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残火の竜 1

私とヤッポはゴーグルは付けずガスマスクのみ付けて、噴気孔(ふんきこう)の目立つ岩場を進んでいた。

霧に加え湯気で視界が極めて悪い。蒸し風呂になるので2人ともレインポンチョは着ていない。

この先のガイタ郷近くの残火(ざんか)の丘に発生した竜が力を付けてしまったらしい。

もう8年も前から確認されていた竜だが、1月程前から急激に進化をしていた。誰かが代償を払って願いを叶えたのは間違いない。


「・・しかし暑い。蒸し風呂だ」


この辺りは火の力が強い。あちこちで岩の隙間から熱い水蒸気が噴出している。

一定間隔で勢いの強い水蒸気を放つ噴気孔や有毒ガスを出す噴気孔もあり、熱中症と共に注意が必要だった。

突然魔物に遭遇するリスクも高く、私は狩り手の槍(ブーストランス)を既に展開して右手に持っていた。

ヤッポは私が槍に氷の力を付与して作ってやった氷嚢(ひょうのう)を布で巻いてタオル越しに頭に乗せ、珍しくへばっていた。

トカゲ人(リザードマン)は頑丈で怪我もすぐ治るが体温調節は苦手だ。


「・・坊っちゃま、急ぎやしょう。厳選はしてきやしたが荷物がダメになっちまいます」


「だな、ヤッポも茹で上がってしまう! ハハッ」


「面白くないでやすよ・・」


等と呑気に話していると、


バシュウゥンッ!!!


やや離れた所で噴気孔から特大の蒸気が噴出し、その勢いで岩とも巻き貝とも知れない塊が4つ吹き飛ばされて、近くに落ちてくるっ!


「爆ぜよっ」


私はブーストランスに爆破の力を宿すっ。ヤッポも後ろで単発グレネードランチャーを抜いたようだが、蒸気でビショビショだったらしく、慌てて他の武器に持ち替えた気配がした。


ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


小石と火花まで散らして着地した巻き貝のような岩。小さな穴が多数空いており、そこからピューッ!! と湯気を出して貝の下の穴から大型の甲殻類の魔物が顔や(はさみ)体を出したっ!

この魔物は 圧釜被(あつがまかぶ)りっ。噴気孔を利用した狩りをすることもあるとは知識では知っていたが、実際狙われるのは初めてだっ。

冷静に槍を構えているが内心、仰天していた。


キシキシキシキシキシキシッッ!!!!


口を動かして耳障りな音を立てて鋏を上げ間合いを計りだす。


「ヤッポっ、虚を突かれた! 近過ぎるからお前は」


4体の内、1体を1手限り引き受けてくれと頼もうとしたのだが、


「っ!」


殺気と撃ち()気っ! 魔物を警戒しつつ横目で確認すると、植物の力を宿した矢が3本飛来し、圧釜被りの岩場の足元に岩を砕いて刺さり、次の瞬間っ


ガバァアンッッ!!!!


3つの着弾点から植物の蔓が爆発的に発生して圧釜被りを絡め取った!


「なんですかいっ?!」


驚くヤッポ。無理もない。改めて矢が飛んで来た方を見ると霧と蒸気の向こうに、私達と同じようにマスクのみ付けた狩り手と似負い人(シェルパ)が、離れた大岩の上にいた。

狩り手の武器は狩り手の弓(ブーストボウ)だ。シェルパは小柄な獣人だった。

弓の狩り手は片手を上げて合図してくる。


「ヨイチか。・・ヤッポ、対処法を学習させるワケにもゆかない、(とど)めを刺すっ。1体任せるぞ?」


「了解でさっ!」


私は素早く蔓で身動き取れない真ん中の2体に続け様にブーストランスを突き込み。炸裂させて仕止め、続けて向かって左の端の個体が苦し紛れに振るった鋏を掻い潜って突いて爆ぜさせ、仕止めた。

ヤッポは手斧(ておの)型手榴弾のピンを抜いて蠢く顎の隙間に捩じ込むように投げ入れ、魔力を込めると小さな障壁を張れる竜鱗盾(りゅうりんだて)を構え、障壁を展開する。


ボォンッ!!


手斧型手榴弾が破裂し最後の圧釜被りを倒した。破片と爆風は竜鱗盾の障壁で防いだヤッポ。


「いい手際だ、ヤッポ」


「・・冷や汗モノですぜ?」


ズレた氷嚢の位置を直すヤッポ。


「オ~イっ」


弓を持つ狩り手、ヨイチ・ウラが小柄な獣人のシェルパは連れ、噴出孔を避けつつ、軽く駆けてこちらまで来た。


「ヨイチっ! 悪いなっ、圧釜被りのジャンプ初めて見て驚いてしまった」


「それはいいんだけどよ、解体した素材の分け前、4割くれないかぁ? お前を手伝うように急に本部に言われて・・あ、ヤッポ! まだキリヒコと組んでたのか?」


「あ、はい。ども。条件良かったんで・・」


バツが悪そうな顔をするヤッポ。実は雇ってからまだ1ヶ月も経ってない。


「ふぅん? まぁいいや、どこまで話したっけ? そう! 急で間に合わなくてさぁ、で、しょうがないから獅子鷲屋(ししわしや)を使ったんだけど、めちゃボッタクられちまってっ!」


獅子鷲屋は獅子鷲という飛行する乗用獣(じょうようじゅう)を扱う業者だ。便利だがとにかく高い!


