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レジェンドシーカーズ  作者: 天野カイリ
第一章
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第九話

 黄色い煉瓦で作られた家や建物に、石畳の通り。悠久都市アステアと同じくらい歴史のあるここ、聖都リシュエルの風景はどこか懐かしい風情に満ちていた。

都の中心地にある広場では多くの露店が立ち並び、たくさんの人々でにぎわっていた。楽器の演奏や誰かの歌声もあちこちから聞こえてくる。

今日はこの都で一年に一度の祭り──奉霊祭の日だ。

広場の正面に佇む神殿の階段に腰掛け、行き交う人々を眺める。

露店の前でねだる小さな子供とその母親。雰囲気を楽しむように辺りを歩いて回る老人。手を繋いだ若いカップル。様々な人がいる中で、一人の人物がこちらへ向かってきた。

 肩まででバッサリと切り揃えられた向日葵色の髪に、どこかの学校の制服のような、セーラー風の服と丈の短いスカート。見るからに明るく活発な雰囲気のするその少女の名はエリシアという。

 彼女は両手にストローのついた容器を持ち、不機嫌そうな表情で僕の前に立った。

そして右手のカップをこれまた不機嫌そうに差し出す。

「はい。買ってきたわよ。これでいいんでしょ。」

「うん。ありがとう。」

早速ストローに口をつける。飲むと一瞬で口の中に爽やかな味わいが広がったかと思うと後から独特な香りが追ってくる。

「う~んおいしい。やっぱ祭りといったらこれだよね。」

「はぁ。」

エリシアは溜息をついた。

「あのさぁ、こんなところで油売ってていいわけ?私達エルフィーネを探すんじゃないの?」

「そうだよ。」

「じゃあどうして祭りなんか満喫しちゃってるのかなぁ?」

エリシアはかなり苛立っている。

「いいんだよ。これも必要なことだから。」

もう一口飲む。うまい。独特な味わいが癖になる。

「はぁ?これが必要なことですって?わけ分かんない。そんなこと言うなら私もう帰るからね。」

彼女はそう言うがそれを真に受ける必要はない。彼女だって相応の覚悟をして旅にでたはずであり、こんなことで諦めるはずがないのは分かっているから。

 エリシアにあの光景を見せてから一週間が経つ。あの後すぐに彼女と旅に出たわけではない。彼女には一週間の時を与えた。旅に出るための準備と覚悟、そして、親しい者に別れを告げるための時間を。

その一週間で何があったかは知らない。彼女がどんな覚悟をし、どんな別れをしたのかも。しかしこれだけは分かる。彼女はこの一週間で何かを決意し、覚悟を決めたのだと。彼女の目には一週間前のあの時とは違い、確固たる意志が宿っていた。

「分かったよ、言うよ。ここへ来たちゃんとした理由を。もちろん遊びに来たわけじゃない。ここへ来たのは光の神殿の大司祭様に会うためだよ。」

「光の神殿の大司祭様?」

「君も噂くらいは聞いたことあるでしょ。」

「もちろん。この人に知らないことは何もないと謳われるほど博識な方で、神殿に訪れる数多の人の悩みをその知識と叡智で解決していったことから、人々からは光の賢者とも呼ばれているとか。彼の噂はこの聖都リシュエルだけでなく、広く外の世界にも知れ渡り、各地から相談に来る人が後を絶たないという。」

