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第一話



冒険者になると決意してからもマルクの日常は変わらない。



シャルルと庭の畑の作物の世話をする。

丁寧な手付きで熟れた果実を採る。

トメトメの実という。

今日の晩飯だ。



マルクとシャルルは二人家族だ。

父親はいない。



マルクが冒険者になりたくても、冒険者登録は十三歳からだ。マルクは現在十歳。



この三年間は準備期間としよう。



自分に足りないものは基本だ。そして冒険者としての実力、知識、経験だ。



魔法や剣の使い方を知らずに育ってきた。

村の住人は農奴と野菜屋、雑貨屋ぐらいだ。

冒険者の訪れない村だからな。仕方がない。



そこでアスランだ。

昔、とある事件でアスランと魔物の戦闘を見たのを思い出した。

アスランに頼めば教えてくれるはずだ。



そして以前、冒険者になりたいからアスランの教えを受けたいと言ったところ、すぐ了解を得た。

だがアスランは冒険者の仕事がある。

依頼を受けて、外に出ていかなきゃいけない。



「坊主、宿題としてこの木剣で一日四百回素振りだ」

「分かった、ちゃんと毎日やるよ!」



マルクは毎日宿題を続けた。

採れた作物をシャルルに渡し、庭で軽く準備運動。急な運動は体に悪い。身体が温まってきたら村を一周ランニング。

汗を拭い、着替えて次は外に出る。木剣片手に素振りだ。



「シッ、ーーー三百九十九! 四百!」



動作は頭上から身体の前まで振り下ろすだけだ。

教えてもらった型をひたすら繰り返し身体で覚えさせる。

掌が血豆で酷かったので水で洗い流し消毒する。



今度は素手のみでスピードを意識する。

この効果は筋肉をクールダウンさせることと木剣の振る速度を上げるためだ。

明日筋肉痛が残らないように。

ケアは大事だ。



「シッ、シッ! 四百!  良し、ノルマ達成」



家の裏手に回る。

目につくのは井戸と小さな倉庫だ。

井戸のところで休憩と水分補給だ。



「わぁー! マルクだ! こんにちは! いま修行中?」



声がした方を向く。

隣の家の柵から翡翠色の瞳がこちらを覗いていた。



「レナ、こんにちは。いまは休憩中だよ」

「そっか。お話ししようよ」

「そうだね、この後も修行があるから少しなら」



レナは聞いた途端、柵を乗り越えた。

スカートの中が見えそうだったので顔を背けた。



レナはマルクの幼なじみのだ。

親同士が幼なじみで生まれた時からの付き合いになる。

いつも明るくて、仲良しの女の子友達だ。

よくマルクの家に遊びにくる。



土で二つ椅子を作る。

錬成魔法はアスランに教わった。

これも宿題に出された一つだ。



「ありがとう! 凄いね! 魔法! マルクは冒険者になりたいんだよね?」

「うん、十三歳になったら冒険者になるんだ」



マルクは以前、庭での修行を見られたところで冒険者になることを話してある。隠すことではないし、レナにならなんでも話せる関係だからだ。


 

「そっかー!  マルクなら絶対凄い冒険者になるよ!」

「あはは、期待に応えるよう頑張るよ」



それから色々と話すうちに気付けば夕方前だ。

楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。



「さてと、じゃあ僕は戻るね」

「え、あ、マルク!」



倉庫の扉を開け入ると先ず目につくのは、さまざまな形のアンティークや家具の類だ。どれも土製でマルクが錬金魔法で作ったものだ。



これらもアスランに好きなものを作ってみろと言われたのでマルクはシャルルが部屋に飾るアンティークが好きなのを思い出してやったのだ。



材料は錬成魔法で調達できる。

様々な鉱石で色んな型を想像したら、錬成。

今日は玄関に飾る用の壺を錬成した。

マルクは一日に数個のペースで作っていくと、家の小さな倉庫ではすぐ置き場がなくなってしまう。



「………そうだ! 村長や村のおじさんたちにあげたらいいじゃん!」



村のおじさんたちはいつも昼過ぎは家にいるから、今度聞いて回ってみよう。



次々とアンティークの類いを作りノルマを終え、片付けを終えて家に戻った。

モクモクと湯気に混じる香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。今日の晩飯はスープか。



「マルク、お帰りなさい。晩ご飯食べる?」

「うん、食べる。母さん、机に三人分あるよ?」

「レナちゃんがくるのよ。あ、来たみたい」



見ると、扉を開けて玄関にレナがいた。



「マルク! さっきぶり!」

「レナ、さっきぶり返し。今日は一緒に晩飯?」

「うん! シャルルお母さんお邪魔します」

「お邪魔されてます」

「なんでマルクが答えるの?」

「晩ご飯できてるよ。食べないの?」

「食べるよ! いただきます!」



レナの後に続き、席につく。

あっという間に二人皿の中のスープを平らげた。

胃に優しく温かいスープが全身に染み渡る。

このスープはシャルル秘伝のトメトメの実から造った料理だ。

小さい頃から晩飯を食べに来たレナと一緒に食べて育ったと言っても過言ではない。

美味しそうに食べるマルクとレナをシャルルは微笑ましそうに見る。



晩飯を平らげたら寝る。

ベッドに三人で潜る。

川の字だ。

寝息が聞こえる。



「………シャルルお母さん、寝たね」

「寝たな」

「……」

「…………」


しばらく無言のが流れる。

だが決して嫌な時間じゃない。

むしろ居心地がいい。

視界は暗い。

蝋燭の火もない。



ポツリとレナが思い出したように呟く。



「青竜の祭り、楽しみだね」

「あー、もうそんな時期か」

「もしかして、忘れてた?」

「い、いや。祭りだっけ?」

「プッ、こっちが聞いてるんだよ? アハハ」



青竜の祭りは、村の御神体の青竜に祈りを捧げる祭りで村の人たちで行われるものだ。

まぁ、だいたい大人がお酒を飲んで騒ぐだけだ。

しかしそれだけじゃない。

この時期になると祭りのために村の狩人たちが魔物を狩るのだ。

つまり、滅多に出ない肉が出る。

子供のマルクはこれを目当てに祭りに出る。



「でね。マルク、一緒に行かない?」

「行こう。色々見て回りたいしな。レナのおじさんおばさん、母さんも誘ってみんなで回ろう」

「ま、祭りは! 二人で回らない?」



チラッと横を見る。

レナと目が合う。

綺麗な翡翠色の大きな瞳。窓から差込む月の光がキラキラとレナの金髪を明るく照らしている。

レナは贔屓目に見ても絶世の美少女だろうな。

さらに今の言葉を聞いて、ドキッとした。



無理だ。

俺の顔はどうだ? 

赤いんじゃないか?

羞恥心で胸が熱い。

誰か助けてくれ。



これまではレナの家族とマルクの家族とみんなで祭りに参加していた。



つまり、レナは二人っきりで祭りを行きたいんだ。



いや、邪推するな。

これはデートじゃない。

きっとレナのことだ。

親しい友人を誘うぐらいの気持ちなんだろう。



横を見れば、レナの顔は真っ赤だ。耳まで赤い。

見えた瞬間、色んな邪念が頭を埋める。

マルクは現在十歳なのだから仕方がない。



「いいよ。二人で行くか」

「うん! 約束だよ!」




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