「災難だったな」


辺境じゃ銀行が使える郷も滅多にない。


「だろっ?! 俺なんて弓使いだから、ブーストボウ用の矢の補充がほんと大変でっ、それでも本部は今日はあっちっ、明日はこっちっ! って指図だけはバシバシしてくるワケよっ。もう俺、2~3年して生き残ってたら転職しようと思ってんだよぉキリヒコっ。ほら? 俺って結構、容姿端麗じゃん? 都会に行ったら役者になれる気が」


危ないのにガスマスクを外して、容姿端麗、を主張しつつ長話の気配を醸し出すヨイチ!


「ああ、わかった! それよりガスマスク付けてくれっ」


「キリヒコ、俺、ガス計持ってるぜ?」


正常値を差すガス計を見せてくるヨイチ。


「私も持ってはいるよっ。風向きもあるだろう?」


「心配性だなぁ」


渋々ガスマスクを付け直すヨイチ。


「取り敢えず、解体するなら解体してしまおう。死臭に他の魔物が寄ってしまう。マヌカも手伝ってくれ、久し振りだな」


「・・ですね」


ヨイチのシェルパ、ビーグル犬型獣人族(ビーグルドッグマン)の娘、マヌカは気だるげだった。

それから集中してなるべく手早く、率の良さそうな部位を解体して確保し、早くも羽虫型の魔物等が周囲で様子を伺いだしたので私達はさっさとその場を離れた。

足早に移動しながら話す。


「ヨイチ、君が来たってことは状況が変わったのか?」


ヨイチは補助専門の狩り手だ。後から突然来る、ということはそういうことだろう。


「そうっ! 残火の丘の竜っ。2日前、脅威判定が6位から5位に引き上げられたんだよっ」


竜は脅威度に応じた階位が付けられている。


「また誰かが願いを叶えたのか?」


「はっきりしたとこはわかってないけど、2日前、ガイタ郷で住人20名程が突然発火して燃え尽きた! 竜が進化したのはそれからだ。ただ報せの限りじゃガイタ郷の住人に被害が出たのはこれが初めてだね」


微妙だな・・地図上ではガイタ郷は残火の丘に近く見えるが、他に近い郷が無いだけで距離は結構ある。

ガイタ郷の人々は10日程前に狩り手のギルドから報せが来るまで、竜の急激な進化に気付いてさえいなかったらしい。


「探索屋から情報は?」


「アイツら竜の調査はしても人間には興味無いよ? よっぽど金積まないと当てにならないぜっ」


「う~ん・・」


(まま)ならない。誰が何を願ったか? その願いを叶える為の活動は持続しているのか? 場合によって竜との交戦に影響が出ることがある。

願いを叶えたい者にとっては、竜よりも狩り手の方が脅威になるから。


「ヤッポ、ガイタ郷はリザードマンの出入りも多い、現地に入ったらそっちを当たってくれるか?」


「わかりやした」


「うん」


「マヌカは獣人方面よろしくなぁ」


「ヨイチ様、獣人なら全種族、話が通るワケでもないよ・・」


「ま、そこは臨機応変でさっ。キリヒコは里長とか固いとこ頼む。俺、被害者関係者を中心に一般の郷の住人に当たってみるわ」


「了解」


「・・ヨイチ様、まず温泉入りたい。もう3日、野宿」


「温泉なぁ!」


ガイタ郷には温泉があった。


「確かにこの蒸気だ、入りたくはなる」


「湯船に入るかはともかく、お湯でさっぱりとはしたいでやすねっ」


調査と温泉のことで他の一同は頭が一杯になっていたが、私は辺境でも比較的人の出入り多いガイタ郷なら仇の情報も何か入るんじゃないかと、密かに期待していた。

西部辺境域に来てはや1月半。情報の無い地域を一つ一つ潰せてはいるが仇に繋がる情報は何も得られていない。

私は内心焦っていた。もし、そもそも西部辺境域に仇がいなかったら・・


「キリヒコ坊っちゃま?」


「ん?」


「宿は魚介の旨い店か、鹿肉の旨い店か? という話になっているんでやすが?」


「ああ、任せるよ」


「じゃあ、あっしらは肉で!」


「・・わたしはお風呂のいい所ならどっちでも」


「いやっ、魚っ! 魚だぁっ!! 肉は野営で飽きたよっ!」


「ヨイチの旦那、ガイタ郷の鹿はこの湯気の環境からその生育過程でまろみを」


暫くはヤッポとヨイチによる肉、魚論争が続いていた。

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