「なんだ、よく知ってるじゃないか。」

「でも、それももう遠い過去の話。光の大司祭様もかなりの年だし、よっぽどのことがない限りお目通りは適わないって聞くけど。」

「普段はそうみたいだけどね。でも今日は一年に一度の特別な日。人数に限りはあるようだけど、今日だけどんな人でも大司祭様が悩みを聞いてくれるって話だよ。」

「そうなんだ。でもそれであなたは大司祭様に何を話すのよ?あっ、まさかエルフィーネの正体とかそんなこと?」

「まあ、そんなとこかな。」

エリシアの表情が曇る。

「いやぁ、流石に大司祭様でもそんなことまでは知らないでしょ。訊くだけ無駄じゃない?」

「無駄かどうかは実際に訊いてみないと分からないでしょ。」

「う~ん、まあそうだけど・・・。」

渋々ではあるが彼女は納得したようだった。

隣に座り、ストローに口をつける。その途端表情がぱっと明るくなる。

「何コレおいしい!!」




 混沌戦争の折、古くからあるこのリシュエルに、カオスの生み出した魔物が大群で押し寄せてきた時、故郷を守るために必死に戦っていた人間達に光の大精霊クレイス・モナードは加勢した。魔物と人間との力の差は歴然で、そのままでは人間達に勝ち目はなかったが、クレイスの放った浄化の光によって魔物達はたちまち一掃され、人間達はほとんど犠牲を出さずにこの地を守ることができたという。それ以来人々はこの地、リシュエルを偉大なる精霊の住まう『聖都』とし、名前をただのリシュエルから聖都リシュエルに改めた。

そういう言い伝えのあるこの都市には当然のように光の大精霊──クレイス・モナードを祀る神殿がある。そこで祭事を取り仕切る光の大司祭はこの都市に暮らす人々が尊敬するに値する人物である・・・・・・はず。

 だがそのイメージはどうやら間違いのようだ。

光の神殿に入れるのは昼からだというので昼までエリシアと雑談などして時間を潰し、太陽が空の真上に昇った直後に急いでやってきたから一番乗りと思ったのだが、残念なことに先客がいた。

そして今、その先客と光の大司祭は何やら言い争っていた。

「おいじいさんどういうことだよ、今は教えられないって。教えてもらいたければ夜になってから来いなんてふざけてるぜ。俺達が一番乗りで来たってのに何で他の奴らより後回しにされなきゃなんねーんだ。夜になって話したら何か変わるのか?今でも後でも変わらねーなら今教えてくれよ。なぁ?」

荒々しい口調で話しているのは、漆黒の鎧に身を包んだ長身の男である。男は白布の掛かった長机の後ろに座っている老人──光の大司祭だろう──の前に彼を見下ろすようにして立っている。そしてその右隣にもう一人。男の連れだろうか、長い青い髪を赤い紐リボンで結んだ少女(年はエリシアと同じくらい)がいた。少女の方は別に怒るでもなく、二人のやり取りを静観している。

「じゃから言っておるじゃろう。夜にまたここへ来れば、その時じっくり話してやると。」

光の大司祭は立派に伸ばした白い顎髭を手でさすりながら言った。

「どうして今じゃダメなんだ?」

男が凄む。

「物事には優先順位というものがある。ワシとて暇ではないからの。お前さん達のような者は後回しにすることに決めておるんじゃ。」

「ちっ、面倒くせぇな。もういいっ。話の分からないじいさんだぜ。」

男は悪態をつきながら神殿を後にする。男の非礼を侘びるように、優雅に一礼してから、少女も男の後を追うようにして出ていった。

二人が去ってからやっと僕等の存在に気がついたのか、頑固な老人は僕等に声をかけた。

「お前さん達、待たせたな。で、このワシに訊きたいことは何かな?」

「僕達、曙光の英雄伝説に登場するエルフィーネの正体について知りたいんです。教えてくれますか?」

言った途端、開いてるのか閉じてるのか分からない光の大司祭の瞳がカッと見開かれた。

「なにっ。エルフィーネじゃとっ。悪いがその話は後じゃ。さっきの話を聞いていたなら分かると思うが、物事には優先順位というものがあるんじゃ。どうしても知りたければ日が落ちてから来るんじゃな。」

「夜なら教えてくれるんですか?」

「そう言っておる。ほら、後がつかえとるんじゃ。用が済んだならさっさと帰った帰った。」

老人はしっしっと追い払う仕草をした。

ここで強引に押し通そうとしても無駄なのは先客とのやり取りで分かりきっている。ここは素直に引いた方が得策だろう。

「分かりました。また後で来ます。」

明らかにふて腐れ、今にも文句の一つでも言いだしそうなエリシアの手を引っ張り、僕等は神殿を後にした。

「しかし、まさか続けて同じことを訊かれるとは。これは伝説の導きかもしれんのぅ。」

???

