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雲界の狩り手  作者: 大石次郎


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15/28

風の後、先 1

マメにも引き続き手伝ってもらい竜教の洞窟の後始末を一通りはつけた後、私とノノイは荷負い人(シェルパ)の2人も連れて狩り手のギルドの西部辺境本部に一旦戻ることにした。

本部は雷魚艦(らいぎょかん)と呼ばれる飛翔する船を活用しているのだが、電信すると思いの外近くまで来てくれてやや面食らってしまった。

わりと近くを航行していたらしい。

迎えの小型の飛翔する舟に乗り霧の向こうの、雷魚というより大昔に世界に海があった頃にいたという水棲哺乳類、鯨、のようなシルエットの船に私とノノイとシェルパ2人は着艦した。


「御二人とも手柄が多いですから、褒めて頂けるんじゃないですか?」


「褒められたって一文にもなりゃしないでやすよ? やっぱここはっ、現金ボーナスっ!」


何やら期待しているヤッポとスー。艦内の通路が狭いので、身体の大きなスーは人と擦れ違うとちょっと苦労もしていた。


「普通に仕事の段取りの話になると思うよ?」


「別に家臣とか社員って感じでもないし」


と、通路の向こうの瓶入り飲料の自販機の前にヨイチとマヌカがいた。


「よぉ」


「メロン味はわたしが飲んでるので売り切れ」


「2人は?」


「呼び出し。お前達の補助だろな」


「マヌカ、メロン味好きだなぁ。動くぬいぐるみみたいになってんぞ?」


「ぬいぐるみじゃない。辺境じゃ殆んど買えないから」


「あっしはコーラでやすね」


「じゃあ私は蜂蜜ジンジャーエールを飲みます、はい」


取り敢えず私達も飲み物を買って、最近の状況の擦り合わせを軽く行った。

シェルパの3人は、雲界の中央域で2年前に発行された雑誌なんかが平気でラックに積まれている待ち合い室で待ってもらい、私とノノイとヨイチは司令室に向かった。


「よく無事に戻って来てくれた。歓待したいくらいだが、本題を話そう」


ギルドの西部辺境の司令は、現役では7人しかいない1位の狩り手の1人、ベラニオ・アノバス。

もう初老と言っていい歳でリュウマチ持ちでもあるというが、岩のような身体に気力の満ちた人物だった。

我々を前に柔和な表情で話を続けた。


「・・この西部辺境において、竜教の過激派ないし行動派と呼ばれる者達に2つ動きがあるようだ。1つは対立していた巨人族を使役する試み。もう1つは西部辺境の最深部にある狭間(はざま)の遺構付近での活動」


「狭間の遺構ですか?」


神話の領域だ。外の世界への入り口があるとも、竜族の墓があるとも言われている。


「ああ、あの一帯は竜の巣窟で早々立ち入れる物ではなかったのだが、どうやらヤツらは狩り手や魔術師のギルドを抜けた者達の協力を得ているようだ」


ザワついた。やはり、西部辺境だった。


「キリヒコ、ショウゲンがいる可能性は高い。だが、早まるなよ? あれはこの時代でもっとも優れた狩り手と認めざるを得ない」


「・・はい」


「ヨイチ、ノノイ、キリヒコ。お前達3人は隊を組んで、狭間の遺構付近の調査を行ってくれ」


「了解ですっ! ついでに竜教のヤツら、ブッ潰してやりますよっ」


「俺はノノイとキリヒコの補助、しっかり務めますよ? もうちょっと経費増やして欲しいですけど」


「任務は、怠りませんが・・ショウゲンとの決着は必ずつけますっ!」


「止めはしないさ」


ベラニオ司令はそうは言ったが、その古刀のような冷たい瞳が、ショウゲンの始末を私1人に任せるつもりがないことを明白に告げていた。

ショウゲンはベラニオ司令の直弟子でもあった。

それから細々な確認を取ってから、私達は司令室を出た。


「キリヒコ、気持ちはわかるけどあんまり気張り過ぎんなよ?」


「ノノイも竜教を敵視し過ぎじゃないか?」


「いや、まぁ・・それはあたしも色々さ」


「オイ~っ、お前ら揃って重い感じ醸し出すなよぉ。わざわざ纏めて公式に調査しろ、ってのは単独で余計なことすんな、ってことだかんな?」


「ヨイチはお目付け役ってことかよ?」


「我を失ったりはしないさ」


「だからツンケンすんなって~」


等と話しながら待ち合い室へ通路を進んでいると、


「3人とも!」


司令室のドアを開け、彫像かな? という程、無表情で沈黙してベラニオの側に立っていたベラニオ付きの副官で、2位の狩り手でもあるウォニー・マシオードが几帳面な速足で追ってきた。


