばないと街に入れないので、仕方がなく並ぶ。
そして待っていると、後ろにいた背の高いハットを被った男に話しかけられた。
「アンタたちもリンネ様の誕生日会に参加するのか?」
「はい、そのつもりです。貴方もですか?」
男の問いにジン君はそう聞き返す。
男はジン君の問いに頷いた。
「そうよ。俺はこのマジックで参加するつもりなんだ」
そう言ってハットを脱ぐと、その中から白い鳩が飛び出してくる。
何もないところから鳩を生み出す魔法は存在しないので、ちゃんとマジックなのだろう。
男の技術にジン君は感心したように呟いた。
「凄いですね。僕、うまくできるかな……」
その不安そうな言葉を聞いた男がニカッと快活に笑った。
「大丈夫さ! どちらにせよ、今持ってる全力をつくしかないんだからな。悩んで全力を尽くせない方が問題だぞ」
「……確かにそうですね。ありがとうございます」
頭を下げるジン君に、男は照れるように頬をかいた。
「まあ、こんな敵に塩を送るようなことはしない方がいいんだろうがな。だが俺は間違いなく負けないし」
言いながら、男は自信に溢れるような笑みになった。
魔族は実力主義のヤツが多いと聞くが、その片鱗はこの男にもあるということだろう。
負けるようなことは一切考えていないようだった。
それから男と他愛もない会話をしていたら、すぐに順番が来て王都に入れた。
男とは王都に入ると別れ、俺たちは早速宿を探し始める。
「うわぁ……人がいっぱい居ますね……。前の街よりも多い……」
大通りを歩くと、人の多さにジン君は驚きの声を上げていた。
俺はいろいろなところを旅してきたので、このくらいは慣れているが、あの村から出たことがないジン君は最悪人酔いするのではないだろうか。
そう思っていると、しばらくしたらジン君が気持ち悪そうにしていた。
「ううっ……なんだか気持ち悪くなってきました……」
やっぱり思った通り、人酔いしたみたいだ。
俺は仁君を休ませるために、近くの噴水広場に連れて行くと、そこのベンチにジン君を座らせた。
「大丈夫か? 何か買ってこようか?」
俺が尋ねると、ジン君は気怠そうな声で
「飲み物がほしいです……」
俺は辺りを見渡して、出店の中に飲み物屋があるのを確認する。
「ちょっと待ってろ。すぐに買ってきてやるからな」
俺はそう言って、飲み物屋に向かった。
ちょっと高級そうな果汁ジュースの店だった。
だが背に腹は代えられない。
俺は少し並んでそれを買って帰ると、ジン君のそばに一人の女性がいた。
「気持ち悪そうですけど、大丈夫ですか? う~ん、こういうときにミアが居れば助かるんですけど……」
アーシャだった。
何でこんなところに?
まあ、一番の目的は彼女たちを探すことなのだから当然と言えば当然だが、ジン君に声をかけていたのは想定外だった。
「今、飲み物を買ってきてくれているので、大丈夫ですよ」
「あっ、そうなんですか。それなら大丈夫そう……って、アリゼさんじゃないですか!」
アーシャは途中まで言って、ようやく俺を見つけて驚き声を上げた。
俺は苦笑いを浮かべながら片手をあげて近づく。
「アーシャ、久しぶり」
「久しぶりじゃないですよ! わざわざこんなところまで来たんですか!?」
「まあね。みんなを探しにね」
俺は頷いてそう言う。
するとアーシャは困ったような、でも嬉しいような複雑な表情を浮かべた。
「それは……とりあえず、ありがとうございます。他のみんなは見つかりました?」
「ああ、順調に見つかってるよ。後はルルネとミアだけだな」
「そうなんですか。アカネとニーナはどこに?」
「彼女たちとは発信器みたいなので居場所を互いに確認できるようになってるんだ。二人は他のところを捜しているよ」
俺の言葉になるほどとアーシャは頷いた。
それからすぐに不思議そうに首をかしげる。
「てか、アリゼさんと彼ってどんな関係なんです?」
アーシャはそう言ってジン君の方を見た。
俺は村での出来事をかいつまんで説明した。
「はあ……そんなことが。やっぱりアリゼさんって巻き込まれ体質ありますよね?」
「そうかもなぁ。でもジン君には俺も幸せになってもらいたいしな」
俺がそう言うと、ジン君は照れたように俯いた。
そこで俺は飲み物を渡してなかったことを思い出して、ジン君に手渡す。
「そうだ。飲み物、買ってきたぞ。すまん、渡すの忘れてたわ」
「ああ、ありがとうございます。助かります」
「どう? 少しは人酔い、良くなった?」
「まあ、休んだら少しは良くなった気がします。ご心配おかけしました」
それなら良かったと俺は言う。
そのやりとりを見ていたアーシャはふと尋ねてきた。
「そういえば、ジン君はリンネさんの誕生日会に参加しに来たのでしょう?」
「はい、そうですね。リンネ様には恩がありますし、彼女の隣で役に立ちたいので」
アーシャの問いに、ジン君は頷いた。
そんな彼にアーシャはこう提案するのだった。
「私、今王城に泊めてもらってるんですけど、多分リンネさんに会わせられると思うけど、どうしますか?」
その問いにジン君は少し考えた後、ゆっくりと首を横に振って言うのだった。
「いえ、せっかくそう言ってくれるのはありがたいんですけど、僕は自分の力でリンネ様の隣に立ちたいので、今回は遠慮させてもらいますね」