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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー短編シリーズ

殺人鬼

作者: 井花海月


「ねぇ知ってる?最近、この街で殺人鬼が出たんだってよ」


 クラスメイトの与沢は妖怪のマネをするようにベロを出しながら言った。


「殺人鬼?マジで?」

「えぇーっ!?」


 俺と彼女の由希は2人揃って目を丸くする。


「うん。聞いた話だと、被害者は手足が切断、内臓とかも全部引き出されてて、おまけに顔面も見分けがつかないほどにめちゃくちゃだったらしいよ」

「そ、そんな……」

「どうして、そんなことを……」


 不安そうな顔つきの由希を撫でつつ、俺も顔をしかめずにはいられない。


「動機は一切不明。加害者を見た人はいないんだけど、被害者が無残な姿で落ちてたのは、学校付近にある居酒屋の路地裏なんだってさ」

「居酒屋付近の路地裏って……俺と由希が夕飯食ってる場所じゃねーか」

「うぅ、そんな人がいたら、ご飯食べられなくなっちゃうよぅ」


 目を潤ませ、上目遣いで見つめてくる由希に「大丈夫だ」と声をかける。


「夕飯の場所を変えればいいだけだ。それに、いざとなったら俺がなんとかしてやるよ」

「太一……」

「もう、そんなこと言って大丈夫なの〜?こんな腕で由希を守れるのかねぇ?」


 ケタケタ笑いながら、からかうように俺の細い腕をツンツンする与沢。細身なのは放っておいてほしい。


「とにかく、あんたらみたいな油断してるバカップルが一番狙われるんだから、あの辺を通るときは特に気をつけなよ」

「へいよー」


 そこまで話したところで、教室に先生が入ってきたので会話は強制的に中断された。



 ◇



「はぁ、どうしようか……」


 帰り道、由希は俺の腕にしがみつきながら口を開く。与沢が昼休みに話していた殺人鬼の話だろう。


「この付近だと言ってたな。迷惑なやつもいるもんだ」


 路地裏に入るなり、キョロキョロと辺りを見渡すが、それらしき人は見受けられなかった。


「どうして、意味もなく人を殺すんだろう」

「本当にな」


 しゅんとした表情で話す由希に同意する。


「ワケ分かんねぇぜ。なぜ殺すんだか。ただ殺したんじゃ、意味ないじゃねぇか……うっ!!」


 顔を上げた俺は足を止める。


「?……どーしたの太一……あっ!!」


 由希も気付いたらしく、足を止めて口元を押さえる。

 前方から、フラフラとした足取りの人影がゆっくりと近づいてくる。


 噂をすれば、というのはこう言うタイミングで使うのだろうか。


「た、太一……もしかして……」

「いや……あれは……」


 人影はだんだんと鮮明になっていき、右手に尖った何かを持っていることが確認できた。


「おう、なんだぁてめぇらは?」


 向こうも俺たちに視線を合わせると、露骨に不機嫌そうな表情を張り付けながら迫ってくる。


「ちっ、若ぇカップルが色気付きやがって。見てるだけでイラつくぜぇ……」


 目の前に現れたことで、20代前半ほどの酔っ払った男性であることが視認できた。手には割れた酒瓶が握られている。


「こっちはイライラしてんだ。てめぇら、ぶっ殺すぞ」


 顔を赤くし、俺たちに喚き立てる男。

 どうやら与沢の話していた殺人鬼とは違い、ただの酔っ払いのようだ。

 こういう奴は集団なら恐ろしいが、一人なら全く問題はない。

 それは由希にも分かったようで、周りに人がいないのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 俺は密かに安堵すると同時に、腹が小さく鳴った。


「……由希、俺は腹が減ったよ」

「えぇっ!?」


 由希は素っ頓狂な声をあげ、酔っ払いと俺を交互に見つめる。


「まって太一、今から夕飯にするの?」

「そうだ」

「酔っ払いは酸っぱくて美味しくないって、太一が言ったんだよ?」

「今日は早めに夕飯を済ませた方がいい。それに酔っ払いとはいえ、見たところ20代だ。なるべく若い方がいいだろう」

「た、太一がそう言うなら……」


 由希は若干の不満を残しながらも、納得してくれたようで頷く。


「何を2人でごちゃごちゃと、ワケわかんねぇ話してやがるっ!!」


 酔っ払いは吠えながら、割れた酒瓶をこちらに振り上げる。


「……げぶぅぇっ!?」


 振り上げられた手は、こちらに振り下ろされることなく切り落とされ、酔っ払いの腹は由希の手が貫いていた。


「げぶっ……な、なんなんだお前らは……!?」


 酔っ払いは腹から流れる血を押さえながら、目を白黒とさせ膝をつく。


「おい由希、いつも言ってるだろう」

「……ギャッ!!」


 俺が手を薙ぎ払うと、酔っ払いの首はビンのコルクのように軽快に吹っ飛んだ。


「苦しませると肉がまずくなるから、まず首を飛ばして血抜きするんだ」

「そうだっけ?まあいいじゃん、食べよう食べよう」


 噴水のように血が吹き出し、胴体のみとなった男の体が力を失い、糸が切れたようにばたりと倒れるのを確認すると、由希はさっそく手をもぎはじてる。


「ねぇ太一」

「ん、なんだ?」

「やっぱり殺人鬼の思考は理解できないよ。こんなに美味しいのに、ただ無駄に殺すなんて、ワケが分からない」


 由希の言うように、『食事』のために殺すのなら理解できる。

 弱肉強食、自然界の常識だ。それは人間たちも家畜に対して行なっていることだ。


「まあ人間にとっちゃ、ただ殺すも食事もあまり変わらないのかもしれないな。それより、さっさと平らげちまうぞ」

「らじゃー」


 俺たちは薄暗い路地裏で、夕飯を開始した。


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