「げっ、ウォニー『ドリル』だ」


余計なことを言うノノイ。ウォニー氏は美人だが、長髪をドリルのように巻いて頭頂部で纏める独特な髪型をしている。


「何か?」


「ベラニオ司令は乗り気ではなかったが・・本来、狭間の遺構エリアは3位未満の狩り手は立ち入りを認められていない禁域っ!」


尖ったフレームの防湿硬化仕様の伊達眼鏡もしているウォニー氏。美学があるんだろう。


「はぁ、しかし・・」


「俺ら、行け。って言われたんで」


「今から中央域に戻って3位試験受けるのは無理ッスよ? 時間掛かるし、タルいし、あたし座学とかチンプンカンプン」


「戻れとは言ってないっ! ノノイ・メウジンっ」


ノノイの鼻を摘まみ上げるウォニー氏っ。


「痛タタッ?!」


「それから私はウォニー・ドリルではないっ。ウォニー・マシオードだっ!」


「すいませんっ、すいませんてっ!」


鼻を乱暴に離すウォニー氏。珍しく涙目にされるノノイ。


「ふんっ! ギルドとして、お前達を暫定的に3位の狩り手に認定するっ」


「え?」


「マジっすか?」


「ほんとかよ~、・・痛ぇ。キリヒコ、鼻血出てない?」


「防具を3位仕様に換え、シェルパにも相応の魔除けを貸与する! 獅子鷲のフリーチケットも使えるからなっ!! 暫定とはいえ、立場に応じた働きをするようにっ」


「おお~っ??」


突然の出世に、我々は戸惑った。


「それからキリヒコっ! お前は連戦し過ぎだ。今月6位級以上の竜や魔物を何体倒した? 医療部で検査を受けろっ。武器の再メンテもだ!」


「はぁ」


「気の抜けた返事をするなっ!」


「あ、はいっ!」


このウォニー氏、狩り手の教練所で教官を務めることが多くて、未だに逆らい難い物がある・・



武器と取り替えることになった防具を装備部に預け、検査着に着替えた俺はあれこれ検査を受けた後、信じられない味の薬湯を飲まされてから、治療の魔方陣の描かれた施療台に寝かされた。


「筋や間接もですが、脳、脊髄、心臓にもかなり負担が掛かっています。竜の返り血も浴び過ぎていますね? 浄化と治療を施します。少々お待ち下さいね」


やたら乳の大きなギルドの治療専門の魔術師は魔方陣の発動に使う医療用の触媒素材を棚に取りに行った。


「坊っちゃま、横目で先生のお乳を見てるのがバレバレでやすよ?」


なぜか施療室まで付いてきたヤッポが耳打ちしてきたっ。


「っ?! 見てない。偶然だっ! というか、ヤッポはなんでいるんだ? スーやマヌカとカードゲームでもしてたらいいっ」


「ひっひっひっ。坊っちゃまが、ぐで~んと休まれてるのなんて珍しいでやすからねっ。見物ですよ?」


「何が面白いんだ??」


「はーい、お待たせしました。シェルパの方は陣から出ていて下さいね?」


「あーハイ、どうぞぉ。ひひっ」


治療魔術師は丁寧に触媒素材を陣に並べ、短杖(ワンド)を構えた。


「では、キリヒコさん。リラ~ックスっ! 目を閉じて」


「あ、はい・・」


「ひひっ」


「笑うなっ!」


私がムッとしているのに構わず、治療魔術師は魔方陣を発動させた! 光に包まれ、眠気を感じる。触媒には高価な素材が使われ、何より高度や治療魔術師自体が貴重な存在だ。

なんだか申し訳無いな・・等と思うが辺境に来て以来初めて、私は深い眠りに落ちていった。



気付くと、浅い霧の原っぱにいた。雲界なりに日差しが差して温かい。雲海の中央域の殆んどは春の季節、で固定されている。

この世界の住人8割は住み良い中央域で暮らす。当然土地が足りないので、小さな紛争が絶えない場所でもあった。

だが、その時の私の故郷は安全で、私は伸び伸び霧の遥か先が降り落ちる終わらない春の日差しを浴びていた。

風が吹き、霧の中に近くに立つ霧桜(きりざくら)の大木から花弁も散らし出した。


「キリヒコ」


霧桜の花弁のカーテンの向こうから木刀を2本持った立派な体格の男が現れた。


「ショウゲン伯父さんっ!」


幼い私は嬉しくて、伯父の所まで駆けて飛び付いた。


「ははっ、少し時間が出来た。郷に滞在する間は稽古に付き合ってやろう」


「やったぁっ! ボクも大きくなったら伯父さんみたいな立派な狩り手になるよっ。母さんや妹を守るんだ!」


「無理に狩り手になることはないさ。お前の父さんのように、装備職人も、立派にギルドに貢献し、それは世界を守ることにもちゃんと繋がっている」


困った顔をする伯父。私の父は竜の血の病を患っていて、身体が弱かった。


「嫌だよっ、ボクは強くなるんだ!」


「・・強さにも色々ある。まぁ、いい。今はお前を鍛えよう。そら!」


伯父は幼い私に木刀を渡すと、猫か何かをあやすように加減して、私の拙い剣技に付き合い出した。


「わぁああーーーっ!!!」


霧桜に包まれて、幼い私は他愛なくムキになって伯父に挑んでいた。

これがかつての記憶の夢だと自覚はしていたが、いよいよ討つ時が近いと腹を決めた後であることも自覚していて、その上でこんな夢を見ている女々しさが我ながら愚かでしょうがなかった。

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