立ち去り際、光の賢者は気にかかることを呟いた。






 「折角早く行ったのに、こんなのってないよ~~~。」

エリシアは不満を漏らした。

日が暮れるまで待つしかないので、僕等は広場の隅にあるベンチに座って時間を潰すことになる。

「仕方ないよ。話を聞いてくれるだけでもありがたいと思わなきゃ。別にいいじゃない。今日は祭りの日だし。祭りを長く満喫できると思えば悪くない。」

「よくなぁぁぁぁーーーーーいっ。」

エリシアはいきなり大声をあげると共に立ち上がり、目の前に立った。

お祭り騒ぎの中だったのであまり目立たなかったものの、それでも周辺にいる人々はこちらに好奇の視線を向けた。

「ど、どうして?」

「だって今日、まだ私達何もしてないじゃない!!こうしてる間にも、この世界は少しずつ消えていってるんだよ?」

「うん、だから?」

「このまま世界が消えちゃったら、エルフィーネを探すどころじゃなくなっちゃうよ。だから早くしないと。」

「どうしてそう悪い方に考えるの?世界統治機構が解決に乗り出してるんだから、解決するのは時間の問題でしょ。焦ることなんてないよ。」

「そんなこと言っても、もし世界統治機構が解決できなかったらどうするのよ?」

「そんなことあり得るのかな?」

世界統治機構は大いなる│星の遺産マグナ・ステラから得た膨大な叡智と技術を結集した世界最高の統治機関だ。世界統治機構に解決できないことなどないといっていいだろう。

「あり得るかもよ。だって、あなたの言う通りならアレは一ヶ月以上も前から存在してるんでしょう。すぐに対処できるならとっくにしてるはずよね。それこそあなたや私に見つからないうちに。それができてないってことは、世界統治機構もかなり手こずってるってことじゃない?」

彼女の言うことにも一理ある。世界統治機構にしては確かに時間がかかりすぎている。

「言われてみればそうだね。だけど、世界統治機構がどうにかできないものを僕らがどうこうすることはできないだろう。だから考えても仕方ないよ。大人しく世界を救うのは彼等に任せて僕らはやりたいことをやればいい。」

「いや、世界統治機構なんかに任せなくても何とかできるかも知れないよ。私達だけで。」

「うん?」

「アレを使うのよ。」

「アレって?」

「もう、鈍いなぁ。アレといったら今私達が探してるアレのことよ。分かるでしょ。」

「エルフィーネのことか。確かにエルフィーネの力があればこの世界を救えるかもしれないね。」

「でしょっ。エルフィーネの力があれば、きっとこの世界を元通りにできるはず。」

なるほど。今朝から彼女が苛立っていた理由が今分かった。エリシアは一刻も早くエルフィーネを手に入れて、世界を救おうと考えていたのだ。

「でもそう上手くいくかな?エルフィーネの力が伝説の通りなら、この世界を救えても元通りにはできないかもしれない。」

「えっ。どうして?」

エリシアはきょとんとした。

「伝説では、エルフィーネの力は滅びかけたこの世界を変えたとある。つまり一度終わりかけた世界を別の世界へと生まれ変わらせることで世界を救ったと解釈できる。だから、エルフィーネの力を使ったら、世界は救えるけど今まで

とは全く違う世界になるんじゃないかって、そういうこと。」

「ああ、確かに。でもそんなのやってみなきゃ分からないじゃない。もしかしたら世界を変えずに、元通りにできるかもしれない。だから私はやる。そう決めたの。」

「そう、エルフィーネを見つけたら、躊躇なく使うんだね。その力を。この世界のために。」

「そ、そうだけど。何か文句ある?あなたは別にエルフィーネが欲しいんじゃなくて、その正体が知りたいだけなのよね。だったら正体を確かめた後、私が使っても問題ないでしょ?」

「もちろん、構わないけど。立派な志だね。流石は英雄の末裔。考えることが違う。」

「もうっ、茶化さないでよ。私は私なりにできることをしようと思っただけ。ただそれだけよっ。」

エリシアは頬を真っ赤にしながら言った。

自分のためではなく、世界のためにというのがいかにも彼女らしい発想だと思った。

「ねぇ、エリシアはこの世界が好き?」

「い、いきなり何よ。」

エリシアはたじろいだ。

「いいから答えてよ。」

「う~ん、そんなこと訊かれてもねぇ、この世界が好きか嫌いかなんて考えたことないから分からないよ。っていうかどうしてそんなこと訊くの?」

「君がこの世界を救いたいって言ったからだよ。何も変化させずに。」

「なるほど。」

彼女は納得したようだった。

「もし好きじゃなかったら変えてもいいんじゃない?今よりもっと面白い世界に。僕だったらそうするけど。」

「うーん、それはそれでどうかと思うけど。今とは全く違う世界になっちゃったら困るだろうし、やっぱ元のままがいいと思う。」

「つまらないなぁ。」

「うるさいなっ。別にいいでしょ。第一どんな世界にしたいかなんて思い浮かばないし。というかいつの間にこんな話になっちゃったんだろ。疲れたし喉渇いたから飲み物買ってくる。」

