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妖しの洋館

作者: 立川みどり

 一郎さんは、念願のマイホームを手に入れて喜んでいた。それも、五LDKの一軒家で、どの部屋も八畳ぐらいの広さがあり、けっこう広い庭もある。それが、持ち主が外国に引っ越すので手放したいという理由により、狭い部屋ばかりの二LDKか三DKぐらいの中古マンションと同じぐらいの価格で購入できたのだ。

 古い洋館だが、つくりはしっかりしていて、とくに修繕の必要はない。古くなった壁紙を張り替えたり、草ぼうぼうの庭を手入れするなどといった必要はあるが、その程度だ。

 妻も娘も大喜び。一家三人で引っ越した。

 一郎さんは、仕事で帰りが遅く、朝は早いので、短い睡眠時間の眠りは深い。寝ついてから目覚ましが鳴るまでたいていぐっすりで、よほどのことがなければ目覚めない。夢もほとんど見ないのだが、この洋館に引っ越してきてから、寝ているときに部屋の中で妖怪か妖精みたいなものがうろうろしているという夢を見たことが何度かあった。

 うろうろしたり妖怪どうしで話したりしているだけで危険は感じないし、どうせ夢だから怖くはない。ああ、またこの夢かと思っているうちにすぐまた深い眠りに落ちる。

 ただの夢だし、毎日忙しいので、一郎さんはたいして気にしてはいなかった。


 一郎さんの妻の華子さんも、夫につきあって、夜が遅くて朝が早いので、やはり睡眠不足のため眠りは深い。それでも、夜中にトイレなどで目を覚ましたことはあり、そんなときには、寝室に妖怪か妖精みたいなものがうろうろしていたり、居間でパーティを開いているのを見かけたこともあった。

 そのパーティに娘の陽子さんが加わっているのを見かけたことも、陽子さんに誘われて華子さん自身が加わったこともあった。

 寝ぼけまなこでしばらく楽しく過ごし、すぐ眠くなって寝室に戻ってぐっすり眠ると、なんだか愉快な夢を見たなと思いながら目を覚ます。

 ファンタジー映画にでも出てきそうなムードのある洋館に住んでいるから、こんな夢をよく見るのだろうと、華子さんは思っていた。


 中学生の陽子さんは、夜遅くまで勉強しているうちに眠くなり、机に突っ伏したまま居眠りしてしまうことがよくあった。

 そんなとき、居間から聞こえてくる楽しそうな声に誘われ、妖怪とも妖精ともつかぬ者たちのパーティに加わったことが何度かあった。

 洋館だからか、どちらかというと西洋風の妖精たちに見える。こちらに敵意はなくてフレンドリー。ホラー映画ではなくて、ファンタジー映画のような雰囲気。しばらく過ごすと眠くなって、自分の部屋に戻ってベッドにもぐりこむ。

 朝になると、楽しい夢を見たと思って目覚める。もう子供じゃないのだから、あれが現実だったかもしれないなど、非科学的なことは考えない。ムード満点の洋館に住んでいるから見る夢だと、陽子さんは思っていた。


 人間たちがみんな学校や仕事に出かけて留守になったとき、人ならぬ住人たちが話していた。

「今度きた人間たちはわれらに寛容だな。怖がることもなければ、退治しようなどとも考えない」

「寛容というより、夢だと思い込んでいるようだぞ。われらのような者たちがいるかもしれないとは、まったく思ってもいないんだ」

「睡眠不足のせいもあるな。おかげで彼らとはうまくやっていけそうだ」


 こうしてその古い洋館では、睡眠不足の人間たちと人ならぬ者たちが共存し続けたのだった……。

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