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十二支  作者: 傡鬱 克
1/2

……雨が嫌いだった。


「はあ……」


何故か追い込まれてる気分になるからだ。


……雨が嫌いだった。



――


「ねぇねぇ!」

甲高い声に思考を掻き乱される。

……クソ……今日の晩飯何にするか考えてたのに……。


「ねぇってば!」


あー……ダメですね。今日はカレーかうどんですね


いや待てよ。カレーうどんという手もあるな。

ほんとか?カレーとうどんが合わさってしまうとそれはもしかしてビックバンが起きるのでは?


「ねえ!聞いてるんの!?」

もう一度掻き乱され

「あの山に行こうって言ってるのに!」

本題を突きつけられる。


「…………」


「……もしかして死んでるの……?」


「死んでねぇよ殺すなやめろ」


「なんだあ。何も反応がないから死んでるのかと思ったー」


可愛い顔して俺の事を殺そうとするのは、幼なじみの来未きひつじ 未来みく


男子受けする顔と高い声。

これで"おとこ"と言うのだから現実は非常すぎる。


「いやだからなうどんとカレーどっちにするか迷っててな。」


「は?うどんとカレー?

カレーうどんでよくない?」


……こいつはなんて短絡的なのか……。


「いいか、カレーとうどん、どちらも美味しいものだ

カレーは造り手によって味を変える。それはそれは良いものに。具体的に何がいいのか俺には分からないけど、俺くらいの年頃の奴は困ったらカレーか肉を食べさせればいい。とか言われるくらいに人気は高い。


それと対をなすのはうどんだ。

うどんはいい。思ったより簡単に作れる。なんならめんつゆと麺があればそれでうどんなのだ。

そこに薬味のネギを入れて食べる。なんなら揚げ玉(天かす事)を入れて食感を楽しむのもありだ。

関西では鰹節を入れる人間もいる。

出汁の中に鰹節が入ってるのに鰹節を入れるとはこれ如何にと思うが、これが案外あってしまうのだ。

それにうどんはなんだかんだ安い。麺ひと玉16円、つゆもそこまで高くない。それであの美味しさならコストパフォーマンス抜群と言わざるを得ない。


それをお前。カレーうどんなる物でいっしょくたくにするのは俺的にはどうかと思う。

そりゃ合わせればうまい×うまいになるからな。

実の所俺もそれでいいのではないかと思っている節もある。

だがなお前……。」


と長々と語ったところで遮られる

「はいはいわかったわかった。じゃあ今度僕が作ってあげるから。

だからとりあえず僕の話を聞いてくれる?」


…………。ええ…………。


「あの山に行きたいの」


そんな綺麗な顔で言うな。


「あの山って……」


「そう。僕のじいちゃんの私有地。

いつも行くなって言われてるけど、そんなこと言われると逆に行きたくなってくるでしょ?」


「なら1人で行けよ。俺いらないだろ」


「やだよ怖いな。じいちゃんが行くな行くなっていうのに道連れなしに行く訳ないじゃん」


こいつ今俺の事サラリと生贄扱いしてない?


「あのな。道連れ扱いされて一緒に行く奴がいると思うか?」


「うん」


「……いや、うんて」

なんでこいつこんなに自信満々なの?


「一緒に行ってくれるよね?」


……。どうやら俺に拒否権はないようだ。



―――


「ところで、なんでこの山なんだ?」


「ん?ええっと、なんかこの山の奥に守り神を祀っている祠?があるらしいんだけど、最近じいちゃん亡くなったでしょ?

それを手入れする人がいないって家族の中で話題が出て……」


「お前に白羽の矢が立ったと」


「うん。そういうこと」


「にしても家族さんも恐ろしいことするな……お前のじいちゃんが立ち入り禁止にしてたところに出向かせるなんて」


「うーん、まぁでも行ってみたかったのは本心だし。別に悪い話じゃないかなぁって思ってるよ」


なんてポジティブなんだろうかこいつは。

……雨鬱陶しいな。土がぬかるんでまともに歩けやしない……。


「着いたよ」


「ん、おう」


地面ばかりに気を取られすぎて前見てなかった。

なんの変哲もない、よく昔話で出てきそうな祠だった。


「……普通だな」


「そうだねぇ。なんの面白みもないくらい普通だ」


「んで?手入れって何するんだ?」


「お墓参りみたいなものだよ。

雑草抜いて、祠拭いて、手を合わせて帰る。

なんにも難しくない、けど」


言葉に詰まる未来


「けど、なんだ?」


「じいちゃんはいつも手を合わせてる時、何を思ってたのかなって」


「確かにな。何思ってたんだろうか」


「……まぁ考えても仕方ない!

さっさと終わらせて戻ろっか!」


そういって雑草を抜き始める未来

こいつは将来大物になりそうだよな……。


――――


「思いのほか早く終わったな」

時間にして10分だろうか。

制服が少し泥にまみれてしまった。

ごめん母ちゃん……。


「ふぅ……。じいちゃんが最後まで綺麗にしてたからかな」

おもむろに鞄から雑巾を取り出し祠を拭き始める未来


「どれくらい拭くんだ?」


「軽く埃を落とすくらいかな」


「そうか」

この泥にまみれた制服、母ちゃんになんて言うかな……。


「うん。こんなものかな」


「終わったか?」


「終わったよ

手を合わせて帰ろっか」


「おう」


休んでいた身体を動かし未来の後ろに立つ。

しばしの静けさ

雨の音、風に揺れる木々達の音

森の中にいるということを教えてくる、不気味な音たちが俺たちを包み込んだ


「……こん。そこんよ」

そんな音に交じって聞こえてきたのは聞きなれない声だった


「……?なんか言ったか未来」


「え?ううん」


頭に?マークを浮かべる未来と俺

……気のせいか?

もういちど手を合わせ目を瞑る


「織部 鼠近よ、聞こえておろう」


「!?!?」

確かにしっかりと聞こえた


「どうしたの鼠久?」

動揺して一歩下がった音に未来が不思議そうに顔を向ける


「お前、聞こえてないのか……?」


「何が?」


「いや、俺に似た名前が呼ばれただろ!?

織部おりべ 鼠近そこんって!

誰だ!誰が呼んだんだ!出てこい!」


「落ち着きなって鼠久

君の名前は 織部おりべ 鼠久そきゅうだろう?」


「そうだけど……なら鼠近って誰だよ!」


「それは僕にはわからないけど……」


「……帰ろう。なんか気味悪いわ」

帰り支度をはじめる俺を未来は不思議そうにみて


「あ、待って!僕も帰るから!」

急いで帰り自宅をするのだった。

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