エリシアは手でパタパタと顔を扇ぎながら屋台の方へ向かっていった。

 その間、広場に所狭しと並んでいる屋台を行き交う人々をぼんやりと眺める。

この世界は緩やかに終わりを迎えようとしている。それをまだここにいる人達は知る由もない。知ることになる時にはもはや手遅れかもしれない。それとも危機を知らないまま何事もなかったかのように危機は去ってしまうのか。

滅亡か存続か。どちらに転ぼうが自分のやることは変わらない。この世界に興味があることがある。それならその興味に忠実に従う。この世界がどうなろうと最後まで純粋に楽しみたい。それが僕とエリシアの違いだ。

そんなことを考えていると、見覚えのある二人組を見つけた。先ほどの漆黒の鎧を着た男と青髪の美少女。男は身長がかなり高く、人混みの中でも頭一つ抜けているのですぐに分かった。

二人は広場をぶらりと歩きながら屋台を見て回っている。

美少女が一軒一軒屋台の前で立ち止まり、物珍しそうに商品を眺めている横で、男の方はいかにも興味なさげな様子で、欠伸をしながら気怠げに明後日の方向を見ている。

恐らく朝から何度も見て回ったのだろう。

あの二人も夜まで時間を潰さなくてはいけないから大変だ。

ん、待てよ。そこでさっき光の大司祭がポツリと呟いた言葉を思い出した。

確か続けて同じことを訊かれるとはとか言っていたな。と、いうことはまさか・・・・・。

 「ちょっと大丈夫?ヘンな顔してたけど。何かあったの?」

その時、エリシアが戻ってきた。

「いや、なんでもないよ。」

「ふーん、そう。まっ、いいや。ほらあなたの分も買ってきたよ。喉渇いたでしょ。」

エリシアは飲物の入った容器を差し出す。今朝買ってきたものと同じ奴だった。

てっきり自分の分だけかと思ったら、まさか僕の分も買ってきてくれるとは。エリシアは優しいなと思った。






 空が薄墨をこぼしたような色に変わり、家々や街路に照明の│紋様ルーンによる明かりがつき始めた。夜になっても祭りの熱狂は冷めるどころか更に盛り上がり、広場は昼間より多くの人で賑わっている。催し物もこれからが本番といったところだろう。

思わず目的を忘れそうになるほど楽しんでいた僕等は、慌てて神殿へと向かった。

内部は暗く、机の両脇に置かれた篝火の明かりだけが室内を照らしている。

 見ると先程の二人が既に到着していた。二人は机の前に並んで立ち尽くしている。もう相談は終わったのだろうか?

「なんだ、俺達の他にもう一組来るっていうから待ってたが、お前らか。」

漆黒の鎧の男は僕達に気付くと振り向いて言った。

その隣で少女は愉しそうに笑みを浮かべている。

「やあ、また会ったね。」

「いいから早く来いよ。全員揃わねーと始められないんだとよ。」

男が急かすので僕等は急いで机の前に行き、男達の左横に並ぶ。

光の大司祭は無言で鎮座している。パチパチと炎が爆ぜる音が聞こえる。

「これで、揃ったな。」

光の大司祭が重々しい声を発する。どこか緊張しているように思える。

「ああ揃ったぜ。さあ話してくれよ。あんたの知ってることをよ。」

男が興奮気味に促す。

「まずその前に、昼間の無礼を侘びねばならん。昼間はお前達にぞんざいな態度を取ってしまって申し訳なかったのぅ。どうしても他の者に聞かれたくはなかったのでな。お前さん達だけに話したかった。その口実としてあんなことを言ったのじゃ。」

光の大司祭はゆっくりと立ち上がり、頭を軽く下げ、非礼を侘びた。

昼間の態度は芝居だったというわけだ。本来は噂通りの誠実な性格なのだろう。

「まさか、ワシの代で来るとはな。実はお前さん達にこれから話さなければならんことがある。」

老人は長く伸びた白髭を手でさすりながら、感慨深そうな目で遠くを見つめる。

「この光の神殿に代々伝わる言い伝えじゃ。ここに、エルフィーネについて尋ねる者がやってきた時、話すよう伝えられていた。」

そうして、聡明な老人は語り始めた。

 ──この世界が再び黒き混沌の繭に覆われ、終焉へと向かうとき、伝説に導かれた者達がこの光の神殿へと集う。

 その者達こそ、セファリス因子を持つ者。彼等彼女等はエルフィーネを求めて旅立ち、この世界を新たな姿へと甦らせるだろう───

「へっ、どんな話かと思えばとんだ笑い話だな。俺達はただの酔狂で曙光の伝説に登場するエルフィーネとやらを探してるにすぎないんだぜ。そんな俺達がまさか世界を救う英雄だってのか?馬鹿げてるぜ。」

「どうやら信じていないようじゃのう。」

光の大司祭は左手で長く伸びた髭をさすりながら言った。

「ハッ。当たり前だ。そんな言い伝えがあるからどうしたってんだ。俺らがあんたが言う、セファリス因子を持つ者だって言うのなら、証拠を見せて貰おうじゃねーか。そうじゃなきゃこんな馬鹿げた話、信用できねーぜ。」

随分な物言いだが、男の言い分は間違っていない。

「証拠か。いいじゃろう。ならば見せてやろう。」

光の大司祭はなにやら机の下から黒い長方形の箱を取り出すと、パカッと蓋を開けた。

覗き込む一同。そこには正六角錐の灰色の石が入っている。

「何なんだコレ。」

「誰かこの石の上に右の手の平をかざしてみなさい。」

 そこですかさず僕が手をかざすと、その石は眩いばかりの光を放った。それと同時に右腕の甲が焼けるように熱くなり、謎の石と同様に眩い光を放つ。ただ一つ違うのは光の色。謎の石からは青白い光が放たれているのに対し、僕のそれからは虹色の光が放たれている。よく見るとそこには鳥の羽を模したような紋章が浮かび上がっていた。

「うおっ。何だこれ。」

「なになにー!?」

「うわあすごい。」

 他の三人も同じ状況のようだ。反応もそれぞれに、皆自分の右手の甲を見つめている。そこには僕と同様の紋章が浮かんでいた。

それから少し経って反応は収まり、神殿内は何事もなかったように静まり返った。

「私達の身に一体何が起きたの?こんな紋章なんて刻んだ覚えはないんだけど。」

今はもう紋章が消えた右手の甲をまじまじと見つめたまま、エリシアが訊ねる。かなり動揺しているのか、タメ口になっているのに気付いていない。

「共鳴反応じゃよ。セファリス因子を持つ者のみに起こる。この石はエピロフストーンといってな、セファリス因子を持つ者かどうかを確かめる装置のようなものじゃ。」

説明しつつエピロフストーンとやらを大事そうに箱にしまい机の下に置く光の大司祭。

「あの、そのセファリス因子って何ですか?」

ここで、青髪の少女が初めて口を開く。その声は鈴の音のように透き通っていた。

「セファリス因子というものがどういうものかは残念ながらわしも知らないが、言い伝えによると、セファリス因子を持つ者にしかエルフィーネの力を引き出すことができないと言われておる。」

「つまり、セファリス因子を持つ僕等にしかこの世界を救えないということですね。」

「うむ、その通りじゃ。お前達はいわば選ばれし者達なのじゃ。」

老人は得意げに髭をさする。それが癖なのだろうか?

「もう選ばれし者でも何でもいいけどよぉ、どうせやることは変わらねーんだ。さっさとエルフィーネについて教えてくれねーか?」

漆黒の鎧の男の言う通りだった。

「そういえばお前さん達が知りたいのはそのことじゃったな。肝心の話の前にお前さん達に自分が背負う使命を自覚して貰いたかったんじゃ。」

「ズバリ、エルフィーネの正体は何なのですか?」

エリシアが先を急かす。彼女も自分に課せられた使命よりそちらの方が気になるようだ。

「ふむ、エルフィーネの正体か・・・・・・それは・・・・・・・・・・・・・・ワシにも分からんっ。」

光の大司祭以外の全員が肩を落とした。

「ここまで引っ張っといて結局何も知らねーのかよっ。解散だ解散。夜まで待って損したぜ。とっとと帰ろうぜみんな。」

漆黒の鎧の男はさっと踵を返して神殿を後にしようとする。

「まっ、待つのじゃっ。確かにワシはエルフィーネについては何も知らないが、お前達に探す手掛かりを与えることはできるぞっ。」

「手掛かりだと?役に立たなかったら承知しねーからな。」

男は足を止め、こちらに戻ってきた。

「この聖都リシュエルから真っ直ぐ東へ行った先にある森の中に、古代の遺跡がある。そこにエルフィーネにまつわる何かがあるらしい。一度行ってみるといいだろう。地図ならここにある。」

光の大司祭が取り出したのは、今にもボロボロと崩れてしまいそうなほど古い紙に、手書きで書き込んである地図だった。

「相変わらずうさんくせー話だな。」

そう言いつつも男は地図を引ったくるようにして奪い取り、懐へとしまい込んだ。






 「ね、言ったでしょ。いくら聡明な光の大司祭様でも流石にエルフィーネの正体まで知ってるわけないよ。」

神殿を出てからエリシアが言った。

「でも、無駄足ではなかった。一応エルフィーネにつながる手掛かりを得られたわけだし。」

「そうね。だけどその手掛かりもあの地図がなければ意味ないし。失礼な鎧のおっさんに地図を奪われたのは痛いわね。まだ近くにいないかな・・・・。」

エリシアは深い溜息をついた。

「よぉ、今俺のこと呼んだか?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」

エリシアは悲鳴に近い叫び声をあげた。

噂をすれば影だ。先に神殿を出たはずの二人がいつの間にか僕達の真横にいた。

「驚かさないでよもうっ。」

「お前らもエルフィーネを探してるんだよな?だったらこれが必要だろ。」

怒るエリシアを無視して男は鎧の中から先ほどの地図を取りだして僕の眼前でヒラヒラしてみせる。

「くれるのそれ?」

「ああ、くれてやる。」

言った瞬間エリシアが餌に飛びつく犬のようにさっと手を伸ばして地図を取ろうとしたが、男が手を引っ込めたためにそれは虚しく虚空を掠める。エリシアは恨めしそうに男の顔をキッと睨みつける。

「ただし、条件つきでな。」

「条件?」

「俺達と手を組め。そうしたらこの地図はお前らにくれてやるよ。」

「なるほど・・・・・手を組む、か。いい案だね。でもどうして急に?まさか光の大司祭が言ってた使命というのを気にして?」

「別にそんなんじゃねぇよ。ライバルは少なければ少ない方がいいからな。目的は知らないがお前達も俺達同様エルフィーネを探しているんだろう?このままお互いが別々にエルフィーネを探したらどうなるか?答えは簡単。早い者勝ちの競争になる。つまりは敵同士になるわけだ。そうなるくらいならいっそのこと手を組んだ方がいいと思っただけだ。」

「なるほどね。」

「なーに、お前達にとっても悪くない話のはずだぜ。探すなら人数は多いに越したことはない。情報を集めやすくなる上、二人でできないことも四人ならなんとかなることもある。それになによりこの俺が手を貸すんだから百人力だぜ。」

どうやらこの男はこう見えて合理的な考え方が

できるようだ。

「断る理由が見つからないな。いいよ。手を組もう。これから君達は僕等の仲間だ。」

ちょっと!!!!そんなよく考えもせずに返事していいの?信用できるのこの二人?と、隣でエリシアが慌てふためくが、もう言ってしまったのだから遅い。それに、断れば地図が手に入らないのだから仕方ない。

別にこれから男達と一緒に行動することに抵抗はない。旅は道連れというし、仲間が増えるのはむしろ歓迎だ。

「僕はライル。これからよろしくね。」

「俺はジェドだ。そしてこっちが──」

「私はミレーと言います。これからよろしくお願いしますね。」

青髪の少女は優雅に名乗る。その仕草には気品が溢れている。

僕とジェドは固い握手を交わした。

思わず自然な笑みがこぼれる。

エリシアとの旅の初日にもう仲間が二人も増えるなんて。これはとても幸先がいい。楽しい旅になりそうだ。

「えぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・。」

約一名そう思ってない人がいるようだが。

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